俺は結婚式場で警備員に捕まって、みゅうを見失ってしまった。
式場の責任者や警備員からたっぷり叱られたけれど、警察には通報されなかった。恋人と忍び込んで喧嘩になったあげくに逃げられた男と思われて、情状酌量されたんだ。
建物の外に出ると、もうみゅうはいなかった。
町中を歩き回り、海岸にも戻ったけれど、見つからない。
暗くなるまでずっと探したけれど、やっぱりみゅうはどこにもいなかった――。
俺は一人バスと電車を乗り継いで自分の街へ帰り着いた。雑踏の中にもみゅうの姿を探してしまう。
幽霊なのに自分を天使だと言い張るみゅう。おしゃれ好きで、誰にも見えないのに、しょっちゅう服を着替えて。
何もかも素通りしてしまう世界の中で、淋しそうに笑いながら翼を探し回って。
みゅう。おまえはもう自分の翼を見つけたのか? 追いかけてきた翼と、天国へ飛んで行ってしまったのか――?
胸の中がかきむしられるような気がして、いたたまれなくなる。
探しても探しても、みゅうは見つからない。それでも俺はあきらめきれない。街中をあてもなく歩き続ける。
すると、街角で急に声をかけられた。
「ああ、君。そこの青年」
俺を呼んでいるんだと気がつくのに、少し時間がかかった。
呼び止めたのは中年の女性だった。黒い上着とパンツを着て、大きなグレーの帽子をかぶって、鞄を持っている。顔にはレトロな丸めがね、左腕には蛇の形の派手なブレスレット。なんだか変わった雰囲気のオバサンだ。
関わらない方が良さそうだと考えて立ち去りかけると、また言われた。
「君は霊に取り憑かれているぞ。悪いことは言わない。早く離れた方がいい」
俺は、ぎょっと振り向いた。丸い眼鏡の奥から俺を見つめる目は、透き通るように薄い色をしていた。
とたんに俺の中で何かが切れた。人の多い通りだというのに、思わず大声でどなりかえしてしまう。
「その霊を探しているんだ! ほっといてくれ!!」
通行人がいっせいに俺を振り向いた。俺のことばを聞きとがめた奴らがひそひそと話し出す。
うるさい。こんなこと、いくら話したって誰にもわかるわけがないんだ! ほっといてくれ――!
ところが、俺の腕をつかんで引き止めたヤツがいた。
あのレトロ眼鏡のオバサンだ。
見透かすような目で俺を見ながらこう言う。
「どういうことか、詳しく話を聞かせてくれないかな……? ああ、申し遅れたね。私はこういう者なんだよ」
そう言って手渡してきた名刺には、こんな肩書きがあった。
『街角の占い師
――霊視・占い・除霊――』