「勇者フルートの冒険・3 〜謎の海の戦い〜」        

23.クラーケン

フルートとポチ、ゼンとマグロは、天からさす守りの光から飛び出していきました。
光の目の前では、黒い水蛇エレボスが鎌首を高々と持ち上げて待ちかまえています。その頭の上から魔王が言いました。
「光の剣が届いたか。天空王も余計なことをする」
「へっ! 今度こそ、おまえたちもおだぶつだぞ! エレボスと一緒に塵にしてやらぁ!」
ゼンは威勢よく言うと、背中の光の矢をエレボスに向かって射ました。
でも、魔王がちょっと手を振ると、矢は蛇の体に届く前に吹き飛ばされてしまいました。
「ちぇっ、やっぱり光の矢じゃダメか。それじゃ、俺はこっちだな」
そう言って、ゼンは武器を海の剣に持ち替えました。

「さあ、行くぞ、魔王! 半年前の戦いの決着をつけよう!」
フルートが光の剣を握りしめて言いました。
ところが、魔王は薄笑いを浮かべながら言うのです。
「光の剣と海の剣、しかも後ろには、一度だけだが強力な魔法を使える魔法使いが控えている。このままでは、こちらの分が悪いというものだ。・・・それ、行け、海の亡者ども! おまえたちの本当の力を見せつけてやるがいい!」
すると、魔王のまわりを飛び回っていた幽霊たちが、次々と海の中に飛びこみ始めたのです。
何百、何千という幽霊たち。
それが吸い込まれた海の色がどす黒く変わり始めました。

「むっ・・・海が闇に染まり始めておる」
海の上に立った渦王が、眉をひそめてそう言いました。
ゼンはマグロの背中から海に光の矢を打ち込んでみました。ところが、黒い海面にふれたとたん、光の矢は蒸発するように消えてしまったのです。
「すごい闇の気だ・・・危険な感じだぞ」
フルートは油断なく身構えながらつぶやくと、ポチに言いました。
「あそこに飛んでくれ。幽霊たちを止めた方がいいような気がする」
そこで、ポチは黒い海に向かって飛びました。
エレボスが、それに襲いかかってきます。
ポチは素早く飛んで身をかわしましたが、エレボスはしつこく後を追ってきます。
「フルート!」
マグロに乗ったゼンが追いついてきて、海の剣でエレボスに切りつけました。
ところが、その瞬間、エレボスは魔王と共に海に潜ってしまったのです。そのまま海の底深く潜っていったのか、なかなか海上に姿を現しません。


「フルート! 見て!!」
光の中からポポロの叫び声が聞こえてきました。
フルートたちは、はっと振り返りました。
黒く変わった海面が、ぐうっと持ち上がり、中から巨大な怪物が現れてくるところでした。ぬめぬめ光る真っ黒な丸い体、その表面で暗く光っている何百という目・・・。
「げげっ、なんだありゃ!??」
ゼンが叫びました。
今まで見たこともない怪物です。

「クラーケンだ! ・・・だが、なんて姿になっているのだ!」
渦王が声を上げました。さすがの渦王も驚いているようです。
「あれはクラーケンというのですか?」
とフルートは渦王にたずねました。
「ああ。海の底に住む守り主のような怪物だ。だが、嵐のときと自分の住みかを壊されたとき以外は、おとなしくて静かな生き物なのに・・・。海の亡者どもに乗り移られて、変えられてしまったようだな。わしが呼びかけてみる」
渦王はクラーケンの前に立つと、両手を広げて呪文のように言い始めました。
「静まれ、海の守り主よ。おまえは戦いを好まぬはずだ。海の底に戻り、眠るのだ。これは、おまえの戦いではない。戻れ、クラーケン・・・」

「危ない!!」
フルートが叫んでポチを急降下させました。
クラーケンが渦王に向かって太い腕を振り下ろそうとしています。
フルートが光の剣で切りつけると、腕が霧のように消えました。
ところが、今度は何百本という腕が、クラーケンの体中から生えてきたのです。
「だめだ、クラーケンは闇の魔法で操られておる! わしには打ち消すことができん!」
そう言って、渦王は大きく飛び下がりました。
たった今まで渦王が立っていた海面に、何十本もの腕がいっせいにつかみかかってきました。この腕に捕まったら、あっという間にばらばらに引きちぎられて殺されてしまうでしょう。
フルートも、ポチと一緒に、クラーケンの腕が届かないところまで下がりました。

