ライトパンサー

朝倉 玲

Asakura, Ley

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3

 青年に「君は誰?」と聞かれて、正直あたしはとまどった。まさか、あたしに向かってそう聞いてくる人がいるとは思わなかったから。あたしの正体に気がついてないんだわ……。

 少し迷ってから、あたしは名乗った。

「シシィ・キアよ」

 それでも青年が何も反応しないので、さらに言う。

「女優の――知らないの?」

 青年はたちまち苦笑した。

「有名人だったんだ。ごめんね、ぼくはそういうのを全然知らなくて」

 驚いた! どんなに辺境に行ったって、あたしの名前を知らない人に会ったことはなかったのに。

 

 あたしはちょっと考えてから、コクピットの片隅のホロビを指さした。

「あれを動かせる?」

 青年が操縦席のパネルに指を走らせると、すぐにホロビが稼働して立体映像を映し出した。宇宙を背景に色っぽい女海賊の恰好をしているあたし。

 目を丸くした青年に、あたしは話し続けた。

「アクションドラマの『赤い海賊キア』よ。あたしがこの船に乗ってるものだから、船長が気をきかせてエンドレスで放映していたの。あたしは指に青い指輪をはめているでしょう? あれは地球の秘宝の在処(ありか)を教える指輪で、指輪を狙う敵と戦いながら宝を探す、っていうストーリーなの。あたしが言うのもなんだけど、ものすごくヒットしたのよ。大古典的な展開と迫真の演技が新鮮だ、って誉められて、全宇宙で65パーセントを超える高視聴率を出したこともあるわ」

 胸が痛んだ。その話は全部もう過去のことだから。

「なにか良くないことがあったの?」

 あたしの表情を見て、青年が聞いてきた。あったかって? ――おおありよ!

「『赤い海賊』の製作会社の社長が不正をしていたことがわかってね。しかも、番組自体が宇宙マフィアの資金源になってたらしくて、ドラマは製作打ち切り。あたしまで不正に関係してたんじゃないかって疑われて、毎日マスコミに追い回されて――!」

 

 この船に乗ったのは、そんな騒ぎから離れたかったからだった。

 でも、マスコミは船の中までしつこく追いかけてきて、パーティの間中、質問攻めにしてきた。まるで、あたしが共犯者だと言うみたいに!

 そのマスコミたちも、今はもう全員脱出して船にはいない。せいせいしていい気持ちだわ――。

 すると、青年が心配そうな顔をした。

「だから船に残っていたわけ? ライトパンサーがやって来るのに。自殺しようとしてるのかい?」

「うるさいわね。あたしの人生よ。人にとやかく言われる筋合いなんてないわ」

 と、あたしは突っぱねた。

 そう、誰にもわかるわけないわ。あたしがここまで上り詰めるのに、どれほど苦しい想いをしてきたか。頑張って、頑張って、頑張って――本当に死にものぐるいで頑張ってきたのに。それもスキャンダルひとつで水の泡よ。

 もう、あたしに仕事の依頼は一件も来ない。

 

 それでも青年は何か言おうとした。もう。うるさい!

「それより、自分のことを話したらどう? あなたこそ誰よ。どうして脱出しないの?」

「ああ、ぼくの名前はクラウビオ。友だちはビオって呼ぶよ。ぼくがこの船に乗ったのは――」

 青年が話し出した時、ピーッと音がして、操縦席から声がした。

「こちら宙軍特殊部隊。船にまだ誰かいるの?」

 それは女の人の声だった――。

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