「どういうこと?」
と、あたしはビオに聞いた。
「ライトパンサーがあなたの命令を聞いたわよ。あなた、ライトパンサーの飼い主なの?」
とたんに青年が苦笑した。
「違うよ。あれは――ぼくの妹なんだ」
あんまり意外な答えに、あたしはぽかんとビオを見てしまった。だって、どう見たって、この人は人間……
モニターの中でライトパンサーがあたりを見回していた。やがてまた宇宙の中を駆け出す。まっすぐこの船に向かって。
ビオはパネルを操作して計器に数字を出すと言った。
「あいつがここに到着するまで、あと27分か。少し話をしても大丈夫そうだな。聞いてくれるかい、シシィ?」
「もちろん」
あたしはうなずいた。
ビオが話し出した――。
「今から十二年前のことになるな。ぼくの両親が事故で死んで、ぼくは妹とカストル星系の親戚に引き取られることになったんだ。妹はメルって言って、九歳だった。ぼくは十一歳。船の中で毎日二人で遊んでいたよ。なにぶん子どもだったからね。悲しむのより、退屈な長旅をどうにかするほうが大事だったんだ。あの日も、ぼくらは遊んでいた。いや、正確には、ぼくが妹をからかっていたんだ。メルが大事にしていたキャンディーの形の髪飾りを持って、船中逃げ回っていたのさ。メルが泣きながら怒って追いかけてくるのが面白くてね。そのうちに、思いついて、船の脱出ポッドに隠れたんだ――」
青年の顔と声は静かだった。そんなやんちゃ坊主だったなんて、今の姿からは想像がつかない。
すると、ビオは手元のパネルにちょっとさわって見せて、ほほえんだ。
「ぼくは船の操縦席なんて初めてだよ。でも、どんな機械でも、ぼくにはすぐに操作のしかたがわかってしまうんだ。超能力ってほどのものじゃないんだけれど、ぼくの故郷の星にはわりとよくいるんだよ。ちょっとした特殊能力をもつ人間がね。で、ぼくはその力で脱出ポッドの中に隠れた。非常事態にしか絶対に開かないポッドだから、誰も気がつかなくてね。もちろん、メルもぼくがそこにいるなんて思わなかった。ぼくを捜すメルの声を聞いて笑っているうちに、ぼくはポッドの中で眠ってしまったんだ」
ビオは、ちょっと口をつぐんだ。つらいことを思い出すみたいに、眼鏡の奥で目を細める。
「その間に、ライトパンサーが船に近づいていたのさ――。当時、あいつは目には見えない純粋なエネルギー生命体だった。近づいてくるまで計器にも感知されないから、気がついたときにはもう手遅れだったんだ。あいつから逃げることができなくて、乗客と乗組員は次々にポッドで脱出していった。あの頃のポッドは一人乗りでね。そこにパニックになった人々が殺到しては飛び乗っていた。ぼくも騒ぎで目を覚まして、窓からその様子を見た。メルを探さなくちゃ――と思った瞬間、ぼくのポッドが発射されたんだよ。中にぼくが乗っていたから、射出装置が作動してしまったんだ。船に乗員全員の分のポッドはなかった。ぼくを捜し回っていたメルは、ポッドに乗り損ねて、ライトパンサーに食われた。逃げ遅れた乗客と一緒にね」
あたしは何も言えなかった。その悲劇なら、あたしも知っている。ビオは、その事件の生き残りだったんだわ……。
「脱出しても、救出されるまでには少し時間がかかった。ぼくはポッドの中で泣いて、泣き疲れて眠って、また目を覚まして泣いて。そのうちに、夢うつつでメルの声を聞いたんだ。メルは言っていた。『ライトパンサーって、光の豹っていう意味よね? じゃあ、豹の恰好をしてなかったら変だわ』ってね。そして――本当にライトパンサーの姿が変わったんだ」
そう言って、青年はモニターに映る光の豹を見上げた。