「勇者フルートの冒険・4 〜北の大地の戦い〜」        朝倉玲・作  

6.雪オオカミ

キタオオトナカイのグーリーは、大きな背中に3人の子どもたちと小犬のポチを乗せて、飛ぶような速さで北へ北へと進んでいました。
その間に、フルートとゼンはロキにこれまでの冒険の数々を話して聞かせました。
フルートが魔の森で泉の長老から金の石をもらったこと・・・ゼンやポチと仲間になり、一緒に南の沼のメデューサを退治したこと・・・東の国の王様に頼まれて風の犬を退治に行き、最後には天空の国で魔王と対決したこと・・・海に逃れた魔王に、海の仲間たちと力を合わせて立ち向かい、死闘の末、ついに魔王を消滅させたこと・・・

「ふえぇ。兄ちゃんたちって、ホントにすごい勇者だったんだなぁ!」
話を聞いたロキは、すっかり感心して、そう叫びました。
「それならさ、姉貴たちをさらった怪物なんて敵じゃないよね。よかったぁ!」
そう言って安心したように笑うロキに、ゼンは、ちぇっ、と舌打ちしました。
「ホントに単純なヤツだな、おまえは。空飛ぶ怪物だけが敵だと思ってるのかよ。賭けてもいい。サイカ山脈には、怪物を操っている大ボスも絶対にいるぞ」
「え・・・大ボスって・・・誰さ、それ?」
「知るか。でもな、北の大陸の雪と氷を溶かして、世界中の陸地を海に沈めようとしているんだ。とんでもなく強力な敵なのは、間違いないぞ」
「うひゃー・・・」
ロキは青くなると、フルートとゼンに向かって言いました。
「で、でもさ、勝つだろ? 兄ちゃんたち、勝てるよね・・・!?」
「勝つさ」
フルートはきっぱりと答えました。
勝たなければ、女の子たちを救い出すことはできません。
たとえ慣れない雪山の中で戦うことになっても、金の石の守りがなくても、フルートたちは絶対に勝たなければならないのです。


すると、それまで飛ぶように走っていたグーリーが、突然ぴたりと立ち止まりました。
あまり急だったので、子どもたちは危なく背中から転げ落ちそうになりました。
「どうしたんだ、グーリー?」
ロキが声をかけると、大トナカイはじりじりと後ずさりを始め、突然ぱっと向きを変えて走り始めました。
「う、うわー! どうしたんだよ、グーリー・・・!??」
ロキが悲鳴を上げると、ゼンとフルートとポチが、後ろを見ながら同時に叫びました。
「何かが来る!」
「追ってきやがるぞ!」
「ワン! 獣の群れです!」
伸び上がって後ろを振り返ったロキは、真っ青になって叫びました。
「あれは・・・雪オオカミだ!!」
十数頭の白い獣が、黒い岩の間を走り、飛び越えて、まっすぐこちらに走ってくるのが見えます。
確かに、姿はオオカミそっくりですが・・・
「なんであんなにでかいんだよ!?」
とゼンがどなりました。
雪オオカミは、一頭一頭がまるで子牛のように大きいのです。
あんな群れに襲われたら、大トナカイのグーリーだってひとたまりもありません。

「よし」
フルートは背中から炎の剣を抜きました。
ゼンはグーリーに後ろ向きに乗り直すと、エルフの弓矢を構えました。
その間にも、雪オオカミの群れはぐんぐん迫ってきます。
ついに、先頭のオオカミがグーリーのすぐ後ろまで追いついてきました。
鋭い牙の並んだ口を大きく開けて、グーリーの後足にかみつこうとします。
とたんに――

「ギャン!!」
雪オオカミが悲鳴を上げて岩の上に転がりました。
眉間にエルフの矢が突き刺さっています。
「へっ、見たか」
ゼンは得意そうに、にやりとしましたが、他のオオカミが次々と追いついてきたので、あわててまた弓に矢をつがえて撃ちました。

「フルート、乗ってください!」
ポチが風の犬に変身して言いました。
フルートがポチに飛び乗ると、ポチはひゅうっとうなりを上げて空に飛び立ち、雪オオカミたちの間をすり抜けていきました。
フルートは剣を右に左に振って、オオカミを次々となぎ倒していきます。
炎の剣に切られたオオカミは、ボッと火を吹いて燃え出しました。

5分とたたないうちに、雪オオカミは一頭残らず動かなくなっていました。
「すごいや・・・」
ロキはグーリーを立ち止まらせると、目を丸くしながら地面に下りてきました。
オオカミはみんな、急所を矢で打ち抜かれたり、燃えて黒こげになったりしています。
「雪オオカミってのは、いつもあんなに凶暴なのかい?」
とフルートがロキに聞きました。
「うん。いつも群れになって、獲物を探しているんだ。あいつらに村が全滅させられることもあるんだよ。それを簡単にやっつけちゃうんだから、兄ちゃんたちって、ホントにすごいや」
そう言いながら、ロキは矢で撃たれたオオカミをずるずる引きずって、グーリーの背中に乗せ始めました。
「おい、なにやってんだ?」
ゼンがたずねると、ロキは答えました。
「雪オオカミの毛皮は高く売れるんだよ。これを持って行って、兄ちゃんたちの服と交換しようと思ってさ」
ほー、とフルートとゼンは感心して顔を見合わせました。
このロキという男の子、ほんとうに、小さいけれどなかなかしっかりしています。

フルートとゼンも手伝って集めてみると、矢で撃ち殺した雪オオカミは4頭いました。
それをグーリーの背中に積むと、一行はまた、北へ北へと進み始めました・・・。



(2004年6月24日)



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