ライトパンサー

朝倉 玲

Asakura, Ley

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5

 「どういうこと?」

 と、あたしはビオに聞いた。

「ライトパンサーがあなたの命令を聞いたわよ。あなた、ライトパンサーの飼い主なの?」

 とたんに青年が苦笑した。

「違うよ。あれは――ぼくの妹なんだ」

 あんまり意外な答えに、あたしはぽかんとビオを見てしまった。だって、どう見たって、この人は人間……

 モニターの中でライトパンサーがあたりを見回していた。やがてまた宇宙の中を駆け出す。まっすぐこの船に向かって。

 ビオはパネルを操作して計器に数字を出すと言った。

「あいつがここに到着するまで、あと27分か。少し話をしても大丈夫そうだな。聞いてくれるかい、シシィ?」

「もちろん」

 あたしはうなずいた。

 ビオが話し出した――。

 

「今から十二年前のことになるな。ぼくの両親が事故で死んで、ぼくは妹とカストル星系の親戚に引き取られることになったんだ。妹はメルって言って、九歳だった。ぼくは十一歳。船の中で毎日二人で遊んでいたよ。なにぶん子どもだったからね。悲しむのより、退屈な長旅をどうにかするほうが大事だったんだ。あの日も、ぼくらは遊んでいた。いや、正確には、ぼくが妹をからかっていたんだ。メルが大事にしていたキャンディーの形の髪飾りを持って、船中逃げ回っていたのさ。メルが泣きながら怒って追いかけてくるのが面白くてね。そのうちに、思いついて、船の脱出ポッドに隠れたんだ――」

 青年の顔と声は静かだった。そんなやんちゃ坊主だったなんて、今の姿からは想像がつかない。

 すると、ビオは手元のパネルにちょっとさわって見せて、ほほえんだ。

「ぼくは船の操縦席なんて初めてだよ。でも、どんな機械でも、ぼくにはすぐに操作のしかたがわかってしまうんだ。超能力ってほどのものじゃないんだけれど、ぼくの故郷の星にはわりとよくいるんだよ。ちょっとした特殊能力をもつ人間がね。で、ぼくはその力で脱出ポッドの中に隠れた。非常事態にしか絶対に開かないポッドだから、誰も気がつかなくてね。もちろん、メルもぼくがそこにいるなんて思わなかった。ぼくを捜すメルの声を聞いて笑っているうちに、ぼくはポッドの中で眠ってしまったんだ」

 ビオは、ちょっと口をつぐんだ。つらいことを思い出すみたいに、眼鏡の奥で目を細める。

「その間に、ライトパンサーが船に近づいていたのさ――。当時、あいつは目には見えない純粋なエネルギー生命体だった。近づいてくるまで計器にも感知されないから、気がついたときにはもう手遅れだったんだ。あいつから逃げることができなくて、乗客と乗組員は次々にポッドで脱出していった。あの頃のポッドは一人乗りでね。そこにパニックになった人々が殺到しては飛び乗っていた。ぼくも騒ぎで目を覚まして、窓からその様子を見た。メルを探さなくちゃ――と思った瞬間、ぼくのポッドが発射されたんだよ。中にぼくが乗っていたから、射出装置が作動してしまったんだ。船に乗員全員の分のポッドはなかった。ぼくを捜し回っていたメルは、ポッドに乗り損ねて、ライトパンサーに食われた。逃げ遅れた乗客と一緒にね」

 

 あたしは何も言えなかった。その悲劇なら、あたしも知っている。ビオは、その事件の生き残りだったんだわ……。

「脱出しても、救出されるまでには少し時間がかかった。ぼくはポッドの中で泣いて、泣き疲れて眠って、また目を覚まして泣いて。そのうちに、夢うつつでメルの声を聞いたんだ。メルは言っていた。『ライトパンサーって、光の豹っていう意味よね? じゃあ、豹の恰好をしてなかったら変だわ』ってね。そして――本当にライトパンサーの姿が変わったんだ」

 そう言って、青年はモニターに映る光の豹を見上げた。

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