「勇者フルートの冒険・3 〜謎の海の戦い〜」        

24.光の花

メールは花の鳥に乗って、クラーケンに近づいていきました。
ゼンがめざとくそれに気がついて、声を上げました。
「メール! メールじゃねぇか!!」
フルートやポチたちも振り返って歓声を上げました。
「メール! もとの姿に戻れたんだね!」
「ワンワン、良かった良かった!」
メールは笑い返しました。
「ポポロの魔法で元に戻してもらったんだよ! ポポロはすごいねぇ。天空の国から花まで降らせてくれたんだよ」
それを聞いて、フルートたちはポポロのほうを見ました。
ポポロはルルの背中から、ちょっとはにかんだような顔で手を振り返しました。

それから、メールは海上に立つ渦王に言いました。
「父上、今度こそ、あたいも戦うからね。クラーケンはあたいに任せて!」
そして、渦王の返事も聞かないうちに、びゅーっと怪物めざして飛んでいきました。
「やれやれ。全然こりとらんようだな」
渦王は渋い顔でつぶやきましたが、すぐに笑顔に変わりました。娘が元の姿に戻ったのが、とてもとても嬉しかったからです。


クラーケンは何百という目でまわり中をにらみながら、何百という腕を四方八方に伸ばし、大きな丸い口からフルートたちに向かって熱光線を吐いていました。
熱光線はフルートたちのところまでは届きませんでしたが、光の当たった海上では激しい蒸気が上がり、白い霧になってあたりにただよい始めました。

メールはその真上まで飛んでいくと、鋭く叫びました。
「花たち! クラーケンを捕まえるんだよ!」
すると、メールの乗っていた花の鳥がざーっと音を立てて崩れ、巨大な花の網に姿を変えました。
いちだんと小さくなった花の鳥に乗って、メールがまた叫びました。
「それ、行けっ!」
メールの号令と共に、花の網がふわりとクラーケンの上に落ちていきました。
クラーケンはたくさんの腕で網を捕まえると、たちまち引きちぎってしまいます。
ところが、網は、もともとが小さな花の集まりです。引きちぎられてばらばらになっても、花はまたすぐにつながりあって、大きな網に戻ってしまいました。
網がクラーケンにからまりついて、ぎゅうぎゅうと締め付けます。
クラーケンは怒って熱光線を吐き、腕で花の網をつかんで引きむしろうとしました。

すると、メールが鳥の上からまた言いました。
「花たち! 根を張るんだよ!」
とたんに、花がいっせいに茎を伸ばし、その先をクラーケンの体に突き立てました。緑の葉が次々と増え、花の数がいっそう増えます。花がクラーケンの体の中に根を下ろして育ち始めたのです。
花は怪物の何百という目にも根を下ろしました。
クラーケンは苦しがり、海の上をのたうち回りました。

「すごい・・・」
フルートとポチは、思わずつぶやきました。
メールの花にこれほどの威力があるとは思っていなかったからです。
初めてメールと出会ったとき、フルートたちはメールの作った花の巨人と戦ったのですが、あれはメールとしては実力の何分の一も力を出していなかったのでしょう。
さすがは渦王の娘というところです。


そのとき、クラーケンの体に異変が起き始めました。
真っ黒いぬめぬめした体から、すうっと白いものが抜け出して、空に逃げ始めたのです。
クラーケンに乗り移った幽霊でした。
幽霊が、次々とクラーケンから離れ始めたのでした。

それを見て、渦王がいいました。
「あれは天空の国の花だ。幽霊どもにとっては大の苦手な光の花なのだ。それで、花の網から逃げ出そうと、クラーケンから離れ始めたのだ」
「へえっ、そうなの?」
びっくりしたように言ったのは、他でもない、メール自身でした。
「思いがけない効果があったんだね。よぉーし、それなら・・・花たち! もっともっと深く根を下ろすんだよ! クラーケンから、徹底的に幽霊を追い出してやりな!」
花たちがそれに答えるように身震いして、いっそう緑を濃くしました。クラーケンからどんどん幽霊が飛び出していきます。
「いいよ、その調子! どんどんやりな!」
メールが歓声を上げたとき――

「危ない!」
ゼンの声が響いて、メールのすぐ後ろに光の矢が飛んできました。
 バシュ!
音を立てて、数体の幽霊が霧のように消えました。
クラーケンから離れた幽霊が、後ろからメールに襲いかかろうとしていたのを、ゼンが光の矢で助けたのです。
ゼンがマグロの背中からメールに言いました。
「気にせず花を操れ! おまえに近づく幽霊は、俺が全部しとめてやるから!」
「え・・・あ・・・ありがとう・・・」
メールはびっくりしたようにお礼を言うと、ちょっと頬を赤くしました。

