もどる? もどらない?

朝倉 玲

Asakura, Ley

アサクラ私立図書館へ

第3章 闇

 ぼくは金色の光の方へ向き直った。

 帰れなくなったって、かまわないや。

 どうせ帰ったって、ろくなことが待ってないんだから。

 

 さえちゃんはわけもなく怒ってて、ぼくの顔も見たくないなんて言うし、パパとママも、このごろけんかばかりしてるし。

 人生なんて、きっとそんなものなんだ。

 ろくでもないことや、つまらないことばかり起こって、いやなことをがまんしながら年をとっていって、最後には、ぼけた寝たきり老人になって死ぬんだ。

 そんな世界に戻るより、こっちの方が、ずっとましさ。

 

 ぼくは心を決めると、思い切って光の方へ歩き出した。

 光はどんどん強くなって、あたり一面、水色から金色に変わっていった。

 優しい音楽もますます大きくなっていく。

 そして、やがて、光の中にきれいな花畑と大きな川が見えてきた。

 川には舟が浮かんでいて、ぼくが乗るのを待っている。

 ぼくは、舟に向かって走り出した――――

 

 

 とたんに、あたりが真っ暗になった。

 金色の光も川も見えなくなって、音楽が止まってしまう。

 ぼくは、どっちへ行っていいのか分からなくなって、立ち止まって、やたらとあたりを見回していた。

 何も見えない。

 自分の体も、何も見えない――

 

 すると、どこからともなく、またあのしゃがれ声が聞こえてきた。

『まったく、今どきの子どもにゃ若さがねえよなァ。10才やそこらで、自分の人生に悟りを開くんじゃねえっての。もう一度やり直すんだよ。もう一度。初めからな』

 それと同時に、ぼくは誰かに背中をどんと突き飛ばされた。

 ぼくの体が落ちる――

         落ちる――

              落ちる――・・・・・・

 

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