「勇者フルートの冒険・4 〜北の大地の戦い〜」        朝倉玲・作  

30.二つのバリア〜最終決戦・1〜

魔王の手のひらから、黒い弾が撃ち出されてきました。魔王の得意技、魔弾です。
フルートはとっさにダイヤモンドの盾を構えて、それを受け止めました。
 ジャァァァァ・・・ッッ!!
激しい音をたてて魔弾が炸裂します。フルートは大きく後ろに吹っ飛ばされて、雪の上に倒れました。
「フルート!!」
ゼンとポチが叫びました。
魔王の魔弾が、また飛んできます。
今度はゼンがサファイヤの盾でそれを受け止めましたが、フルートと同じように吹き飛ばされて後ろに倒れてしまいました。魔弾の威力が強いので、いくら盾が強力でも、子どもの体力では支えきれないのです。
「それ、勇者ども。受け取るがいい!」
魔王が笑いながら魔弾を次々と打ち出してきました。
黒い弾がフルートたちに降りかかってきます。

ところが、魔弾が当たる寸前、フルートの金の石が光のバリアを広げました。
 キキキ・・・キシャーーーーーーン・・・
金属がこすれ合うような音を立てて、バリアが魔弾をはじきます。
「うぬ!?」
魔王が目をむき、さらにたくさんの魔弾を打ち込んできました。黒い弾が雨あられと降りかかってきます。
 シャーーーン・・・キシャシャシャーーーーーーン・・・
鼓膜をつんざくような音を立てながら、魔弾はひとつ残らず砕けていきました。
金の光のバリアはびくともしません。

「へーん、どうだ! 金の石の守りは鉄壁だぞ!」
とゼンが得意そうに言いました。
フルートも炎の剣を構えながら言いました。
「今度はこっちから行くぞ、魔王!」
気合いと共に、特大の炎の弾を魔王めがけて撃ち出します。
魔王はさっと手を振り上げました。
すると、黒い影が壁のように魔王の前に現れて、炎の弾を跳ね返しました。
闇のバリアです。
「ち、ゴブリン魔王と同じ手を使いやがる」
とゼンがいまいましそうに舌打ちしました。試しにエルフの矢を撃ってみましたが、矢は闇のバリアに一本残らず跳ね返されてしまいました。

金の光のバリアと、黒い闇のバリア。二つのバリアにお互い攻撃を封じられて、フルートたちと魔王はにらみ合いました。
いつの間にか太陽は山の陰に沈み、あたりは夜に包まれています。夕暮れのようにぼんやりと明るい、北の大地の白夜です。
まずいな、とフルートは心の中で考えていました。
短い夜が過ぎれば、朝日と共に新しい一日が始まります。そうすれば、魔王はまた、ポポロの魔法を2回も使えるようになってしまうのです。
ポポロの魔法は強力です。金の石のバリアでも、とても防ぎきれないでしょう。なんとしても、夜が明ける前に魔王を倒さなければなりませんでした。

そのとき、ふとフルートの頭の中にひとつの作戦が浮かびました。
危険です・・・が、やってみる価値はありそうでした。
フルートはそばにいる仲間たちにささやきました。
「ゼン、盾をしっかり構えていてくれ。ポチ、ゼンのそばを離れないで・・・ぼくが行く!」
そう言うなり、フルートは炎の剣を構えて飛び出していきました。
そのまままっすぐ魔王に突進していきます。
「む?」
魔王が手から魔弾を連発しました。
黒い魔弾は金の石のバリアに当たって、ことごとく砕け散ります。
フルートは光のバリアごと、魔王の闇のバリアに突っ込んでいきました。
 バリバリバリバリ・・・ガガガガァァーーーー・・・!!!!!
雷のような音がとどろいて、バリアとバリアの間で激しい火花が飛び散ります。
そして――

 バリーーーーーン!!!!!
大きな音を立てて、二つのバリアが砕けました。
黒と金の光のかけらが、あたり一面に飛び散ります。
「うおっ・・・!?」
思わず顔をそむけた魔王に、フルートは炎の剣で切りかかっていきました。
「やあーーーっっ!!」
「馬鹿め!」
魔王があざ笑いながら、右手を伸ばして至近距離からフルートに魔弾を打ち込もうとします。
「フルート!!」
ゼンとポチは思わず叫びました。
すると、フルートの胸で金の石がまた輝きました。光でフルートを包み込みます。
とたんに、魔王が大声を上げて飛び退きました。
「おのれ勇者、よくも・・・!!!」
魔王の右手が、手首の先から失われていました。金の石のバリアにふれたとたん、魔王の手が消滅してしまったのです。
金の石のバリアは、聖なる光。魔王たち闇のものには、命取りになるほど危険なものです。フルートが魔王に近づけば、バリアの光で魔王にダメージを与えられるのではないか、とフルートは考えたのでした。
「やったぁ!!」
ゼンとポチが歓声を上げました。

