「勇者フルートの冒険・4 〜北の大地の戦い〜」        朝倉玲・作  

27.蛇の頭の山

「あった! ついに見つけたぞ・・・!」
フルートがポチの背中から声を上げました。
ゼンも興奮して腕を振り回しながら言いました。
「蛇の頭の形をした山だ! 魔王はこの中だぞ!!」
空を飛ぶ彼らの目の前に、氷でできた山がそびえています。
あまり高い山ではありませんが、複雑にねじれた頂は、敵を狙って身をかがめた蛇の上半身そっくりな姿をしています。
ロキがノーマルソードの刃に映し出して見せた山に、間違いありませんでした。

「ワン。このあたりにはおかしな形の山が多いですね」
とポチがまわりを見回しながら言いました。
他の山々は槍のように鋭くとがった頂をしていたのに、この一帯の山だけは、ねじれたり、傾いたり、大きくえぐれたり、まるで怪物のような形をしているのです。
 ヒーイィーィイィー・・・・・・
女の人が泣き叫ぶような音を立てながら、強い風が吹き抜けていきます。吹きながら地上から凍った雪のかけらを巻き上げていくので、風が山の頂に当たると、凍った雪が氷の壁に当たって、バチバチと音を立てます。
「風のせいだ」
とフルートが言いました。
「風に巻き上げられた氷の粒が、山を削ってこんな形にしたんだよ」
「へっ。いかにも魔王が住みついていそうな、不気味な場所だぜ」
とゼンも言いました。

すると、蛇の形の山の上に、白いものが次々駆け上がってくるのが見えました。
白い毛皮の巨大なオオカミの群れです。
「あれは魔王の精鋭部隊だぞ!」
とゼンが言いました。普通の雪オオカミより一回り大きいので分かるのです。
クレバスで振り切った精鋭部隊の雪オオカミたちが、魔王の山のまわりに集結していました。
 アーオオーン・・・・・・
精鋭部隊のオオカミたちが、空のフルートたちに向かって吠えます。
「へへっ、そこからじゃ手も足も出ないだろう」
ゼンは笑いながら言うと、弓矢を構えました。
ところが、狙いをつけようとすると、オオカミたちはさっと氷の陰や割れ目に飛び込んで、姿を隠してしまいました。
「ちっ、相変わらず素早いな」
とゼンは舌打ちをしました。

「魔王とポポロたちは、山の中にいるはずだ」
とフルートが言いました。
「どこかに山の中への入り口があるはずだよ。それを探すんだ」
そこで、ポチはびゅーっと魔王の山のふもと近くに急降下しました。オオカミたちがそれを追って走り出すのが見えましたが、あっという間に引き離されていきました。
ところが、いくら山のまわりを回って探しても、入り口らしいものが見つかりません。
「魔王め。魔法で入り口を隠しているな」
とフルートがつぶやいたとたん、フルートの胸元で金の石が輝き始めました。ゼンが鎖を直してくれたので、フルートはまた首から金の石を下げていたのです。
金の光は、今度はバリアにはならず、サーチライトのような光の束になって、山のふもとの一カ所を照らしました。
すると、何もないように見えた氷の壁に、ぽっかりと入り口が現れました。
「あそこだ!」
とフルートは声を上げました。
「ワンワン! わかりました!」
ポチは勢いよくそこを目ざして飛んでいきました。

ところが、ポチが山の入り口に飛び込もうとしたとき、手前の雪がちらりと動きました。
雪が不自然に崩れます。
ポチは、はっとして、入り口の寸前で向きを変えました。そのまま、空へ急上昇します。
すると。
 ガバァ・・・・・・ッ!!
突然、入り口の前の雪の中から、巨大な怪物が現れました。
蛇のような首を長く伸ばし、空を飛ぶポチを追って、噛みつこうとします。
長い首の下には2枚の翼が生えた大きな体、かぎ爪のついた4本の足、蛇のような長い尻尾・・・
「ドラゴンだ!!!」
フルートたちはびっくりして叫びました。
雪の中から巨大な白いドラゴンが現れたのです。
ポチがドラゴンの牙を避けて、空の上へ上へと逃げます。
すると、ドラゴンが口からバァッと白い煙のようなものを吐きました。
ポチは素早くそれをかわしましたが、煙の端のほうが、少しだけフルートたちに降りかかりました。
とたんに、ピキピキと音を立てて、ゼンの毛皮の服が凍り始めました。フルートの金の鎧にも、白い氷の膜ができます。
「うひゃあ、冷凍光線だ! こいつ、スノードラゴンだぞ!!」
とゼンが叫びました。

