ぼくは金色の光の方へ向き直った。
帰れなくなったって、かまわないや。
どうせ帰ったって、ろくなことが待ってないんだから。
さえちゃんはわけもなく怒ってて、ぼくの顔も見たくないなんて言うし、パパとママも、このごろけんかばかりしてるし。
人生なんて、きっとそんなものなんだ。
ろくでもないことや、つまらないことばかり起こって、いやなことをがまんしながら年をとっていって、最後には、ぼけた寝たきり老人になって死ぬんだ。
そんな世界に戻るより、こっちの方が、ずっとましさ。
ぼくは心を決めると、思い切って光の方へ歩き出した。
光はどんどん強くなって、あたり一面、水色から金色に変わっていった。
優しい音楽もますます大きくなっていく。
そして、やがて、光の中にきれいな花畑と大きな川が見えてきた。
川には舟が浮かんでいて、ぼくが乗るのを待っている。
ぼくは、舟に向かって走り出した――――
とたんに、あたりが真っ暗になった。
金色の光も川も見えなくなって、音楽が止まってしまう。
ぼくは、どっちへ行っていいのか分からなくなって、立ち止まって、やたらとあたりを見回していた。
何も見えない。
自分の体も、何も見えない――
すると、どこからともなく、またあのしゃがれ声が聞こえてきた。
『まったく、今どきの子どもにゃ若さがねえよなァ。10才やそこらで、自分の人生に悟りを開くんじゃねえっての。もう一度やり直すんだよ。もう一度。初めからな』
それと同時に、ぼくは誰かに背中をどんと突き飛ばされた。
ぼくの体が落ちる――
落ちる――
落ちる――・・・・・・
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