27.帰還
海に浮かぶ緑の小島。
その島の湖に建つ渦王の館で、勝利の祝賀会が開かれていました。
たくさんの海の民、森の民、鳥や獣や海の生き物たちが集まる大広間に、渦王と海王が並んで立っています。・・・海王は、魔王が消滅すると同時に自分の力を取り戻して、目を覚ましたのです。
海王は、本当に渦王にそっくりでしたが、青い口ひげを生やし、大きい金の冠をかぶっているところだけが渦王と違っていました。
そして、渦王と海王のそばには、もうひとり。赤い髪と赤いひげ、立派な服を着て金の冠をかぶった天空王も立っていました。戦いがすんだので、天空の国から下りてきたのです。
3人の王を代表して、海王が言いました。
「勇者たち、前に出よ」
深く重々しい声です。
大広間の中央に敷かれた赤いじゅうたんの上を、フルート、ゼン、ポチ、メール、ポポロ、ルルの4人と2匹が進んでいきました。
王たちの前につくと、横一列に並びます。
みんな、鎧甲を身につけ盾や剣や弓矢を持った、戦いの格好のままです。ポポロは黒い長い服を着ています。
海王が言いました。
「勇者たちよ、本当によく戦ってくれた。そなたたちのおかげで海の平和は守られた。心から礼を言うぞ」
すると、渦王も言いました。
「おまえたちが魔王を倒してくれたおかげで、石にされていたわしの軍勢が元に戻れた。怪物に変えられていたものたちも元の姿に戻ったし、なぞなぞしか言えなくなっていたものたちも、また自分のことばで話せるようになった。皆、おまえたちに本当に感謝しているぞ」
最後に、天空王も言いました。
「フルート、ゼン、ポチ。海の民と天空の国の民は、古くからの友人なのじゃ。そなたたちは、我々に共通の敵である魔王を倒して消し去ってくれた。心から感謝する。本当にありがとう」
そして、フルートたちひとりひとりに、海王自身の手で美しいメダルが与えられました。
海を思わせる青いサファイヤがはめ込まれた金のメダルで、表面に海王の紋章が刻んであります。
「これ、海王が最高の勇者に贈るメダルなんだよ。あたいだって、もらうのは初めてさ」
と、メールが小さな声で嬉しそうに教えてくれました。
すると、渦王が言いました。
「さて、ゼン、ポポロ、ルル。おまえたちにはもうひとつ、与えるものがある」
そう言って渦王が家来に持ってこさせたのは、小箱に入った3粒の青い真珠でした。
「人魚の涙だ!」
ゼンが声を上げました。
飲むと水中でも息ができる魔法の真珠。フルートとポチは、これを飲んだので水中でも平気でいられたのです。ところが、ゼンは真珠が喉にひっかかったので、咳をした拍子に吐き出してしまったのでした。
渦王が、おごそかに言いました。
「ゼンよ、おまえはその水の防具のおかげで水中でも自由に動けていたが、それを脱いでしまえば、おまえはたちまち溺れてしまう。わしたちは、水でおまえたちの命が奪われるようなことを望まん。それを飲むがいい。そうすれば、水は今から永遠におまえたちの友となるだろう」
そこで、ゼンとポポロとルルは魔法の真珠を飲みました。今度はゼンも本気だったので、無事に真珠を飲み込むことができました。
大広間に集まった者たちの間から、わーっと拍手がわき起こりました。
これで、フルートたちはみんな、海の民の友だちとなったのです。
「さあ、それでは宴だ! 勇者たちをたたえて、勝利の宴を開こうではないか! 皆のもの、好きなだけ食べたり飲んだりするがいい!!」
渦王が大きな声で言うと同時に、大広間のドアが勢いよく開いて、山のようなごちそうが運び込まれてきました。酒や飲み物の樽もどんどん運び込まれてきます。
集まった者たちは大喜び。たちまち大パーティが始まりました。
フルートとゼンとポチ、メールとポポロとルルも、あっという間に人々に取り囲まれ、口々にお礼を言われ、勇敢に戦ったことを誉めたたえられ、ごちそうや飲み物を勧められました。
その日一日、渦王の館は大にぎわいとなりました・・・。
そして、翌朝。
フルートとゼンとポチは、館の中庭にある水路のほとりに立っていました。
パーティで大騒ぎしたものたちは、皆それぞれの家に帰って、館の中はもう静かです。
中庭に一緒にいるのは、メールとポポロとルル、そして、海王、渦王、天空王の3人の王だけでした。
フルートは言いました。
「いろいろお世話になりました。それでは、ぼくたちは帰ります」
「うむ。本当に世話になった。感謝しておるぞ」
と海王が言いました。
「また遊びに来い。おまえたちがくれば、海はいつでも歓迎するぞ」
と渦王も笑いながら言いました。
天空王は、フルートたちが返した光の剣と光の矢を手に持っていました。
「フルート、ゼン、ポチ。光はいつもそなたたちと共にある。そなたたちがまた強大な敵と戦って、光の力が必要になったら、いつでも我々天空の民を呼ぶがよい。我々は必ずそなたたちを助けるからな」
と天空王も言いました。
フルートたちは、ありがとうございます、と頭を下げました。
「あーあ、ホントに帰っちゃうんだね」
とメールが口をとがらせて言いました。
「ずっと戦ってばかりだったんだからさ、もう少し遊んでいけばいいのに」
「うん。でも、家で父さんや母さんが待っているからね」
とフルートは答えました。この冒険に出かけるとき、家に両親がいなかったので、フルートは置き手紙を残して家を出てきたのです。それからなんの連絡もしていないので、2人ともきっととても心配していることでしょう。
「また遊びに来るさ」
とゼンが言いました。
