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------------------------------------------------------------------- 髪の長いカノジョへ 今日はキャンパスにていきなり失礼しました。スンマセン。 でも、俺は本当に見たんだ。アンタが男に連れ去られそうになっている所を。 夢だった、と言われれば仕方ないけど、角膜移植をしてからずっと気になっていた。 もし困った事があるなら力になりたいと思った。 (あ、ナンパじゃないからね。マジだよマジ!!…なんだか照れくさいな) 俺は理工学部4年の杉山弘樹、返事ヨロシク!! ------------------------------------------------------------------- 彼女が黙って渡して来たメールアドレスをもう一度確認する。 俺はかなりの期待を込めて送信ボタンを押した。 すぐ返事が来るわけない、と思いながらも立て続けにメールチェック。 あぁ、メール着信サービスつきの設備にしたいぞ。 33回目のメールチェック…来た! ------------------------------------------------------------------- 杉山 弘樹さま♪ こんばんわぁ(^-^ゝ 昼間はびっくりしたよぉ♪ いきなり腕つかんで「誘拐されたことない?!」だもん。 授業に遅れてたから名刺渡しただけでゴメンね。 でもきっとメールくれると思ってたよーん。 ゆーかいなんて、されたことないけど…なんでそう思うの?(。゜)(゜。)? あ、未遂ならあるかも。お姫さまだから(^^ な-んてね。 τ(^_^)は経済学部2年のユキちゃんでーす。ユキでいいよん。 時々使うハンドルネームは白雪姫。 ピッチにメールしてもいいよん。番号は********@nttpnet.ne.jp じゃまた(^_^)/ ☆ユキ&白雪姫☆ ------------------------------------------------------------------- よくわからない相手だな。顔文字ばっかのメールは苦手だ。 なんかうっとうしい。俺はさっそく返信メールを書いた。 ------------------------------------------------------------------- ユキ へ >ゆーかいなんて、されたことないけど…なんでそう思うの?(。゜)(゜。)? 俺は角膜混濁で両目が見えなくなった。運良くドナーはすぐみつかった。 アイバンクは基本的に登録順と健康状態からコーディネイトするから、 数年間は休学、もしくはアメリカで手術と思っていたからラッキーだったな。 そのドナーは結構な実力者で、遺言で「健康な未来ある若者に左右同時に」 角膜を譲ると決めていたらしい。普通は、片方しか移植を受けられないんだ。 一人より二人を救いたいっていうポリシーでね。 とにかくその手術後、今から2週間くらい前だな、最初に見たのがアンタの姿だった。 一度きりだし夢なのかもしれない。でも包帯をとってまず見たのは、髪の長い女の子が 男に連れていかれそうになって困っている顔だった。俺の説明はこんなもんだ。 あとはアンタの話しが聞きたい。誘拐未遂ってのはなんだ? 携帯にメールか電話でもいいから、番号は***-******** 杉山弘樹 ------------------------------------------------------------------- 「経済二年のユキ?知らないなぁ。苗字はなんての?」 「いや、いいんだ。本名かどうかもわからないし。」 「それよりお前さあ真面目に就職探せよ!」 ナンパ野郎の悪友も知らないのか。そうだよなぁ。 ここ理工学部は同じ大学と思えない僻地だし。 それにしても就職か、アタマが痛い。 目のせいで3ヶ月も休学したからみんなその間にどんどん就職が決まっている。 俺はどうしても入りたい会社があった。そこが追加で新卒募集するから明日の就職試験 に未来がかかっている。ダメなら就職浪人してもまた狙いたい。 大きな会社ではないが、地元で機械設計の仕事をできる企業だ。 