「ポポロー!」
フルートが光の中にいるポポロを呼びました。
「なぁに!?」
ポポロがたずね返します。
「ぼくたちのほうに来てくれないか!? その守りの光で、幽霊たちを消してくれ!」
「わかったわ!」
返事をするが早いか、ポポロはルルに乗ったまま、まっすぐフルートたちのほうへ飛んできました。
ポポロを包む天からの光も、サーチライトのように一緒に移動して、そのあたりにいた幽霊たちをあっという間に消滅させてしまいます。
ポポロはそのまま、ルルと一緒にあちこち飛び回り、空にいる幽霊を片っ端から消していきました。

その様子を見ながら、ポチがつぶやきました。
「消えた幽霊たちはどこに行くのかなぁ」
「天国に行くんだよ」
とフルートは答えました。
「天国に行きそびれた魂たちが幽霊になるんだ。光に焼かれて浄化されたら、今度こそちゃんと天国に行けるんだよ」
「ふぅん・・・それならいいな・・・」
ポチは消えていく幽霊たちをじっと見つめて言いました。
幽霊は、光に焼かれて消えるときに、きらきらと光の粉を残していきます。それが舞い上がるように天に昇っていく様子を、フルートとポチは、少しの間見送っていました。

やがて、とうとうクラーケンからすべての幽霊が離れました。
クラーケンの体が光に包まれ、ぐうんと一回り小さくなります。
メールが叫びました。
「お戻り、花たち! もういいよ!」
すると、クラーケンの体から花が離れて空に舞い上がりました。
空はあっという間に花でいっぱいになりましたが、メールがさっと手を振ると、ざーっと一カ所に集まって、また大きな鳥の姿になりました。
海上を包んでいた光が消えて、クラーケンが現れました。
本当のクラーケンは、一匹の巨大なタコでした。
2つだけになった黒い目で、まわりにいるフルートたちを見回すと、ちょっと頭を下げ、そのまま海に潜っていきました。
まるで、「助けてくれてありがとう」とみんなにお礼を言っていたようでした。


「さあ、これで敵は魔王と水蛇のエレボスだけになった」
とフルートが言ったので、全員はさっと緊張して、改めて武器を握り直したり、身構えたりしました。
海上にいるのは、マグロの背に乗ったゼンと、海の上に立っている渦王。
空中にいるのは、ポチに乗ったフルートと、花の鳥に乗ったメールと、ルルに乗ったポポロ。ポポロのまわりには天から守りの光が差しています。

魔王はエレボスと共に海に潜ったままです。
どこに隠れているのでしょう。
「よし、俺が行って探してくる!」
とゼンが海に潜ろうとしたとき、海面がぐうっと盛り上がって、中から何か大きなものが飛び出してきました。
黒い長い水の蛇・・・
「エレボスだ!」
全員は思わず叫びました。が、海面に現れたエレボスの顔を見たとたん、みんなはあっと声を上げて驚きました。
蛇の顔ではなく、魔王の顔になっていたのです。

「魔王め、エレボスと合体したな!」
渦王がうなるように叫びました。
すると、魔王の顔が笑いました。
「そうとも。おまえたちをまとめて片づけるためにな。・・・こんなふうに!!」
言うのと同時に、魔王−エレボスは海に潜りました。
とたんに、今まで静かだったあたりの海がざーっと音を立てて流れ始めました。
みるみるうちに流れは速くなり、ぐるぐると回り始めて、大きな渦巻きになります。

「うひゃー・・・!!」
マグロとゼンは渦に飲み込まれそうになって、あわててその場を離れようとしました。
すると、海中から突然槍のようなものが飛び出してきたのです。
 バシュッ!
マグロがきわどいところでそれをかわすと、今度は渦王を狙って槍が飛び出してきました。
「むっ!」
渦王が手を上げると、槍がざぁっと崩れて海に落ちました。・・・水でできた槍だったのです。
「魔王め、エレボスと合体することで、このあたりの海と同化しているぞ。海の水を武器にして攻撃してきておる! みんな、気をつけろ!」
「み、水の槍・・・この剣と同じかよ!」
ゼンは急いで武器を海の剣に持ち帰ると、目の前に突き出てきた水の槍を切り払いました。
 ザーッ
音を立てて槍が崩れ、海の水に戻りました。
でも、水の槍は次々と海から飛び出してくるのです。
それも、空にいるフルートやメール、ポポロたちまで狙って、高く高く突き出してきます。
「うわっと・・・!」
「危ない!」
「きゃあ!」
フルートたちは槍をかわすので精一杯です。
水が渦を巻いて流れているので、次の槍がどこに出てくるのか、まったく予想が立ちません。
渦王は手を高く差し上げて、海にできた大渦巻きを消そうとしていましたが、魔王の力が強すぎて、なかなかうまくいかないようでした。

「どうしたらいいんだろう。どうしたら・・・」
ポチの背中の上で、フルートは必死で考え続けていました――


というところで、つづきはまた次回――。

(2003年10月21日)



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