ところが、魔王は不意ににやりと笑いました。
「愚かなり、人間の子ども・・・。これしきのことで、わしに勝ったつもりか?」
そう言いながら、手がなくなった右腕をゆっくり振って見せます。
とたんに、また右手が現れました。再生したのです。
「あっ、くそ!」
ゼンが舌打ちしました。
フルートも唇をかみます。やはり、天空王の持つ光の剣でなければ、魔王にはあまり効かないようです。
フルートはすばやくあたりに目をやりました。
山の陰から太陽は上ってきていません。まだ夜は明けていないのです。けれども、あたりの空気は一段と冷たさを増し、刻一刻と新しい一日が近づいているのが肌で感じられました。
急がなくては・・・とフルートは心の中でまた考えました。

すると、その様子を見て、魔王が大声で笑い出しました。
「なるほど。金の石の勇者は、朝が来てわしが魔法を使えるようになるのを警戒しているのだな。だが、言ったはずだぞ。わしの力は、魔法だけではないのだ。例えば・・・こんなのはどうだ!?」
そう言うなり、魔王の体がぐぅーっとふくれあがりました。黒い衣を着た体が、透き通るように形を失っていき、透明な灰色の塊になって空を駆け上っていきます。
うなりを上げて空を駆けめぐり、フルートたちの目の前に戻ってきたとき、魔王は半分すきとおった風の獣に変わっていました。
「風の犬・・・!?」
「いや、風のオオカミか!!」
フルートたちは驚いて叫びました。
魔王自身が、巨大な風のオオカミに変身したのです。
 グァアアアアーーーー!!!
小さな家ほどの大きさもあるオオカミが、フルートたちに向かって吠えました。
猛烈な風がどっと吹きつけてきます。
フルートたちはよろめいて、あわてて足を踏ん張りました。

 ワンワンワンワン・・・!!!
小さなポチが精一杯の声を張り上げて吠え始めました。
「ワンワン、分かったぞ、魔王! いくらルルの力を奪ったって、同じ犬科の生き物でなければ風の獣にはなれない! 風のオオカミになれるからには、お前の正体はオオカミなんだ・・・!!」
すると、魔王が変身した風のオオカミが、にやぁっと笑いました。
「いかにも。わしは東の国の古森に住む灰色オオカミだ。深い森の奥でウサギや鹿を狩って生きる、ごく普通のオオカミだった。だが、ある日大勢の猟師が森に踏み込んできて、わしの仲間を残らず殺していった。わしの妻も子どもも兄弟も、一頭残らず殺された。その日からだ。殺しても殺しても飽き足りないくらい、わしが人間を憎んでいるのは。だから、デビルドラゴンがわしの前に現れたとき、わしは迷わずヤツとひとつになった。世界中の人間たちを皆殺しにして、この世から消し去ってやるためにな・・・!」
 ガオォォォーーーーー・・・ッ!!
と、また魔王が吠えました。
フルートは吹き飛ばされないように必死で踏ん張ると、魔王に向かって怒鳴り返しました。
「だから、北の大地の雪と氷を溶かして、世界中の陸地を海に沈めようとしたのか!? ポポロたちの力を奪って・・・人間を殺すために!?」
「そうだ。世界中の大陸を海の水で洗い清めてやる! 人間など一匹残らず洗い流してしまうのだ!」
そう言って、風のオオカミの魔王は大声で笑いました。
魔王の笑い声は、まるで、空の中でつむじ風がうなりを上げているように聞こえました。

フルートは炎の剣を握り直すと、きっと、魔王を見上げました。
「お前の気持ちは、分からないわけじゃない・・・。だけど、そんなことを許すわけにはいかないんだ! 魔王、ぼくはお前を倒す!!」
「寝言を言うな、金の石の勇者よ!」
魔王が吠えるような声で言いました。
「そんなにちっぽけなお前たちに、いったい何ができるというのだ! わしは風だ。お前たちの武器は、わしには一切効かんぞ!」
そう言うなり、魔王はごうっとうなりを上げて空を飛び、巨大なつむじ風になって、フルートたちに襲いかかってきました――



(2004年10月27日)



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