講議などさっぱりアタマに入らず帰宅。 ノートパソコンが欲しいぞ。さっそくメールチェック、あっ!来てる。 ------------------------------------------------------------------- 杉山さん…弘樹でいいかな?いいよね♪ 角膜移植したんだぁ(゜゜) 痛かった? なんか不思議な話だね。 ゆーかい未遂はねー、変な人が来たけど家の人たちにバレて早々に逃げ帰ったから、 なんだったかよくわかんないのー。 まーもしかしたら…殺されちゃうかもしれないんだけどね。 でも白雪姫だから王子様が助けてくれるかも?なーんてねヘ(^_^ヘ) (ノ^_^)ノ ねえねえ、チャットしない? ICQでさ♪τ(^_^)の番号は*******だよ。11時に呼び掛けて! ☆白雪姫☆ ------------------------------------------------------------------- ICQ?昔やってたけどもう削除しちまった。大体「殺されるかも」だって? ふざけるにもほどがある。とにかくICQをダウンロードした。 メールでは話がもどかしい。 そのまま11時になるのを待った。よし、時間だ。 >こんばんわぁ(*^-^)ノ(ゆき) >なんなんだよあのメール(弘樹) >なにが?(。゜)(゜。)?(ゆき) >殺されるってヤツ(弘樹) >だってホントだもーん(^^(ゆき) >マジかよ(弘樹) >パパの遺産を相続したら離婚したママの彼氏がアヤシイのー(⌒▽⌒)(ゆき) >おい、マジかよ(弘樹) >うん、かなりマジだよ。パパが生きてるウチから親権を欲しがってたし。(ゆき) >じれったいな、電話じゃダメか?(弘樹) >ダメ、盗聴器(⌒◇⌒)(ゆき) >本当なのか?顔文字でふざけるのやめろよ!(弘樹) >ホントだもーん、ふざけてないもーん。。゜(T-T) ゜。(ゆき) >とにかく、本当なら詳しい話をメールしてくれ。冗談ならもういい!(弘樹) >怒ったの?弘樹…(ゆき) >じゃ、切るから。(弘樹) 俺は強引に接続を解除した。もういい、バカバカしすぎる。俺は風呂に入った。 熱いシャワーを浴びる。変な女と知り合ったもんだぜ。 …だがもし、もしも本当だったら? 俺はさっさと上がって再度接続した。…いた! >詳しい話を教えてくれよ(弘樹) >あっ!弘樹だ。怒ってない?お願いがあるの♪(ゆき) >なんだよ(弘樹) >τ(^_^)と結婚して!(ゆき) >…へ?(弘樹) >本気だよー。(ゆき) >…結婚すれば親の相続分が減るから殺されないってか?(弘樹) >ピンポーン!名前貸して欲しいの。(ゆき) >名前って、他に誰かいるだろ。何も昨日会った俺にしなくても(弘樹) >なんかねー、目もとがパパに似てて好きになったの♪(ゆき) >まあ、貸してもいいけどすぐに取り消してくれよな。(弘樹) >え〜そのままラブラブになってもいいじゃーんv(^ ^)v(ゆき) >明日忙しいんでね、俺は寝るぞ。(弘樹) >えーなんでー(?_?)明日いっしょに届出に行こうよ〜(ゆき) >入社試験なの!俺は4年生なんだから。(弘樹) >へー♪今頃〜。じゃ一人で役所に行ってくるね。おやすみ〜ヾ(^_^(ゆき) あれ、勝手に接続切りやがった。まあいいか。 明日はマジ筆記試験その次の日は面接だ、寝よ。 ピロピロピロ…俺は携帯メールの着信音で目が醒めた。ん? 「白雪姫が森に連れて行かれたら助けに来てくれる?」 なんだあ?やけに弱気なメールだな。さっそく返信。 「継母も狩人もけっとばしちまえ!俺なんかアテになんねーよ。」 またまたメールが来た。 「あはは(⌒_⌒)じゃ蹴飛ばしに行ってくるね。弘樹もがんばれー!」 とんだお姫様だぜ。冗談キツイよな。 午後になった。慣れないネクタイをしめて、髪をとかして、カバンを持った。 さて、行くか。充電器に置いた携帯を手に取った途端、ハイ・ホーが流れた。 ああそうだ、昨日着メロ変えたんだった。 「もしもし」 「杉山くんだね。」 「誰だよ。」 「誰でもいい。用事があるからハンコ持って中央公園北の○○社倉庫に来てくれ。」 「俺、忙しいんだけど」 「大事な奥様がどうなってもいいのかな?」 「はあ?」 「わかったな、すぐに来い。」 