「勇者フルートの冒険・4 〜北の大地の戦い〜」        朝倉玲・作  

8.吹雪と怪物

ロキが張ってくれたテントの中で、フルートとゼンとポチは眠っていました。
毛皮のテントを風が叩いていきますが、三角形のテントはじょうずに風をやり過ごすので、少しも危ない感じはしませんでした。
テントの中では泥炭がちろちろと燃え続けていて、とても暖かです。

と。
突然、ポチがぴくっと耳を動かして飛び起きました。
ウ〜・・・っと低いうなり声を上げ始めます。
フルートとゼンはたちまち目を覚まして跳ね起きました。
「どうした、ポチ!?」
「ウゥ〜・・・何かが近づいてきます。大きな動物です。こっちに向かってきます」
ポチはテントの外に向かってうなりながら言いました。
フルートとゼンはそれぞれ盾を持ち、剣やショートソードを構えました。
テントの向こうからは、吹雪の音だけが聞こえてきます。何かが近づいてきていても、風の音にかき消されて、フルートたちには聞こえません。

でも、ポチは言いました。
「近づいてきます・・・まっすぐこっちに来る・・・大きい。すごく大きい生き物です。・・・すぐそばまで近づいています・・・・・・来た!!」
ポチが叫ぶのと同時に、バリバリバリッと音を立てて、テントが外から破かれました。鋭い爪のある前足が、テントの毛皮を引き裂いたのです。
テントの裂け目から、どっと雪まじりの風が吹き込んできて、一気にテントを吹き飛ばしていきました。
フルートたちは、猛烈な吹雪に吹き倒されそうになって、あわてて足を踏ん張りました。

「ギヤーオーオォー・・・・・・ン・・・・・・」
目の前に立つ黒い生き物が吠えました。
まるで巨大なライオンのような怪物です。4本足ですが、頭はまるでワシのようで、背中にも大きな翼があります。足には鋭い爪が、くちばしの中には鋭い歯がずらりと並んでいるのが見えました。
「こいつだ! こいつがメールたちをさらったんだ!!」
とゼンが叫びました。
「ワンワンワンワン・・・!!!」
ポチが激しく吠えたてました。
怪物は、ぎろりとポチをにらみつけると、鋭い爪がついた前足を繰り出してきました。
「ポチ、危ない!」
フルートが盾を構えて前に飛び出しました。怪物の一撃を、ダイヤモンドの盾で受け止めます。ところが、フルートは、そのまま後ろに数メートルも吹っ飛ばされて、雪の中に倒れてしまいました。ものすごい力です。
「フルート!」
「ワンワン! フルート、大丈夫ですか!?」
ゼンとポチが駆け寄りました。
「だ、大丈夫・・・雪がクッションになったから・・・」
フルートがそういっている間に、怪物が飛びかかってきました。
ネコのように大きく跳躍して、子どもたちの真ん中に着地します。
「うわーっと・・・!!」
ゼンとポチはあわてて飛び退きました。
フルートも雪の上を転がって怪物をよけると、急いで立ち上がりました。
足下は積もったばかりの雪。足を取られて動きが鈍くなります。

「チキショウ! この風!」
いまいましそうにゼンが叫びました。
吹雪が激しすぎて、得意の弓矢が使えないのです。

「ゼン、ポチ、よけて!」
フルートはそう言うと、怪物に向かって炎の剣を振りました。
剣の先から炎が吹き出して、怪物の目の前で炸裂しました。雪がそこだけ溶けて、黒い岩肌がのぞきます。
さすがの怪物も、ちょっとひるんだ様子で後ずさると、フルートの方を見ました。
フルートは剣を構え直しました。

すると。
突然、怪物はぐるりと振り返ると、バサッと翼を打ち合わせて空に飛び立ちました。
そして、ゼンの上を飛びすぎるとき、後足でゼンをがっちり捕まえていったのです。
「ゼン!」
「ワンワン! ゼン!!」
フルートは炎の剣を振りました。けれども、炎の弾は怪物に届きません。
ポチは素早く風の犬に変身して後を追いました。
激しい吹雪の中、怪物はぐんぐん飛び去っていきます。
ポチは懸命に後を追いましたが、風に逆らいながら飛ぶのが難しくて、あっという間に引き離され、見失ってしまいました。

「ゼン・・・・・・」
フルートは呆然としてつぶやきました。
ポチが戻ってきて、もとの小犬の姿に戻りました。
「すみません、フルート・・・ゼンが、ゼンが・・・」
ポチは半分泣き声でした。
「ゼンを助けなくちゃ」
フルートはそうつぶやくと、怪物が飛び去った方向へ歩き出しました。けれども、一歩進むごとに、ずぶりずぶりと足が雪に埋まって、思うように進めません。

風が正面からどっと吹きつけてきて、フルートは思わずよろめきました。
「キャン!」
ポチが風に吹き飛ばされて雪の上に転がりました。
「ポチ・・・!」
フルートはあわててポチに駆け寄ると、腕の中に抱き上げました。
吹雪はますます激しくなるばかりで、もう一歩も先に進めません。目を開けているのも、息をすることさえも難しいくらいです。
フルートはポチを抱きしめて風に背を向けると、その場にうずくまりました。
あたりは一面の吹雪。
雪は、白い闇のように空間をおおい尽くしています。
フルートは、そのままじっと動かなくなりました・・・。



(2004年7月7日)



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