カエルの王子

朝倉 玲

Asakura, Ley

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9

 翌日の土曜日、俺とつむりは例の公園へ向かった。俺に魔法をかけたカエルを見つけて、元に戻してもらうためだ。

 空は明るいけれど、予報は雨。つむりは青い傘を持つと、俺を頭に載せて言った。

「昨夜、増子君の傘も作ったんだよ。ほら、これ。雨が降り出したら使ってね」

 つむりの指先にはミニチュアサイズの赤い傘があった。

 あのな、カエルは傘をさせないって言っただろうが! それにカエルは雨は平気なんだよ!

 俺はそう言いそうになって、ぐっとこらえた。

 つむりはこの傘を一生懸命作ってくれたんだ。俺が濡れたら大変だと思って。

「ありがとう、つむり」

 俺はただそう言った。

 

 公園に行く途中、つむりは俺の家の前を通った。そういう道順だったんだ。

 すると、門の前に父さんが立っていた。

 あれ? 土曜日でも仕事のはずなのに、どうしたんだろう?

 父さんは黙って腕組みしたまま、じっと通りの向こうを眺めていた。誰かを待っているように。

 そうだ、俺が帰るのを待っているんだよ。仕事を休んで――。

 父さんはひどく疲れているように見えた。

 母さんの姿は見当たらない。たぶん、家の中でまた泣いているんだ。

「増子君のお父さん、なんだか淋しそうだね」

 家の前を過ぎてから、つむりが俺にささやいた。

 俺は返事ができなかった……。

 

 公園に着くと、俺たちはあのカエルを探した。

 生け垣では今日もアジサイが咲いていたが、どこにもカエルはいなかった。

 出てきてくれよ! 俺はどうしても元に戻りたいんだよ!

 念じるけれど、やっぱりヤツはでてこない。

 

 すると、突然近くで大声がした。

「こんなところにいた! つむり、そのカエルをぼくに渡してくれ!」

 なんと、生物学オタクの小池だった。つむりの頭の上に俺を見つけたんだ。

「だめ! これは増子君だよ!」

 と、つむりは言ったけれど、小池は聞いていなかった。

「世紀の大発見なんだ! それをよこせ!」

 と、無理やり俺を捕まえようとする。

 つむりは小池を避けて逃げた。歩道から車道へ。

 そこへ向こうから大型トラックが走ってくる。

 やべっ、運転手がよそ見をしてるぞ! つむりに気がついてない!

 そして、つむりもトラックに気づいてなかった。小池のほうに気を取られている。

 俺は一瞬だけ迷った。

 次の瞬間には、つむりの額を蹴って思いきりジャンプする。

 車道とは反対側の、小池が来る方へ。

「増子君!?」

 案の定、つむりは驚いて俺を追いかけてきた。向きを変えた彼女のすぐ後ろを、大型トラックが走りすぎていく。

 よし、助かったぞ――!

 ところが、そのとたん俺は何かにぶつかった。

 つむりと小池の間を、自転車がものすごい勢いで走りすぎていったんだ。

 馬鹿野郎、歩道を自転車で疾走するな!

 そう思ったけれど後の祭り。俺は大きく跳ね飛ばされて、公園のブロックに激突した。

 痛みと共に、自分の体がつぶれる嫌な感触がする――。

 

 すると、どこからか声が聞こえた。

「まあ、このくらいで勘弁してやろうかね、ひねくれ坊主」

 あのカエルの声だ!

 俺はそのまま気が遠くなり……

 

 気がつくと、生け垣に寄りかかるようにして倒れていた。

 小池は歩道や生け垣を必死で探し回っている。

「どこだ!? どこに逃げた!?」

 俺のいる場所には気づいていない。

 すると、つむりが駆け寄ってきた。あれ、なんか、つむりの顔が小さく見える……?

 つむりは目を涙でいっぱいにしていた。

 「よかったね、増子君! 本当によかったね!」

 そう言って、いきなり俺の首に抱きついてくる。

 お、おい!?

 俺はあせって、そして気がついた。

 彼女と俺は同じ大きさ。俺は人間の姿に戻っていた――。

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