もどる? もどらない?

朝倉 玲

Asakura, Ley

アサクラ私立図書館へ

第2章 光

 ぼくは、くるりと向きを変えると、全速力で今来た道を戻り始めた。

 さえちゃんにどなられたことも、顔をなぐられたことも忘れていた。

 道路の上に、さえちゃんが赤い血を流して倒れている。そんな光景が頭の中に浮かんできて、息が止まりそうになる。

 ええい、このお道具箱の袋、じゃまだ!

 ぼくは手に持った荷物をけとばしながら、公園の角を曲がり、その先の横断歩道をかけ抜け――

 

 ――ようとして、立ち止まった。

 横断歩道の向こう側に、さえちゃんが立っていた。

 両手に荷物の袋を下げて、ちょっと怒ったような顔のままで下を向いている。

 さっきの急ブレーキは何でもなかったんだ。

 すると、さえちゃんが顔を上げて、ぼくを見た。驚いたように目を丸くして、それから、また目を三角にして何かをどなろうとする。

 ぼくは何も言わずにうしろを向いて、そのまま、かけ去ろうとした。

 さえちゃんのことを本気で心配したのが馬鹿みたいで、なんだか自分で自分にすごく腹が立った。

 

 その時、さえちゃんのどなり声が聞こえてきた。 どなり声――いや、悲鳴だ。

「まことくん、あぶないっ!!!」

 えっ? と振り向いたとたん、ぼくの体にガーンと、ものすごいショックが走った。目の前がまっ白になって、上も下も分からなくなる。

 と、今度はものすごい痛みにおそわれて、息ができなくなった。

 たちまち、世界が暗くなっていく――

 

 そして、ぼくはそのまま、何も分からなくなってしまった。

 

 

 

 目が覚めると、そこは水色の世界だった。

 

 水色の世界、なんていうと変だけど、本当にそうなんだ。

 まわり全部が水色で、でも、空でも海でも湖でもない。

 建物の中でもないし、外にいるような気もしない。

 上も下も右も左も、ずうっとどこまでも、透きとおった水色の光でいっぱいだった。

 ここはどこだろう、ときょろきょろしていると、どこからかきれいな音楽が聞こえてきた。

 今まで聞いたこともない音だったけど、耳を澄ましていると、なぜだか心が落ち着いて、とても幸せな気持ちになってきた。

 遠くに星のような輝きが見えていた。金色の暖かそうな光で、ぼくを呼んでいるように見える。

 おいで、おいで、あなたの家はこっちよ……と、さっきの音楽が歌っているようだった。

 ぼくは思わず、金色の光に向かって歩き出した。

 1歩進むごとに、光が大きく明るくなっていく。

 

 そうか、あっちが出口なんだ!

 

 そう思って走り出そうとしたとたん、いきなりうしろから大きなしゃがれ声が響いてきた。

『おっと、よせよ! そっちへ行ったら帰ってこられなくなるぜ!』

 ぼくはびっくりして立ち止まった。

 でも、振り向いてみても見回しても、しゃがれ声の主は見あたらない。しばらく待ってみたけれど、声もそれ以上聞こえてこなかった。

 

 ぼくは、行く手で輝く金色の光をながめた。

 優しい音楽は、光の中から聞こえてくる。

 ぼくは、少しの間、考えて――

 

 

→さて、このあと「ぼく」はどうするだろう?

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B.戻らない

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