「純粋なエネルギー生物ならば、その姿は見えない。でも、ライトパンサーはエネルギーの一部を光に変換して、緑色の豹になった」
とビオは話していた。
「メルにも特殊能力があってね。家族と動物相手なら、テレパシーが使えたんだ。人見知りする子だったから、よその人には通じなかったけど。ライトパンサーはメルの言うことを聞いたんだ、とぼくは直感したよ。メルは食われてしまったけど、精神はライトパンサーの中で生きているんだ、ってね」
操縦席のモニターの中、光の豹は走る。この船に向かってまっすぐと。
それを見ながら、ビオが話し続ける。
「以来、ライトパンサーは必ず人のいる場所を襲うようになった。星間航行船、宇宙ステーション、有人惑星……。姿が見えるから、人は事前に脱出できるけれど、襲われた場所は全部食われた。あいつは、ぼくを捜しているんだよ。自分を置き去りにして一人で逃げた、薄情な兄貴をね」
そんな、とあたしは言った。
「どうしようもなかったじゃない。それはビオのせいじゃないわよ」
すると、ビオは頭を振った。
「薄情なんだよ。だって、ぼくはずっとあいつから逃げ続けたんだから。ホロビジョンは怖くて見られなかった。しょっちゅうニュースや特別番組にあいつが映ったからね。あいつを考えることも、しないようにしていた。テレパシーで気がつかれそうな気がしたから。でも、あいつはいつの間にか、ぼくのいる場所に迫ってきた。そのたびに、ぼくは別の星に逃げたんだ。あれはメルだってわかっていたのに」
ビオはどこかがひどく痛むような顔をしていた。この人はずっと、こんな気持ちで生きてきたんだわ。生き残ってしまった自分、生き延びてしまった自分を責めながら――。
「だけど、2か月前」
ビオの思い出話は続いていた。
「また悲劇が起きた。ぼくのいた惑星が襲われて、逃げ遅れた住人があいつに食われたんだ。貧しい星だったから、脱出艇に乗れない人が大勢いたんだよ……。でも、ぼくは船で逃げられた。そうしたら、惑星が消滅した瞬間に、またメルの声が聞こえたんだ。『どこにいるの?』って。『どうしていなくなっちゃうの? あたしを置いていかないで』ってね。泣いているような声だった――。ぼくはあいつが恨んでいるんだとばかり思っていた。薄情なぼくに怒って、復讐しようとしているんだろうと。でも、そうじゃなかったんだ。メルはひとりぼっちにされたのが淋しくて淋しくて、それで、ぼくの後を追ってきていたのさ。それなのに、ぼくは逃げていた。ぼくは、メルの兄貴だったのに」
ビオが目を閉じた。
あたしは何も言えなかった。本当は何か言ってあげたかったのに、言うべきことばが思いつかなかった。こらえるように拳を握っている彼を、ただ見つめる。
すると、ビオが急に目を開けて、計器を見た。
「到着まであと8分か。ちょっと長く話しすぎたな。急がないと」
あたしはふいに不安になってきた。
「急ぐって、何を? 何をするつもりなの、ビオ?」
あたしが尋ねると、彼は、ほほえんだ。
「ぼくはメルに会いに来たんだよ。これを持ってね」
そう言ってビオが開けてみせた鞄には、クッキーの袋がぎっしり詰まっていた――。