雨が降っていた。
気象庁は昨日、このあたりの梅雨入り宣言を出した。それを証明するみたいに、昨夜からずっと雨模様だ。
みゅうが俺の元からいなくなってから、もう三日が過ぎた。俺はアパートの自分の部屋でベッドに寝転がって、ただぼんやりと考え続けていた。
雨は降り続いている。耳を澄ましても、聞こえてくるのは雨音だけだ。自動車がしぶきを立てて走る音が時々混じる――。
すると、静かな声がした。
「舜……」
俺はベッドから跳ね起きた。
思った通り、部屋にみゅうがいた。しょんぼりとたたずんでいる。
いつもおしゃれなみゅうが、今日はいやにシンプルな格好だ。白いタンクトップにグレーのスカート。それでも、ちゃんと靴下で部屋にいるあたりが、いかにもみゅうらしい。
みゅうがひどく悲しそうな顔をしているので、俺は何も言えなくなった。ただ、そばにいって抱きしめてやる。
すると、みゅうは俺の胸に顔を埋めて笑った。
「やっぱり、舜のことはちゃんとさわれるね……。だけど、あたし、どこに行っても誰にも気がついてもらえなかったよ。何にもさわれないし、あたしの声は誰にも聞こえないし。あたしはなんにもできなかった。なのに……やっぱり翼は見つからないの。ずっとずっと探したのに……一生懸命探したのに……それでも、どうしても翼が見つからないのよ!」
わあっと声を上げてみゅうが泣きだした。俺の腕の中でみゅうの体が震えている。みゅうは決して濡れることがないのに、雨でずぶ濡れになった猫のようだった。行き場所のない迷子の仔猫――。
俺はみゅうの髪に頬を寄せて、愛おしく抱きしめ続けた。
みゅうの泣き声はやまない。
頼む、このまま俺のそばにいてくれ。喉元まで出かかったそのことばを、俺は呑み込む。
このままじゃだめなんだ……このままじゃ。このままでいたって、みゅうは絶対に幸せになれないんだ……。
俺はみゅうをいっそう強く抱きしめた。ぬくもりを感じないみゅうの体は、そこにあるのに、ひどく頼りない。
俺はみゅうの両肩をつかむと、思い切って俺から引き離した。
みゅうの顔をのぞき込んで言う。
「来い、みゅう。おまえが行くべきところに連れていってやるから」
えっ? とみゅうが涙のたまった目を丸くした。とまどったように俺を見る。
そんなみゅうの手を引いて、俺は部屋を出た。アパートからも飛び出して表通りへ走る。
あ、いけね。みゅうと手をつないでいると、俺は見えないんだ。タクシーがつかまえられないぞ……。
俺が手を離すと、みゅうは立ち止まって、びっくりしたように言った。
「急にどうしちゃったの、舜? どこに行くの? あたしが行くべきところって、いったい――」
俺はみゅうを振り向いた。もしかしたら、俺は泣きそうな顔をしていたのかもしれない。みゅうがいっそう驚いた表情になる。
「おまえが探していたものがあるところだよ、みゅう」
俺は、そう言った――。