ぼくは、くるりと向きを変えると、全速力で今来た道を戻り始めた。
さえちゃんにどなられたことも、顔をなぐられたことも忘れていた。
道路の上に、さえちゃんが赤い血を流して倒れている。そんな光景が頭の中に浮かんできて、息が止まりそうになる。
ええい、このお道具箱の袋、じゃまだ!
ぼくは手に持った荷物をけとばしながら、公園の角を曲がり、その先の横断歩道をかけ抜け――
――ようとして、立ち止まった。
横断歩道の向こう側に、さえちゃんが立っていた。
両手に荷物の袋を下げて、ちょっと怒ったような顔のままで下を向いている。
さっきの急ブレーキは何でもなかったんだ。
すると、さえちゃんが顔を上げて、ぼくを見た。驚いたように目を丸くして、それから、また目を三角にして何かをどなろうとする。
ぼくは何も言わずにうしろを向いて、そのまま、かけ去ろうとした。
さえちゃんのことを本気で心配したのが馬鹿みたいで、なんだか自分で自分にすごく腹が立った。
その時、さえちゃんのどなり声が聞こえてきた。 どなり声――いや、悲鳴だ。
「まことくん、あぶないっ!!!」
えっ? と振り向いたとたん、ぼくの体にガーンと、ものすごいショックが走った。目の前がまっ白になって、上も下も分からなくなる。
と、今度はものすごい痛みにおそわれて、息ができなくなった。
たちまち、世界が暗くなっていく――
そして、ぼくはそのまま、何も分からなくなってしまった。
目が覚めると、そこは水色の世界だった。
水色の世界、なんていうと変だけど、本当にそうなんだ。
まわり全部が水色で、でも、空でも海でも湖でもない。
建物の中でもないし、外にいるような気もしない。
上も下も右も左も、ずうっとどこまでも、透きとおった水色の光でいっぱいだった。
ここはどこだろう、ときょろきょろしていると、どこからかきれいな音楽が聞こえてきた。
今まで聞いたこともない音だったけど、耳を澄ましていると、なぜだか心が落ち着いて、とても幸せな気持ちになってきた。
遠くに星のような輝きが見えていた。金色の暖かそうな光で、ぼくを呼んでいるように見える。
おいで、おいで、あなたの家はこっちよ……と、さっきの音楽が歌っているようだった。
ぼくは思わず、金色の光に向かって歩き出した。
1歩進むごとに、光が大きく明るくなっていく。
そうか、あっちが出口なんだ!
そう思って走り出そうとしたとたん、いきなりうしろから大きなしゃがれ声が響いてきた。
『おっと、よせよ! そっちへ行ったら帰ってこられなくなるぜ!』
ぼくはびっくりして立ち止まった。
でも、振り向いてみても見回しても、しゃがれ声の主は見あたらない。しばらく待ってみたけれど、声もそれ以上聞こえてこなかった。
ぼくは、行く手で輝く金色の光をながめた。
優しい音楽は、光の中から聞こえてくる。
ぼくは、少しの間、考えて――
→さて、このあと「ぼく」はどうするだろう?