電話は一方的に切れた。奥様だあ?人違いじゃねーのか?俺が結婚なんてしてるわけ…。 まさか?着信履歴を調べた。今の電話はユキの携帯からだ!何やってんだ、あいつ。 俺はネクタイをはずした。警察に、知らせるか? 俺は通学用の原チャリでとにかくでかけた。通り道に交番がある。 一応、事情を説明したが反応はさっぱりだった。 どこかの誰かが誘拐されているかもしれない、では動けないと言う。 よく考えれば当たり前か。俺はユキの本名すら知らない。 とにかく倉庫周辺のパトロールだけ頼んで俺は再び原チャリに乗った。 「白雪姫が森に連れて行かれたら助けに来てくれる?」 今朝のメールが気になる。無事でいてくれ…。 倉庫の前に原チャリを止めた。でかいプレハブだ。重い引き戸を開け中に入る。 薄暗くてよく見えない。 「こっちだよ、杉山くん。」 電話と同じ声が言った。がっしりした中年の男だ。 どこかで見たような顔だったが思い出せない。 倉庫の中は材木や鉄骨、段ボールが雑然としている。 隅の一角にテーブルとパイプ椅子、使われていないホワイトボードがあった。 高い位置に小さな窓。少しだけ陽がさしている。 さらに奥に、いた、ユキだ。椅子に縛られているらしい。 側には中年の女性、ユキの母親か? 「わざわざ来てもらってすまないね。」 バカていねいに男が言った。ユキは黙ってこっちを見ている。 「離婚届けに印鑑とサインを頼むよ。ついでに今後一切縁を切って欲しい。」 「…イヤだと言ったら?」 「君もバカじゃないはずだ。痛い目に会うのは避けたいだろう?」 男はナイフをちらつかせた。俺の足が勝手に震えていやがる。落ち着け。 相手は一人だ、なんとかなる。なるかなあ、ならないかも…。 なんで俺はここに来ちまったんだろう。試験に行くべきだったな、俺の将来がパアだ。 とにかく俺はテーブルに向かった。 ストラップがじゃらじゃらついた携帯と、届出用紙が置いてある。 男の蛇のような視線を感じ、全身に寒気が走った。 心臓がばくばく言いはじめた。じっとりと汗がにじんでくる。 本当にサインすれば無事に帰す気だろうか?殺すつもりじゃないのか? 今のうち、俺だけなら逃げられるかも…。 「ごめんね、弘樹。サインしてすぐに帰って。」 はじめてユキの声を聞いた。はっきりとしたアルトの声だ。 俺の足は震えるのを止めた。 冗談じゃない、離婚が成立したらユキが財産目当てに殺されちまうんだろう? 俺は覚悟を決めた。 ペンを探す振りをしてポケットに手を入れ、携帯のコールバックボタンを押す。 ユキの携帯が鳴った。一瞬、男が俺から目をそらした…今だ! 俺はまっすぐにヤツの急所を蹴りあげ、うずくまる男からナイフを取り上げた。 同じ男として最低、最悪の方法だが仕方ない。 ユキのロープを切り、のたうちまわる男の体を縛り上げる。 「ユキ!大丈夫か?」 振り向いた俺は信じられない光景を目にした。 「まだ、大丈夫じゃないのよ。」 ユキの母親が銃口を向けていた。ユキは椅子に座りうつむいている。 「ど…どういうことなんだ?」 俺はのろのろと間抜けな問いかけをした。 「早くサインして帰れば良かったのにね、坊や。」 「ママ、パパを殺したのはママなの?」 ユキがつぶやいた。 「薬をすり替えていたでしょう?それに私を誘拐しようとしたから、パパはその現場を 見て心臓発作を起こしたのよ。あの日倒れたきり、意識は戻らなかったわ。」 「薬?…そうね。私のビタミン剤と似たカプセルだったから、間違えて飲んでいたかも しれないわね。じゃ、銃はオモチャじゃないんだから、話しを進めましょう。 離婚届ができたら親権を移す申請書を作らなきゃね。」 「もう遅いわ。私は二十歳になったの、今日ね。もう親権者はいらないもの。」 「あら、そうだった?じゃ、遺言か財産譲渡、どっちにする?」 撃鉄が冷たく重い音をたて、銃口は俺に向けられた。これが実の親子の会話か? 目の前の銃口よりこの女たちの方が恐いぜ… ピピピピピ…ユキの携帯が鳴った。 すぐに鳴りやんだそれは一呼吸おいて再び鳴り響いた。 「弘樹、ふせて目を閉じて!」 天窓の割れる音と催涙弾の煙りが同時に襲って来た。 言われなくても立っていられる状況ではなかった。煙の中で女のかん高い声が響いた。 「謀ったわね、なんて子なの!