翼を探して

朝倉 玲

Asakura, Ley

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15

 雨が降っていた。

 気象庁は昨日、このあたりの梅雨入り宣言を出した。それを証明するみたいに、昨夜からずっと雨模様だ。

 みゅうが俺の元からいなくなってから、もう三日が過ぎた。俺はアパートの自分の部屋でベッドに寝転がって、ただぼんやりと考え続けていた。

 雨は降り続いている。耳を澄ましても、聞こえてくるのは雨音だけだ。自動車がしぶきを立てて走る音が時々混じる――。

 

 すると、静かな声がした。

「舜……」

 俺はベッドから跳ね起きた。

 思った通り、部屋にみゅうがいた。しょんぼりとたたずんでいる。

 いつもおしゃれなみゅうが、今日はいやにシンプルな格好だ。白いタンクトップにグレーのスカート。それでも、ちゃんと靴下で部屋にいるあたりが、いかにもみゅうらしい。

 みゅうがひどく悲しそうな顔をしているので、俺は何も言えなくなった。ただ、そばにいって抱きしめてやる。

 すると、みゅうは俺の胸に顔を埋めて笑った。

「やっぱり、舜のことはちゃんとさわれるね……。だけど、あたし、どこに行っても誰にも気がついてもらえなかったよ。何にもさわれないし、あたしの声は誰にも聞こえないし。あたしはなんにもできなかった。なのに……やっぱり翼は見つからないの。ずっとずっと探したのに……一生懸命探したのに……それでも、どうしても翼が見つからないのよ!」

 わあっと声を上げてみゅうが泣きだした。俺の腕の中でみゅうの体が震えている。みゅうは決して濡れることがないのに、雨でずぶ濡れになった猫のようだった。行き場所のない迷子の仔猫――。

 俺はみゅうの髪に頬を寄せて、愛おしく抱きしめ続けた。

 みゅうの泣き声はやまない。

 頼む、このまま俺のそばにいてくれ。喉元まで出かかったそのことばを、俺は呑み込む。

 このままじゃだめなんだ……このままじゃ。このままでいたって、みゅうは絶対に幸せになれないんだ……。

 俺はみゅうをいっそう強く抱きしめた。ぬくもりを感じないみゅうの体は、そこにあるのに、ひどく頼りない。

 

 俺はみゅうの両肩をつかむと、思い切って俺から引き離した。

 みゅうの顔をのぞき込んで言う。

「来い、みゅう。おまえが行くべきところに連れていってやるから」

 えっ? とみゅうが涙のたまった目を丸くした。とまどったように俺を見る。

 そんなみゅうの手を引いて、俺は部屋を出た。アパートからも飛び出して表通りへ走る。

 あ、いけね。みゅうと手をつないでいると、俺は見えないんだ。タクシーがつかまえられないぞ……。

 俺が手を離すと、みゅうは立ち止まって、びっくりしたように言った。

「急にどうしちゃったの、舜? どこに行くの? あたしが行くべきところって、いったい――」

 俺はみゅうを振り向いた。もしかしたら、俺は泣きそうな顔をしていたのかもしれない。みゅうがいっそう驚いた表情になる。

「おまえが探していたものがあるところだよ、みゅう」

 俺は、そう言った――。

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