「ワーニング、ワーニング、乗客の皆様にお知らせします。本船にライトパンサーが接近中です。大至急、付近の救命ポッドで本船を離れてください。乗組員は、お客さまの避難を確認したら、直ちにスタッフ用救命ポッドで脱出してください」
そんなアナウンスが船内中に流れてる。けたたましい警報と一緒に、繰り返し繰り返し。
馬鹿ね、もう乗客も乗組員も残っていないわよ。みんな、ポッドで船を離れちゃったんだから。
ここは星間航行用大型客船の中。そう、昔流に言えば宇宙船の中ね。宇宙は無重力だけど、人工重力発生装置があるから体は浮き上がらない。手に持った飲み物だって、ちゃんとグラスにおさまってるわ。
有害な宇宙線を防ぐためのフィルターが入った窓。その向こうに広がる宇宙は、地球から見る空みたいな青い色をしている。無数の星のように見えるのは、船から逃げ出した人々の救命ポッド。先を争って船から遠ざかっていく――。
すると、胸元に下がったペンダント型の『テル』が、急に話し出した。
「シシィ、シシィ、今どこにいるんだい!?」
マネージャーの声。焦ってる。
「もちろん船の中よ。みんなが脱出する様子を眺めてるわ」
と、あたしは落ち着いて答える。
とたんに『テル』の向こうでマネージャーが叫んだ。
「まだ脱出してなかったのか!? 近くの救命ポッドに乗るんだ、シシィ! ポッドの数は充分ある! 乗りさえすれば、あとは自動的に船から撃ち出されるから! 急げ! 早く――」
プツリ。あたしは青いハート形をした『テル』のスイッチを切った。
静かにしてちょうだい。騒がしいのは、もうたくさんなんだから。
窓の外の青い宇宙。その中をきらめきながら遠ざかっていく星のようなポッド。
綺麗よね。そして、とても静か――
「ワーニング、ワーニング、乗客の皆様にお知らせします。本船にライトパンサーが接近中です。大至急、付近の救命ポッドで本船を離れてください」
んもう、全然静かじゃないっ!
みんな脱出したんだから、緊急アナウンスなんかもう必要ないのよ。
これは人工音声の自動警報よね。きっと、船のコクピットで流しているんだわ。ライトパンサーがいつ到達するかわからないけど、その時までこれを延々聴かされたらたまらないわよ。停めなくちゃ。
あたしは赤いパーティドレスのすそをひるがえして、コクピットへ歩き出した――。