通信が入ってきたので、ビオという青年がパネルを操作した。操縦席の前のモニターが生き返って、白いベレー帽に黒いサングラスの女の人が映る。
あの帽子は宙軍の特殊能力部隊の制服。この人、エスパーなんだわ……。
すると、モニターの向こうで女軍人が、あら、と言って笑った。
「そこにいるのはシシィ・キアじゃない。こんなところで何をしているの? マフィアのために、今度はライトパンサーを捕まえようとしているわけ? 見上げた忠誠心ねぇ」
ものすごく意地の悪い声。
あたしは思わず泣きそうになって、ぐっと唇をかんだ。こんな女に涙なんて見せてたまるもんですか!
すると、ビオがあたしと女軍人の間をさえぎるように話し出した。
「宙軍の特殊部隊が乗り出しているのか? 何をするつもりなんだ?」
「ライトパンサーを捕獲するのよ。宇宙連合局の決定よ」
と女軍人が答えた。
「ライトパンサーを捕獲? そんなのは無理だ!」
「もちろん、通常の方法では不可能よ。でもね、私たちになら可能なの。特殊部隊の私たちにならね」
「超能力を使って捕まえるつもりなのか。だが、それでもきっと無理だ。あれは――」
「お黙り、民間人!」
女軍人はぴしゃりと言った。
「命令は受けていないけれど、おまえたちも助けてあげるわ。そこで作戦の様子を見ていなさい」
自信満々のことばと共に、軍人がモニターから消えていく。
ビオは口を歪めると、またパネルに指を走らせた。今度はモニターに宇宙空間が映し出される。
無限の闇の中に星が輝く。その彼方から流星のように近づいてくる緑色の光――。
「あれがライトパンサーだよ。わかるかい?」
とビオが言った。
あたしは固唾(かたず)を呑んでモニターを見つめた。緑の光がどんどん大写しになっていく。
それは緑色に輝く巨大な宇宙生物だった。黒い斑点のあるしなやかな体、丸い耳のある小さな頭、四本の脚、長い尻尾――本当に豹(ひょう)のような姿をしている。
ただ、その体は透き通っていた。緑の輝きの向こうに、暗い宇宙と星が見える。エネルギーだけでできた、光の豹、ライトパンサー。何故そんな姿形をしているのか、理由は誰にもわからない。
ライトパンサーは宇宙の中を駆けていた。四本の脚で闇を蹴って、どんどんこちらへ近づいてくる。
すると、その手前に戦艦が現れた。通信をよこした宙軍の船だわ。ライトパンサーの進路をさえぎって立ちふさがる。
すると、ライトパンサーが停まった。見えない力に押しとどめられたような感じ。
「あの船には宙軍のエスパーが大勢乗っている。サイコキネシスでライトパンサーを捕まえようとしているんだ」
とビオが言う。
「そんなことできるの?」
とあたしは尋ねた。ライトパンサーには攻撃はまったく効かないと聞いている。でも、超能力でなら可能なのかしら。
ビオが何か答えかけたとき、ライトパンサーがまた動いた。振り切るように大きく身震いをして、宇宙に跳ねる。抑えきれなかったんだわ。豹が船に襲いかかる。
とたんに戦艦が光に変わった。豹の体の中で強く輝いて、そのまま消えていく。
ライトパンサーは、あらゆる物質をエネルギーに変えて「食べて」しまう。巨大な船も宇宙ステーションも、星でさえも――。
でも、ライトパンサーの前から離れていく小さな船があった。
脱出艇! 宙軍の軍人たちが、食べられる前に戦艦から逃げ出したんだわ。
ライトパンサーはそれにも襲いかかろうとした。脱出艇に向かって光の口を開ける。
すると、ビオが叫んだ。
「やめろ、メル!!」
とたんにライトパンサーが動きを止めた。驚いたように。
脱出艇がワープをして逃げていく。
ライトパンサーがビオの命令を聞いた……?
あたしはビオを見つめてしまった。