「勇者フルートの冒険・4 〜北の大地の戦い〜」        朝倉玲・作  

4.トジー族の村

エルフにもらった弁当で腹ごしらえをした後、フルート、ゼン、ポチは陸地の奥をめざして歩き出しました。
草一本生えていないむき出しの岩場が、延々とどこまでも続いています。

ところが、いくらも行かないうちにフルートたちは大きな川に出くわしてしまいました。雪と氷が溶けた水が集まってできた急流です。
とても渡れそうにないので方向を変えて歩いていくと、またすぐに別の川にぶつかりました。
しかたなくまた方向を変えると、また別の川。
その向こう側にも、また川が見えます。
これではとても先に進めません。
ポチが風の犬になってフルートたちを乗せて飛んでいくことになりました。
「ポチ、疲れたらすぐに地上に降りていいからね。この先、まだまだ道のりは長いんだから、全部空を飛んでいこうとしたら、くたびれて、肝心の決戦で戦えなくなっちゃうからね」
とフルートが心配して言いました。
「ワンワン。分かりました」
そう言うと、ポチは背中にフルートとゼンを乗せて、びゅーんと飛び立ちました。

空から見ると、地上の様子はいっそうよく分かりました。
黒い岩場のいたるところを、何百本もの川が縦横無尽に流れています。川はあちこちで出会い、激しくぶつかり合いながら合流して、もっと下流へと流れていきます。そうして、川は海まで到達して、滝となって海に注ぎ込んでいるのです。
「すごい量の水だよなぁ」
とゼンがつぶやきました。
「これ全部、もとは雪や氷だったんだってんだろ? これが全部海に流れ込んで行くんだから、海だって大変だよなぁ」
「こういうことが、北の大地全体で起こっているんだからね。今は海王たちと天空の民たちが協力して抑えているけど、このままだと、そのうち海王たちにも抑えきれなくなるのかもしれないな」
とフルートも言いました。
何とか早く敵を見つけて、ポポロやメールたちを助け出し、敵を倒さなければ、世界中が水没してしまうかもしれません。


そのとき、ポチが急にワンワンと鳴きました。
「村です! 小さいけれど、村が見えますよ!」
行く手に小高い岩の丘があって、そのてっぺんに、小さな家が十数件かたまっているのが見えました。
「よし。降りて、話を聞いてみよう。何か分かるかもしれない」
とフルートは言いました。
「ついでに食い物もわけてもらおうぜ。俺たちが持ってきた分の食料だけじゃ心もとないぞ」
とゼンも言いました。
このあたりは草木1本、小鳥1羽見あたらない荒れ地です。食料を補給しておかないと、じきに食べ物が底をついてしまいそうです。
そこで、ポチは丘のふもとにすーっと降りて、元の小犬の姿に戻りました。

丘を登っていくと、そこは村と言うより、キャンプ場という感じの場所でした。
皮でできたテントが十数個、寄り集まるように建てられています。テントの前には石でかまどが作ってあって、小さな鍋がぐつぐつ何かを煮ていました。

テントの周りでは、何人かの子どもが遊んでいます。
その姿を見て、フルートとポチは目を丸くしてしまいました。
「あの子たちの耳! まるで・・・ウサギみたいだ!」

そう。村の子どもたちは姿かたちは人間なのに、耳だけが長くて毛が生えていて、ウサギそっくりなのでした。
ゼンが言いました。
「なんだ、フルートは知らなかったのか。北の大地の住人は、みんなああいう耳をしてるんだぜ。トジー族って言って、エルフの遠い親戚なんだとさ。トジー族の人間はいつも毛皮の服を着ているから、外で出会うと二本足で歩く大きなウサギみたいに見える、ってじいちゃんが言っていたぜ」
「ふーん・・・」
フルートはすっかり感心してしまいました。世界にはフルートが知らないことが、まだまだたくさんあるようです。

一方、トジー族の子どもたちもフルートたちに気がつきました。耳が長いだけあって、音がよく聞こえるようです。フルートたちの声を聞きつけて振り返り、真っ青になってテントの中に飛び込んでしまいました。
「あれ。隠れてしまいましたよ」
とポチが言いました。
「ぼくたちがこんな短い耳をしているから、びっくりしちゃったのかな」
とフルートが心配そうに言うと、ゼンは首をひねりました。
「どうかな・・・。北の大地には、俺達の大陸からけっこう人間が渡っているんだぜ。現に俺のじいちゃんも親父も、若い頃何度も北の大地に来て狩りをした、って言ってたぜ。耳が短いくらいで、そんなに驚くか・・・?」

そう言うゼンのことばが終わらないうちに、丘の上のテントからトジー族の大人たちが次々に姿を現しました。皆、ウサギのように長い耳をしています。服は毛皮ではなく、普通の布の服でした。雪や氷がなくなって、暖かくなっていたからでしょう。
トジー族の大人たちが弓矢や武器を構えているのを見て、フルートたちは思わず足を止めました。
大人たちは、とても険しい顔でフルートたちをにらみつけています。

「ゼン、ポチ! 下がって!」
フルートはそう叫ぶなり、前に飛び出してダイヤモンドの盾を構えました。
大人たちが撃ってきた矢が、フルートの盾に当たって、地面に落ちました。動物の骨を鋭く削った矢尻がついています。
「なにしやがんだ、いきなり!!」
ゼンはかっとなってエルフの弓矢を撃ち返そうとしました。
「ゼン!」
フルートは鋭く叫ぶと、ゼンの前に立ちふさがりました。
「わけはわかんないけどさ、ここで彼らと戦うわけにはいかないよ。とにかく、ここを離れよう!」

怒声とともに、トジー族の大人たちがどっと駆けだしてくるのが見えました。手に手に刀や銛(もり)、棍棒などを構えています。フルートたちに襲いかかろうとしているのです。
ひゅん、とポチが風の犬に変身しました。
「二人とも、早く乗ってください! 早く!」
ポチにせかされて、フルートとゼンはポチの背中に飛び乗りました。
空に飛び上がった彼らに向かって、またばらばらと矢が飛んできました。
ポチはぐるぐると渦を巻いて空を飛び、矢を風に巻き込んで地上に落とすと、そのまま大急ぎで丘から離れていきました。
トジー族の叫び声が、どんどん後ろに遠ざかっていきます。


その様子を、丘のふもとからじっと眺めている者がいました。
ウサギのような耳をした、トジー族の少年です。
「ふーん・・・」
少年はそうつぶやくと、連れていた大きな生き物の背中にまたがりました。
「行こう、グーリー。あいつらを追いかけるんだ」
そう声をかけると、大きな生き物は岩場も急な川も軽々と飛び越えて、走り始めました。
フルートたちの後を追って、まっすぐに・・・・・・。



(2004年6月15日)



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