「勇者フルートの冒険・4 〜北の大地の戦い〜」        朝倉玲・作  

24.山の洞窟

グリフィンのグーリーの背に乗って、フルートとゼンとポチはサイカ山脈の中を飛んでいきました。
冷たい風がびゅうびゅうと耳元を吹き抜けていきます。

「しっかし・・・やっぱり俺は納得いかないな」
長い間黙り込んでいたゼンが、急にそんなことを言い出しました。
「確かにロキは闇の一族かもしれないが、なんであんなに北の大地のことを知っていたんだ? どう考えても、あれは雪と氷の中で生きてきたヤツの知恵だぞ」
同じような雪の世界を知っているゼンには、ロキが単にトジー族の真似をしていただけだとは、どうしても考えられないのでした。
「ワン。グーリーに聞いてみましょうか?」
とポチが言って、グーリーの背中を頭のほうへ移動していきました。ポチは他の動物のことばも分かるのです。お互いに犬語とグリフィン語でしばらく話をした後、ポチがまた戻ってきて言いました。
「ワン、ゼンの言うとおりでした。ロキはずっと、北の大地で暮らしていたんだそうです」
「やっぱりな。だが、何故だ?」
とゼンが聞きました。
「ワン。グーリーが言うには、ロキとお姉さんのご両親は、闇の一族の脱走者だったそうです。地上の世界に憧れて、闇の国を逃げ出して、北の大地でトジー族として暮らしていたんです。ロキとお姉さんは、ここで生まれて、ずっとトジー族として育てられてきたし、グーリーも生まれてまもなくここに連れてこられて、大トナカイの姿に変身させられていたから、ずっと自分たちを本物のトジー族やトナカイだと信じていたんだそうです」
「じゃ、ロキたちはずっと、自分たちが闇の一族だと知らなかったのかい?」
とフルートが尋ねました。
「ワン、そうみたいですね。ロキたちのご両親が海で亡くなった後、角を生やした闇の一族が迎えに来て、それで初めてロキたちは自分たちの正体を知ったんだそうです。子どもたちだけで北の大地で生きていくことはできなかったから、闇の国へ行くしかなかったって・・・」
グルルルルゥ・・・と、グーリーが空を飛びながら鳴きました。
ポチは、ワン、と一言それに答えてから、人間のことばで話し続けました。
「グーリーが言ってます。フルートたちの目をあざむくためだったけれど、トジー族の姿で北の大地に戻ってこられて、ロキはすごく喜んでいたんだ、って。グーリーも、本当は、この姿より大トナカイの姿のほうが好きなんだそうです」
「だよなぁ・・・あいつ、北の大地のことを話すときには、妙に嬉しそうだったもんなぁ・・・」
とゼンが言いました。
「北の大地に詳しかったばっかりに、ぼくたちの刺客として、魔王に目をつけられたんだね」
とフルートがつぶやくように言いました。
そして、それっきり、子どもたちは黙り込みました。心の中で、それぞれに、後に残してきたロキのことを考えながら・・・。


やがて、グーリーはひとつの山の前に舞い下りました。
氷でできた山のふもとに、ぽっかりと洞窟が口を開けています。ロキがノーマルソードに映し出してみせた映像と同じでした。
「この奥に金の石があるんだな」
とフルートが言いました。
「バジリスクもな」
とゼンが言いました。
「俺は噂にしか聞いたことがないんだが、確か、鳥の頭と翼をした蛇の怪物なんだろう? 手強いのか?」
とゼンに聞かれて、フルートは肩をすくめて見せました。
「バジリスクの吐く息には毒があって、人間も動物も空を飛ぶ鳥も、近づくとみんな死んでしまうと言われているよ。そいつがにらむと、岩でも砕け散るらしい。で、バジリスクが通っていった跡は、木も草も枯れ果てて、一帯が砂漠に変わっていくんだってさ」
ゼンは、ひゅう、と口笛を鳴らしました。
「そりゃ素敵な話だな。俺たちの相手にはちょうど良さそうだ」

すると、洞窟の入り口を前に、グーリーがじりじりと後ずさりを始めました。おびえたような鳴き声を上げます。
 グルル・・・ギエエン・・・
ポチが振り返って耳を傾け、すぐにフルートたちに伝えました。
「ワン。グーリーはこれ以上洞穴に近づけないそうです。洞穴の中から、金の石の力が伝わってくるから・・・。闇の生き物には、金の石は死ぬほど有毒なんだそうです」
フルートとゼンは、思わずグーリーを見つめてしまいました。どんなに仲間のつもりでいても、越えられない種族の違いを見せられたような気がしました。
「そうか。じゃ、ぼくたちが金の石を取り戻したら、もう一緒には行動できないんだね・・・」
フルートはグーリーに近づくと、羽毛におおわれた首をなでながら話しかけました。
「ここまで連れてきてくれて、本当にありがとう。後はぼくたちだけで大丈夫だよ。魔王がいる山も、教えてもらえたしね。君は、ロキのところに戻るんだ」
「ロキをしっかり守れよ」
とゼンもグーリーに言いました。
 ギエエ・・・
グーリーは一声高く鳴くと、大きな翼を広げて、また空に舞い上がりました。彼らの上空でぐるりと輪を描くと、ロキが残っている方角へ、まっすぐ飛び去っていきます。
それを見送ってから、フルートは仲間たちに言いました。
「さあ、行こう。いよいよ、バジリスクとご対面だ」
「へっ、望むところだぜ」
「ワンワン。がんばります!」
ゼンとポチが答えました。

氷の山の洞窟の中に、フルートたちは足を踏み入れていきました――



(2004年10月9日)



前のページ   もくじ   次のページ