「ちっきしょう! あんなヤツとどうやって戦えばいいんだ!?」
ゼンが言いました。
フルートも考え込んでいます。
近くに寄れば、たちまちクラーケンに捕まってしまいます。かといって、遠くにいても・・・

クラーケンが口を開けました。まっすぐフルートたちに向き直ります。
その口の奥で、何かが光りました。
フルートとゼンは、はっとして、あわてて左右に飛びのきました。
 ジュンッ!!
クラーケンの口から黒い光がほとばしり、光の当たった海面が一瞬のうちに泡だって、ジュワーッと白い湯気のかたまりを上げました。
「おいおい・・・熱光線まで吐くのかよ」
ゼンが冷や汗をかきながらつぶやきました。


ポポロは、守りの光の中から、フルートたちの戦いを手に汗握りながら眺めていました。
なんとかフルートたちを助けたいのですが、どうすればいいのか思いつきません。
クラーケンを凍らせたらいいのでしょうか? それとも熱攻撃? 稲妻攻撃?
海中には、魔王を乗せたエレボスも潜んでいます。
いったい、どうしたらいいのでしょう。

そのとき、ポポロの手の中で貝が動きました。
ポポロは、はっとして、手を開きました。
メールが魔法で変身させられた緑の貝。それが、とてもじれったそうに、ポポロの手の上で身動きしているのです。
それをじいっと見つめてから、ポポロはうなずきました。
「わかったわ。あなたも戦いたいのね、メール。魔王の魔法は闇魔法。あたしの魔法でなら、きっと解くことができると思うわ」
ポポロは貝にそう話しかけると、貝を乗せた手を天にかざして呪文を唱え始めました。
「レドモ、レドモ、ニタガスノトモ、レドモ、レドモ、レドモニルーメ!」

すると。
ポポロの手の上の貝がキラキラと緑に輝き始め・・・
 ガチャーン!
ガラスの割れるような音が響いて、緑の貝殻が粉々に飛び散りました。
後に現れたのは、鎧を着た緑の髪の女の子、メール・・・

「きゃっ!」
ポポロは、あわててメールの体を抱きしめました。
ポポロが空中にいたので、メールが下に落ちていきそうになったからです。
メールは、風の犬のルルに一緒に乗せてもらうと、にっこり笑って大きく伸びをしました。
「あーあ、やっと元の姿に戻れた! やっぱり人間の姿が一番いいよねぇ!」
それから、メールはポポロを見て、またにっこり笑いました。
「あんたがポポロかい。ゼンから話はよく聞いていたよ。なるほど、ホントにかわいいんだねぇ」
「あ、あの・・・」
ポポロはとまどいながら、海上の戦いを指さして見せました。
フルートとゼンが、クラーケンの熱光線をかわしながら、なんとか攻撃する方法を見つけようとしています。

すると、メールが言いました。
「あたいは花使いなんだ。あんた、魔法で花を出せないかい? そしたら、あたいがゼンとフルートを助けにいけるんだけど」
「魔法は・・・」
ポポロは困ったような顔になりました。今日の魔法はもう1回使ってしまいました。
でも、ポポロはすぐにぱっと顔を輝かせると、言いました。
「あるわ、花! 天空の国にたくさん咲いているの! ちょっと待ってて!」
そして、ポポロはルルの背中から伸び上がると、天に向かって呼びかけました。
「お願い、みんなー! 急いで花を送ってちょうだい! たくさんたくさん・・・できるだけたくさん!」
ポポロが言い終わらないうちに、空から花が降ってきました。
赤、黄、青、ピンク、紫、白、薄緑色・・・ありとあらゆる色の花が、雪のように、後から後から落ちてきます。
天空の国の人たちが、ポポロの願いを聞いて、魔法で花を送ってくれたのでした。

「ありがたい! 恩にきるよ!」
そう言うと、メールは手をさしのべました。
とたんに、花はざーっと一カ所に集まって、一羽の大きな鳥の姿になりました。
メールは花の鳥に飛び移ると言いました。
「さあ、行くよ! 魔王なんかの好きなようにさせるもんか!」
花の鳥はメールを乗せたまま、クラーケンに向かってまっすぐ飛び出していきました。
ポポロはルルの背中から、手を振りながら見送っていました――


昨日アップが間に合わなかったので、今日の分は少し長くしてみました。
メールも復活して役者は全員そろったようです。
この後、どういう戦いになっていくのか・・・
もう少しの間だけ、物語にお付き合いくださいませ。

(2003年10月18日)



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