でも、ぼくはすぐに自分で自分がおかしくなった。
急ブレーキの音を聞いただけで、さえちゃんが事故にあったんじゃ、なんて心配するなんて……
そんなこと、めったに起こるわけないのにさ。
だいたい、ぼくは今、さえちゃんと絶交してきたところだぞ。
やめた、やめた、ばかばかしい。さえちゃんなんか、関係あるもんか。
ぼくは今来た道に背中を向けると、まっすぐ自分の家へ走って帰った。
家に入ろうとすると、玄関のところで、靴をはいてるパパに出くわした。
「あれ、パパ。今日はもう帰ってきたの?」
ぼくは思わず期待しながらたずねた。
パパは仕事人間で、ぼくが朝起きる前に出勤して、ぼくが寝てしまってから家に帰ってくる。日曜日だって、なにかしら会社の用事があって出かけて行くんだ。
でも、こんな時間に家にいるってことは、今日はもう仕事が終わって、早く帰ってこられたのかな……?
でも、パパはぼくをちらっと見ただけで、冷ややかにこう答えた。
「用事があって抜けてきただけだ。これからまた、会社へ戻る。母さんからよく話を聞いておくんだぞ」
ネクタイを直しながらバス停に向かうパパの後ろ姿を、ぼくは少しの間見送って、ドアを閉めた。なんだか、思わずため息が出た。
台所に入っていくと、ママがエプロンで顔をおおって泣いていた。
ぼくはびっくりしてかけよった。
「どうしたの、ママ!? 大丈夫!?」
すると、ママがぼくに抱きついて言った。
「パパが……パパがね、アメリカに転勤になるのよ……! 8月になったら、私たちもアメリカに行かなくちゃならないんですって……!」
それだけを言うと、ママは声を上げて泣き出した。こんなママを見たのは初めてだった。
ぼくは、うろたえてしまって、言われたことの意味が、すぐには分からなかった。
アメリカに転勤……8月になったら、アメリカに行く……
ってことは……
転校する、ってこと? ……アメリカに!?
ぼくは突然理解した。
学校の友達と別れなくちゃいけないんだ! 夏休みの間に!! そんな――!!!
クラスの友達の顔が、次々に頭の中に浮かんできた。
その中でも一番大きく浮かんだのが、さえちゃんの顔だった。
どうしよう。
ぼうぜんと立ちつくしながら、ぼくは考えた。
さえちゃんとは、けんか別れしたままだ。
今すぐ、さえちゃんのところに戻って、アメリカへ行く話をしたほうがいいんだろうか。
それとも……
すすり泣くママの声を聞きながら、ぼくは考え続けていた。
→さて、このあと「ぼく」はどうするだろう?