「勇者フルートの冒険・4 〜北の大地の戦い〜」        朝倉玲・作  

31.死闘〜最終決戦・2〜

風のオオカミの魔王が、うなりを上げて襲いかかってきます。
フルートたちはとっさに雪の上に身を伏せました。
 ゴアァ・・・ッ!
強い風が上をかすめて飛び過ぎていきました。魔王です。
ポチがすぐに跳ね起きて噛みつきましたが、風のオオカミは牙の間をすり抜けていってしまいました。
「ウゥーーッ・・・ぼくが風の犬になっていれば・・・」
とポチは悔しそうにうなりました。

ゼンが叫びました。
「危ない、フルート! また来るぞ!」
空の高みから魔王が急降下してくるのが見えました。まっすぐフルートを狙っています。
フルートはあわてて雪の上を転がって横に逃げました。
 ズザザーーーーッ・・・
風のオオカミが鼻面を雪原に突っ込み、雪を巻き上げてまた空に駆け上っていきます。あまりに速いので、フルートたちには何もできません。
「ど、どうする・・・?」
ゼンがフルートと背中合わせに立ちながら言いました。目は空の魔王を警戒し続けています。
そこへまた、魔王が襲いかかってきました。
 ゴォォォ・・・
真っ正面から突っ込んできます。避けようがありません。
すると、フルートの金の石が輝いてバリアを広げました。
 ドドドドド・・・
強烈な風がバリアに正面から激突して、わきにそれていきます。
魔王は空に駆け上がると、うなるように言いました。
「ふん、古ぼけた石が無駄な努力をする。目障りだな」

一方、金の石のバリアの中でゼンが言いました。
「魔王は風のオオカミになってるんだろう? とすると、あいつにも首輪があるんじゃないのか?」
フルートたちは懸命に目をこらし、空中を駆けめぐる魔王の首を見ようとしました。
「ある・・・な。あの影のように黒いものが、きっと首輪だ」
とフルートが言いました。
風のオオカミの太い首には、先に戦った風のオオカミたちよりもっと底なしに黒い首輪が見えていました。
「よし。あれを断ち切ろう」
とゼンがショートソードを抜きました。フルートも炎の剣を構え直します。
空からまた魔王が突撃してきました。
金の光のバリアにまっすぐ飛び込んできたと思うと、その目の前に、黒い闇のバリアを広げました。
 バリバリバリ・・・
二つのバリアがまたぶつかり合って、激しい火花を散らします。
そして――
 バリーーーン!!!
バリアがまた砕けました。
「これはお前の技だったな、勇者よ」
魔王が笑いながらフルートに噛みついてきました。
フルートは、その首もとめがけて炎の剣を振りました。
「やぁっ!!」
炎の弾が真っ黒な首輪めがけて飛んでいきます。
ところが。
炎は首輪に燃え移らず、そのまま首輪の中を突き抜けていったのです。
「えっ・・・!??」
フルートたちはびっくりしました。風の犬やオオカミは、体は風でも首輪だけは実体なので、首輪には攻撃できるはずなのに・・・。
 ゴアッ!!
魔王がフルートたちの間を飛び抜けて行きました。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
「キャン!」
フルートとゼンとポチは、風の体当たりを食らって雪原に倒れました。
その間に、魔王はまた空に駆け上がると、笑いながら言いました。
「首輪を狙っても無駄だ。わしの首輪は闇そのものをより合わせて作ってある。お前たちの武器では、傷ひとつ負わせることがはできんぞ」

また、魔王が襲いかかってきました。
フルートは跳ね起きると、ダイヤモンドの盾を構えました。この盾は、以前、風の犬の牙を折ることもできたのです。
けれども、魔王は巨大すぎました。
魔王はあっという間に盾ごとフルートを押し倒すと、鋭い牙で噛みついてきました。
 ガキッ!!
鋭い音がして、盾の表面からかけらが吹っ飛びます。これまでどんな攻撃も跳ね返してきた盾に、深々と噛み痕がつきました。
さらにその牙がフルートの頭を噛み砕きそうになったとき、また金の石が輝きました。
魔王が光に押し戻されるように下がります。けれども、風のオオカミの姿のときには、金の石の光にもさほどダメージを受けないようでした。
「ええい、邪魔だ!」
魔王は首を振ると、黒い闇のバリアを光のバリアにぶつけました。
 バリバリ・・・バリーーーン!!!
三度、バリアが砕けます。

「フルート!!」
ゼンとポチが叫びながら飛び出してきました。ショートソードや牙で攻撃しますが、風のオオカミにはまるで効果がありません。
すると、魔王がまた笑いました。
「そうか。お前たちのほうが先に殺されたいのだな。では、望み通りにしてやろう」
魔王がまた、空に駆け上がっていきました。
うなりを上げて空を飛び回り、猛烈な勢いで蛇の頭の山に体当たりをします。
山が大揺れに揺れ、氷でできた頂が崩れて落ちてきます。
魔王はその氷のかけらを風の中に巻き込むと、ゼンとポチの上に雨あられと落とし始めました。
「うわーーっ!」
「キャンキャンキャン・・・!」
ゼンとポチが悲鳴を上げて逃げまどいます。
大きな岩ほどの大きさもある氷が、次々とゼンたちに降りかかってきます。
ガツッと音を立てて、ゼンの頭に氷のかけらが当たりました。
ゼンがうめき声を上げて倒れます。
「ワンワン! ゼン!」
あわてて駆け寄ろうとしたポチにも、大小の氷のかけらが落ちてきて、あっという間にポチの小さな体を下敷きにしてしまいました。

「ゼン! ポチ!」
フルートは真っ青になりました。
ゼンの頭から血が流れ出すのが見えます。白い雪が赤く染まっていきます。ポチは氷のかけらの間に尻尾の先がちらりと見えるだけです。
フルートは首から金の石を外すと、石の力で2人を助けようとしました。
ところが、その後ろから、風のオオカミが襲いかかってきました。
フルートはもんどり打って雪原に倒れ、その拍子に金の石を手放してしまいました。
「し、しまった・・・」
フルートがあわてて石に手を伸ばすと、その目の前で、どすん! と半透明の獣の足が金の石を踏みつけました。
魔王が、前足で金の石を押さえ込んだのです。

風のオオカミの魔王は、大きな頭を地面すれすれに下げ、フルートをのぞき込むようにして笑いました。
ゴォォ・・・ッと猛烈な風が巻き起こります。
「ようやく最後のときが来たな、勇者よ」
と魔王が言いました。
「そんな小さななりで、よくぞここまでわしの邪魔をしてくれた。それだけは誉めてやるぞ。だが、それもこれで終わりだ。噛み砕かれて、わしの腹の中に消えるがいい・・・!」
フルートの体が、ぐん、と持ち上げられました。魔王がフルートの体をくわえて引き上げたのです。
そのまま魔王はフルートの体を高々と宙に放り上げ、口を開けて、落ちてくるフルートにばっくりと噛みつきました。
 ガキィッ・・・メキメキメキ・・・!!!
金の鎧のひしゃげる音が、牙の間から響いてきました――



(2004年10月29日)



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