あの人にそっくりだわ!」 警官隊がどやどやと入り込んで来た。煙は晴れてきたが目が痛くてあけられない。 警官に付き添われ外に出た。ようやく目があけられるようになった。 ユキは偉そうな警察の男と話している。母親と男はすでにパトカーで運ばれていった。 やがてユキもパトカーで行ってしまった。取り残された俺に警官の一人が言った。 「君の事情聴取はないそうだ。一人で帰れるかな?」 俺はうなずいて原チャリに向かった。頭の中がぐちゃぐちゃだ。 警官隊は準備が整っていた。ユキに合図して突入したって事は、とっくに打ち合わせ 済みだったってことだ。俺はとんだ道化役だったのか? いくら考えてもわからない。…ビールでも飲んで寝るか。 入社試験、もう無理だろな。 深夜、メールチェックをした。ユキからのメールがきていた。 ------------------------------------------------------------------- 杉山 弘樹様 危険な目に合わせて本当にごめんなさい。マイクをつけて警察に聞いていてもらった ので、母を逮捕できました。私は母の正体を知りたかったの。あの男が悪い、とだけ 信じていたかったけれど、本当のことが知りたかった。そのためにあなたを利用した こと、おわびのしようがありません。 今日のことは父の友人の警察署長と計画し、あなたを尾行してもらいました。 婚姻届けは提出していません。その点は安心して下さい。 ただ、今回の件は一切口外しないようお願い致します。 改めておわびに伺います。ありがとうございました。 いろいろと自分自身の中で気持ちに整理がつきました。 ユキ ------------------------------------------------------------------- 顔文字のない丁寧なメールからは気持ちが読み取れない。俺は、返事を出さなかった。 いや、出せなかった。自分だけ何も知らなかったこと、必死で戦ったこと、試験がパアに なったこと、グチだらけになりそうだった。 もういい、俺には関係ない。終わったことだ。 翌朝、希望していた会社からのメールが来ていた。面接試験は必ず来ること…ラッキー! まだ諦めなくていい。今回は追加の採用で2人しか枠がない。競争率は高いが俺はどうし てもこの会社がいいんだ。俺は昨日から床でトグロを巻いていたネクタイを拾い上げた。 さすがに面接会場は緊張した顔でいっぱいだ。10人ちょっとが順番を待っている。 次々と名前を呼ばれ10分程度で帰って行った。俺は最後か、当然かもな。 説教されるかな、無断で欠席だもんな。 「杉山さん」 女子社員に案内され奥の部屋に入る。予想どおりこわそうなオッサンの顔が並んでいる。 お、若い女性がいるじゃないか。ショートボブに銀縁メガネ、いかにもって感じだな。 それにしても若いよな、重役クラスじゃないのか?面接官ってのは…。 型通りの質議応答の後、やっぱり来た。 「ところで、なぜ筆記試験を欠席されたのですか?」 俺は答えに迷った。病気や事故と偽るには元気すぎる。親戚の葬式なんて話もウソが バレたらかえって大変だ。俺は正直に答えることにした。 「一刻を争う急用があって、連絡することもできませんでした。 無断で欠席して申し訳ありませんでした。」 「なにかね、その急用とは。」 中央に座った貫禄のあるオッサンが言った。ここの社長は先月亡くなったんだっけ。 この人が社長かな。なんにせよ、話せない事もあるんだよな。 「言えません。言ってしまったらある人に迷惑がかかるかもしれないので。」 くすくすっ、と端に座った女性が笑ったような気がした。 「昨日は助けてくれてありがとう、弘樹。面接は合格ね。」 …なに?俺は自分の耳を疑った。 メガネをはずした女性は髪型こそ違うが、まぎれもなくユキだ。 「しかし社長、いいんですか?合格にして。」 中央の男が言った。社長?ユキが社長?? 「いいの。でも筆記試験を受けてもらってね。その結果が悪ければ遠慮なく落として。」 俺は、はじめて顔文字とやらを使いたいと思った。もちろん、こんなヤツだ。 「…( ̄□ ̄;)」 THE END
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