バサッ。
スノードラゴンが雪の中から飛び立ちました。フルートたちの後を追って飛んできます。
ゼンは後ろを向いて、次々と矢を放ちました。
 ゴウッ・・・
スノードラゴンは、今度は口から吹雪を吐きました。
矢が吹雪に巻き込まれて吹き飛ばされていきます。
「ちきしょう。全然歯が立たないぞ」
ゼンは悔しさに歯ぎしりをしました。
また、ドラゴンが冷凍光線を吐きました。
白い煙のような光が、ポチとフルートとゼンにまともに降りかかります。
ところが、それより一瞬早くフルートの胸で石が輝いて、金の光で子どもたちを包みました。
冷凍光線は金のバリアに当たって、跳ね返されてしまいました。
 ギャアアア・・・
スノードラゴンはつんざくような叫び声を上げると、今度は口から吹雪を吐いてきました。
ところが、それも金の光のバリアにあうと、四散して消えてしまいました。
「いいぞ! こっちの守りのほうが強力だ!」
とゼンが歓声を上げました。

フルートは炎の剣を抜くと、ポチに向かって言いました。
「上からあいつに急降下してくれ」
「ワン、わかりました!」
ポチは即座に答えると、スノードラゴンの真上に飛んで行きました。そこから、小石のようにまっすぐドラゴンに向かって落ちていきます。
「うひゃー・・・」
ゼンはあわててポチの背中にしがみつきました。風がごうごうと耳元を吹き抜けていきます。
そんなポチの背中で、フルートは炎の剣を構えました。
すぐ下にスノードラゴンが迫ってきます。
首を伸ばし、牙をむいて、フルートたちに噛みつこうとします。
その首めがけて、フルートは剣を振り下ろしました。
「でええーーーーーーーいっ!!!!」
気合いもろともドラゴンの首を切り落とします。
 ボウッ!
ドラゴンの頭は、空中で火を吹き、一瞬のうちに蒸発してしまいました。
首を切られた体が、ゆっくりと地上に落ちていきます。
 ズズズーーーン・・・
地響きを立てて、スノードラゴンの体が地上に落ちました。
雪の中に半ばめり込んだと思うと、そのまま白い氷の塊に変わっていきます。
ゼンが、それを見て、あきれたように言いました。
「スノードラゴンってのは、もとは氷だったのか・・・?」
すると、その目の前で、氷の塊がざあっと音を立てて崩れていきました。白い雪になって、たちまち風に吹き飛ばされていきます。
スノードラゴンの名の通り、雪でできたドラゴンだったのです。


フルートは、ほうっとため息をつくと、炎の剣を鞘に収めようとして、その手を止めました。
ポチも耳をぴくっと動かして振り返りました。
ただならない気配がします・・・近づいてきます・・・

蛇の形をした山の陰から、白い風のようなものが飛び出してきました。
一つ、二つ、三つ・・・全部で七つのつむじ風です。
ゼンが目を丸くして叫びました。
「おい、あれは・・・風の犬だぞ!!」
7頭の白い風の犬が空中を飛び回っていました。ポチよりずっと巨大です。
ポチが激しく吠え始めました。
「ワンワン! あれは犬じゃありません! オオカミです! 風のオオカミの群れですよ!!」
「魔王の精鋭部隊の雪オオカミだ!」
とフルートも叫びました。
「魔王のヤツ、ルルの風の犬の力で、雪オオカミを風のオオカミに変えたんだ・・・!!」

 アーオオオーーーーン・・・
風のオオカミが吠えました。勝ち誇ったような鳴き声です。
ポチはフルートたちを乗せたまま、あわてて逃げ出しました。
その後を、風のオオカミたちが追いかけてきます――



(2004年10月20日)



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