あたしが歩く船の中は、いたるところが青い縞模様の垂れ幕と銀の星で飾られていた。これは祭りの飾りつけ。宇宙の船旅は長くて退屈だから、航海の間、しょっちゅうイベントがある。今はちょうど宙(そら)祭りの時期。あたしも宙祭りのパーティに出ていたから、こんなドレスを着てるってわけ。
あたし以外、もう見る人はいないのに、星は垂れ幕の上で光り続けていた。ライトパンサーがやってくる最後の瞬間まで、こうやって光っているんでしょうね……。
コクピットにたどりつくと、そこにも宙祭りの飾りつけはあった。でも、船を操縦するための機械がずらりと並んでいるから、さすがにものものしい雰囲気。そのあちこちで、赤いランプが点滅していた。ワーニング、ワーニング! 自動警報が繰り返されてる。
やだ。あたしにはどれが何の機械か全然わからない。どうやったら警報が停められるのか、見当がつかないわ。
コクピットの真ん中で途方に暮れていると、突然入口のドアが開いて声がした。
「◎△□×☆!?」
ふり向くと、黒い服を着た青年が立っていた。
あら、あたし以外にも船に人が残ってたんだ。
青年は眼鏡をかけて、手に大きな鞄を提げていた。また話しかけてきたけど、訛り(なまり)が強くて何と言っているのかよく分からない。辺境の星の出身者なんだわ。
すると、青年が、あ、という顔をして片手を上げた。手首にはまった銀色のブレスレットに触れてスイッチを押す。とたんに、青年の話が聞き取れるようになった。
「驚いたなぁ。まだ人がいたなんて思ってもいなかった。どうして脱出しないんだい? もうじきライトパンサーがここまで来て、船ごと食べられてしまうよ」
ブレスレットは携帯型の翻訳機。こうして、通じないことばもちゃんとわかるようにしてくれる。
それにしても、なぁに、この人? ライトパンサーに食べられてしまうよ、なんて言ってるけど。このままじゃ自分自身が死ぬことになるじゃない。
「余計なお世話よ。それより、あなたこそ、なんでこんなところにいるのよ?」
と、つんつんしながら聞き返すと、青年が答えた。
「避難のアナウンスがうるさいから、停めようと思ってね。ええと……ああ、これだな」
青年はコクピットの操縦席に近づくと、パネルに触れていくつかのスイッチを押した。とたんに、警告を繰り返す声がぴたりと停まった。
「あら。この船の乗組員だったの?」
そう尋ねると、青年は首を振った。
「いいや、普通の乗客だよ。ただ、こういうものにはちょっと強いんだ。警報が停まったのはいいけど、なんだか静かすぎるね。音楽でも流そうか」
青年が別のスイッチを押すと、今度は優しい音楽が流れ出した。アルビレオ星系で流行ったイージーリスニング……。
それから、青年は改めてあたしを見た。
「さて、聞いてもいいかな。君は誰? どうして避難もしないでこんなところに残っているんだい?」
そう尋ねた青年は、笑うみたいな穏やかな顔をしていた――。