21.海の剣と炎の剣
爆発の泡に巻き込まれたフルートは、上へ上へと押し上げられていきます。
フルートは必死で下に戻ろうとしましたが、泡の勢いが強すぎて、とてもかないません。
とうとう泡は海面まで出て、ぐうっと水を盛り上げ、とどろくような音を立ててはじけました。
どどーーーん!!!
フルートは、泡に持ち上げられて、そのまま宙に放り出されました。
「うわーっ・・・!」
「ワンワン! フルート!!」
「フルート、危ない!!」
ポチとゼンの叫ぶ声が聞こえてきました。
それと同時に海中から姿を現したのは、真っ赤な口をぱっくり開けてフルートを飲み込もうとする、黒い水蛇エレボス・・・
でも、エレボスがフルートにかみつく直前、フルートの体がひゅうっと宙を飛んで、身をかわしました。
風の犬に変身したポチが飛んできて、フルートを背中に乗せたのです。
エレボスの牙が、がちっと音を立てて空中をかみました。
「やったぁ! いいぞ、ポチ!」
マグロの背に乗ったゼンが、手を振り回しながら叫びました。
フルートはポチの背中に乗ったまま、ゼンに向かって言いました。
「君たちは海の中で戦ってくれ。ぼくらは空から魔王とエレボスを攻撃する」
「おーし!」
ゼンが張り切って自分の青龍刀を抜こうとすると、その手に太い短い棒のようなものが飛んできました。
剣の柄(つか)です。
海底の城から追いかけてきた渦王が、ゼンに向かって言いました。
「それはわしの剣だ。海に潜って振ってみるがいい」
「海に?」
ゼンは言われたとおりマグロに潜ってもらって、海中で柄を振ってみました。
すると、柄の先端が光って、立派な刀身が現れました。青く輝く鋭い剣です。
「王家に伝わる名剣、海の剣だ。刀身は水でできているが、切れ味は最高だぞ」
と渦王が言いました。
「ひゃっほう! すげぇや!!」
ゼンは歓声を上げると、海面に飛び出して海の剣をかざして見せました。
「俺はこれで戦うぜ! 魔王め、かかってきやがれ!」
「ほほう。渦王の武器を借りたか。だが、しょせん使い手は子どもだ。しかも、フルートと離れてしまえば、金の石の守りもない。それ!」
魔王がゼンに向かって魔法の弾を発射しました。
ゼンの防具に魔弾を防ぐ力はありません。
ところが、ゼンの目の前に水のバリアができて、魔弾をはじき返したのです。
少し離れたところから、渦王がゼンに向かって手をさしのべていました。
「忘れるな。ゼンにはわしがついておるのだぞ」
渦王がそう言って笑いました。
魔王は歯ぎしりをして悔しがると、エレボスをゼンに向かわせました。
大きな黒い剣で切りかかってきます。
ゼンはマグロの手綱を放し、両手で海の剣を持って魔王の剣を受けました。
ガキィィィン!
剣と剣が激しくぶつかり合い、剣を持つゼンの腕がじぃんとしびれました。
ゼンは歯を食いしばると、渾身の力で魔王の剣を押し返しました。
今度はこちらから切りつけます。
海の剣は目にもとまらぬ勢いで空を切り、魔王の乗るエレボスの体に傷を負わせました。
ギィィィィ・・・
エレボスは悲鳴を上げてのたうち回りました。
海の剣は、水の体の水蛇にもダメージを与えることができたのです。
「む?」
魔王が真剣な顔になりました。ゼンの武器が油断できないものだと気がついたのです。
ゼンがまた切りかかっていきました。
魔王は黒い剣でそれを受けると、短い呪文を唱えました。
すると、海の剣の刀身が、ジュッと一瞬のうちに蒸発してしまったのです。
「うわわ・・・剣が消えた!?」
ゼンはあわてて魔王から離れました。
海の剣は刃の部分が水でできているので、熱の魔法で蒸発してしまったのです。
「ゼン、水中に潜るのだ! そこなら剣は消えないぞ!」
渦王に言われて、ゼンはすぐにマグロと海の中に潜りました。
水に入ると、海の剣にはまた青く輝く水の刃が出てきました。
フルートが言うとおり、ゼンは海中で戦うのが一番良さそうです。
海の上では、ポチに乗ったフルートが、空を飛び回りながらエレボスと魔王に攻撃をしていました。
海の外に出れば、フルートの炎の剣が本来の力を発揮します。
フルートが剣を振るたびに炎が吹き出し、エレボスの体に当たります。
ところが、エレボスは水の蛇になっているので、炎が当たってもあまりダメージを食らわないのです。
フルートはエレボスを攻撃するのをやめて、魔王に直接切りかかっていきました。
ガキン! キン! キン!
魔王の黒い剣とフルートの炎の剣が、音を立ててぶつかり合います。
「ええい、こざかしい!」
魔王が唸るように言って、片手を差し上げました。
フルートはさっとダイヤモンドの盾を構えました。
魔弾が盾にぶつかって炸裂します。
その隙に魔王はフルートから離れ、また呪文を唱えました。
すると、海中からわらわらと白いものが現れてきました。
幽霊です。
海で死んだものたちの魂が、魔王の魔法に召喚されて、フルートに向かって押し寄せてきたのでした。
幽霊たちはいっせいにポチやフルートを取り囲み、しがみついて、動けなくしようとしました。
フルートは炎の剣を振って幽霊を振り払おうとしましたが、幽霊の数が多すぎて、きりがありません。
こういう敵にはゼンの光の矢が効くのですが、ゼンは今、海中にいます。
魔王がフルートに向かって切りつけてきました。
「うわっ!」
フルートとポチは身をよじって、かろうじて剣をかわしました。
幽霊たちがしがみついているので、思うように身動きがとれません。
しかたなく、ポチは全速力で逃げました。でも、幽霊たちはその後を追いかけてきます。
その間に、魔王はエレボスと海中に潜っていきました。
フルートは唇をかみました。
なんとか幽霊たちを追い払わないと、魔王と戦えない・・・。
どうしたらいいだろう、とフルートが必死で考えていると、突然、空の雲の隙間から光が差してきて、フルートたちを照らしました。
すると、ポチにしがみついていた幽霊たちが、一瞬のうちに消えてしまったのです。
他の幽霊たちも、光を怖がるように大きく下がりました。
光の差す方を見上げたフルートとポチは、あっと声を上げて驚きました――
さて、フルートたちは空に何を見たのでしょう。
また明後日アップできるように、続きをがんばって書きまーす。
(2003年10月13日)
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