「泉の長老に頼めば、いつでもまた、ここに送ってくれるだろうからさ。今度来るときには、山の中で採れる珍しい石を持ってきてやるよ。暗闇の中で虹色に光るから、灯りの代わりになるんだぜ」
「ホント? 約束だよ! ゼンが来るのが遅かったら、あたいのほうでそっちに押しかけるからね」
「おう、いつでも来い。山の下の洞窟を案内してやるから。ドワーフの作業場とか、まだ見たことないだろ? きれいな石や宝石が掘り出されてくるんだぜ」
「へぇぇ・・・面白そう! よぉし、絶対行くからね!」
メールとゼンは、すっかり意気投合しているようでした。
「ポポロはいつ家に帰るの?」
とフルートが聞きました。
「あたしも今日中には帰るわ。・・・天空王様が一緒に連れて行ってくださるんですって」
とポポロが答えました。
「ポポロとルルも、ぼくたちのところに遊びにおいでよ。ルルに乗れば飛んで来ることができるだろう?」
とフルートが言うと、ポポロとルルはにっこりしました。
「そうね。天空の国から外に出るのには、天空王様のお許しが必要なんだけど・・・」
そう言ってポポロは天空王の顔を見ました。
天空王もにこにこと笑っていました。
「むろん、許可するぞ。フルートたちと会うのなら、いつでも地上に降りて良い」
「やったぁ!」
フルートとポチ、ポポロとルルは大喜びしました。
「また、みんなで冒険しようぜ!」
「このメンバーで冒険したら、絶対に、向かうところ敵なしだよねっ!」
ゼンとメールも大はしゃぎです。
「さあ、それではフルートとゼンとポチを、長老の泉に送るぞ」
と渦王が言いました。
メールとポポロとルルは、フルートたちから離れました。
「また会いましょうね」
ルルがポチに言っていました。
「うん、またね」
ポチが答えました。
館の中庭の水路から、青と銀の2匹の水蛇が姿を現しました。渦王の水蛇のハイドラと、海王の水蛇のネレウスです。ネレウスは、魔王が死んだのですっかり正気に返っていました。
「この2匹がおまえたちを送っていく。乗っていくがいい」
と渦王が言ったので、フルートたちは歓声を上げました。
「すごい!」
「うひょー、かっこいいぞ!!」
ハイドラの上にはゼンが、ネレウスの上にはフルートとポチが乗りました。
「2匹とも、しっかり勇者たちを送るのだぞ」
海王に言われて、ハイドラとネレウスは、わかりました、と言うように頭を下げると、そのまま水路の水の中に飛び込んでいきました。
「フルート、ゼン、ポチー!」
「また会おう――!」
メールやポポロ、渦王たちの声がフルートたちを送ってくれました。
渦王の館の水路は、奥底で世界中の海や水とつながっています。
魔の森の泉に向かうトンネルを、2匹の水蛇はフルートたちを乗せてどんどん進んでいきました。まるで水の中を飛んでいくような勢いです。
すると、いつの間にか、その脇を一緒に泳いでいる魚がいました。
マグロです。
「マグロくん!」
フルートたちは喜びました。魔王と最後に戦った後、マグロとはずっと会えないでいたからです。
「いろいろありがとうございました」
とマグロが言いました。
「また、いつでも海に来て下さいね。今度は海の中の美しい場所やすばらしい場所にもご案内しますから」
「ありがとう。また会おうね」
フルートはマグロに手を振り返しました。
マグロは立ち止まると、手を振る代わりにひれを振りながら、フルートたちを見送ってくれました。
そして・・・・・・
フルートたちは、森の中の泉に出ました。
泉の上には白いひげの長老が立っていて、穏やかな笑顔で出迎えてくれました。
「よく戻った、子どもたちよ。ご苦労であったな」
「こちらこそ、いろいろと助けていただきました」
フルートはネレウスから下りると、そう言って長老に頭を下げました。
ゼンも、ハイドラから飛び降りると、長老に向かって言いました。
「なぁなぁ、長老、今度俺たちが海に行きたくなったら、また送ってくれるかい? 俺、絶対にまたメールや渦王に会いに行きたいんだ!」
「むろんじゃ。・・・そう遠くないうちに、また会えるのではないかのぅ」 長老は、ちょっと謎のようなことを言って、静かに笑いました。
2匹の水蛇が泉に潜って、また海に帰っていきました。
それを見送ると、フルートは、うーんと大きく背伸びをしました。
「海もいいけど、やっぱり森はいいなぁ・・・! さあ、ポチ、家に帰ろうか!」
「ワンワン! なんだか、すごく久しぶりのような気がしますね」
と、ポチも嬉しそうにしっぽを振りました。
「俺は山に帰るぜ。でも、また遊びに来るからな。一緒にまた海に行こうな」
とゼンが言いました。
「うん。ポポロとルルも一緒にね」
「ああ、みんな一緒にな」
そう言って、フルートとゼンはうなずき合いました。足下ではポチがしっぽを大きく振っていました。
「それじゃ、長老。また」
フルートたちは泉の長老に挨拶をすると、森の外に向かって歩き始めました。
空は青空、金の日の光が泉に森に降り注いでいます。
フルートたちがまた、この道を歩く日も来ることでしょう。
もしかしたらそれは、新たな冒険の始まりなのかもしれません。
でも、今は・・・
昔話の決まりことばで、この長い冒険物語の幕を閉じることにいたしましょう。
「そして、世界は平和になりました。
――めでたしめでたし。」
以上で「フルートの冒険3 〜謎の海の戦い〜」は完結です。
長らくお付き合いくださって、本当にありがとうございました。 from 朝倉
(2003年11月1日)
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