11.魔法の豆
「さ、ここがいい」
そう言って占いおばばがそりを止めました。何もない雪原のど真ん中です。
「ほほ、ちょっと待っておいで。今、北の大地で一番おいしいものをごちそうしてあげるからね。・・・ウィスル!」
おばばが呼ぶと、そりに乗っていた大男がのっそり立ち上がり、そりから荷物を下ろし始めました。黙々と動き回って、雪原の真ん中に火をおこし、その上に雪の入った鍋をかけます。
まもなく、雪が溶けて水になり、お湯が沸き始めました。
「何を料理するんだい。材料なんかどこにもないじゃないか」
ロキが近づいてきて言いました。ロキはまだ用心して、グーリーの背に乗ったままです。
占いおばばはまた、ほほほ、と笑いました。
「材料はこれから現れるのさ。それ、そこの雪原の真ん中に・・・ほらほら、出てきた!」
フルートたちが、えっ? と見ると、今まで雪の他には何もなかった場所に、雪の下から薄緑色のものがむくむくと現れ、太陽の光を浴びながら、ぐんぐんと伸び始めました。
あっという間に太く大きくなり、蔓が伸び、枝葉が広がっていきます。
「豆だ・・・! 豆の木だ!!」
フルートとゼンとポチは目を丸くしました。
みんなが見ている目の前で、豆の木はぐいぐい伸び続け、あっという間に広がって、あたり一面を緑色の葉でおおいつくしました。
「雪エンドウだ・・・」
ロキが呆然としてつぶやきました。
「これ、雪エンドウっていうのかい? ものすごいスピードで成長するんだな」
フルートが言うと、ロキはうなずきました。
「雪エンドウは30分で種から育って実をつける、魔法の植物だよ。北の大地にしか生えなくて、雪とお日様と風の具合で、突然育ち始めるんだ。でも、実がなると30分でもう枯れちゃうから、見つけて収穫するのはすごく難しいんだ。実が現れる時期は、占い師が教えてくれるんだよ・・・」
そう言うと、ロキはグーリーの背中から飛び降りて、ぺこんとおばばに頭を下げました。
「あんた、本当に本物の占い師だったんだね。こんな、なんの目印もない場所で、雪エンドウの生える場所が分かるなんて、すごいや」
「最初からそう言ってるだろう。ほっほ、ま、いいさね。さあ、みんな豆摘みを手伝っとくれ。今、坊やも言った通り、雪エンドウは30分で枯れてしまうんだ。豆がなったら大急ぎで摘み取らなくちゃいけないんだから、がんばっとくれ」
おばばがそう言っている間にも、豆の木はどんどん育って白い花をつけ、花が散って、20センチほどもある豆のさやが、あっちにもこっちにもなり始めました。
「そら、摘んで摘んで。大急ぎだよ!」
おばばにせかされて、子どもたちは大あわてで豆摘みを始めました。大男のウィスルもすごい勢いで豆のさやを取っては、背中の籠に放り込んでいました。
ブホーン、ブホーン!
グーリーや占いおばばのキタオオトナカイが、嬉しそうな鳴き声を上げて、豆の葉や蔓を食べています。
どこからともなく、ウサギやネズミ、リスといった動物たちも集まってきて、一緒に豆や葉を食べ始めました。
「そうか・・・この豆があるから、トジー族や動物たちはこんな雪ばかりの場所でも暮らしていけるんだね」
豆を摘みながら、フルートが感心したように言いました。
そうこうしている間に、豆の木はすっかり花を散らして実を結び、根元の方からどんどん黄色くなってきたと思うと、あっという間に茶色く枯れ始めました。
豆のさやもたちまち茶色くなって、しわしわにしぼんでしまいます。
緑色だった豆畑は、本当に30分もたたないうちに、茶色い枯れ野に変わってしまいました。
「こうやって枯れた後にまた雪が降る。すっかり雪に隠されたところから、ある日突然、また雪エンドウが芽を出して育つ。そうやって繰り返すうちに、雪の中に積もった枯れ草が泥炭に変わっていく。豆は食料に、葉はトナカイの餌に、そして、泥炭は燃料に。あたしたちトジー族の長年の知恵さ」
と占いおばばが言いました。
摘み取った豆は、時間がたっても緑色のままでした。大男のウィスルは、せっせと豆をむいては鍋に放り込んで料理を始めていました。
「さ、時間も惜しい。料理ができあがるまでの間、金の石の勇者たちに、あたしが知っている限りのことを教えようかね」
占いおばばはそう言うと、料理を作っている火のそばにフルートたちを招きました。
(2004年7月20日)
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