「勇者フルートの冒険・3 〜謎の海の戦い〜」        

20.決戦開始

手に手に剣や弓矢を構えて駆けよってくるフルートたちに向かって、魔王がとどろくような声で言いました。
「生意気な! おまえたちのようなチビ助にわしが負けるとでも思っているのか!?」
魔王が手を上に差し上げたとたん、フルートたちの目の前の床から、わらわらと怪物たちが現れました。グール(小鬼)、ヘルハウンド(地獄の犬)、動く石人形・・・
でも、そいつらはゼンが光の矢で撃つと、たちまち霧のように消えていってしまいました。

「おのれ!」
魔王がまた手を振ります。
今度は、巨大なカニの怪物が現れました。大きなはさみを振り上げて、フルートやゼンに襲いかかってきます。
「ポチ、黒い石を探すんだ!」
フルートはダイヤモンドの盾でお化けガニのはさみを防ぎながら叫びました。
ポチはカニの足下をすり抜けて後ろに回り、激しくほえ出しました。
「ワンワンワン・・・! ありました! 頭のてっぺん、目と目の間に黒い石が見えます!」
「頭の上か!」
フルートはカニの頭を振り仰ぎました。高さ3メートル以上もある大ガニです。どうやって攻撃すれば良いでしょう。
すると、ゼンが言いました。
「なぁに、簡単だ! ポチ、このロープをくわえてカニの足のまわりを走れ!」
ゼンは長いロープの先をポチに投げました。ポチが言われたとおり大ガニの足のまわりを走り回ると、ロープはカニの足にからみつきました。
「よし、そのまま俺の行く方へ走れ!」
そう言って、ゼンはロープの端を持ったまま走り出しました。ポチも、もう一方のロープの端をくわえて、同じ方向へ走ります。
ちょうど反対方向に動こうとしていたカニは、つんのめって、そのままばったりと倒れました。
黒い石がついた頭が、フルートの目の前に倒れてきます。フルートはすかさず炎の剣で石を突き刺しました。
 パキィィン・・・!
黒い石は砕けて光を放ち、光が消えると、その後には1匹の小さなカニが現れました。元の姿に戻ったのです。
「やるなぁ、ゼン」
フルートが言うと、ゼンはにやっと笑いました。
「こういうことなら任せとけ。・・・勉強はちぃと苦手だけどな」
戦いの最中だというのに、フルートとゼンは、思わず笑ってしまいました。


「余裕だな、小僧ども」
魔王がいまいましそうに言って、立ちはだかりました。
手には大きな黒い剣を握っています。
フルートたちは、たちまち真剣な顔になって身構えました。
フルートは炎の剣を、ゼンは光の矢を、そして、ポチは牙をむき出しにして唸ります。

部屋の片隅では、水蛇のハイドラとネレウスが、がっちり絡み合っていました。
わずかに動く鎌首を持ち上げては、お互いの隙を狙ってかみつこうとしています。
水蛇たちがかみつくたびに、がちっと歯がかみ合う鋭い音が響いてきました。

そのとき突然、魔王の姿が大きな渦巻きに飲み込まれました。
フルートたちの後ろから、渦王が魔法で攻撃してきたのです。
魔王のマントが音を立てて引きちぎられていきます。
 ビリビリビリ・・・
魔王は顔をしかめると、うるさそうに手を振りました。
すると、渦巻きはだんだん緩やかになり、やがて消えてしまいました。
「ふん。たしかに水の魔法では五分と五分のようだな」
魔王はそうつぶやくと、いきなり手を上に差し上げました。
「それでは、わしはわし本来の力で戦うまでだ! ・・・来い、エレボス! わしの元へ来い!!」

魔王の手のひらから黒い光がまっすぐ上にほとばしり、部屋の天井を貫きました。
天井の石が崩れて、ばらばらと落ちてきます。
「うひゃあ」
ゼンとポチはあわててフルートの持つ金の石のバリアの下に逃げ込みました。
渦王は自分と海王の上に水のバリアを張っています。


すると、崩れ落ちた天井の穴から、なにか黒いものが弾丸のように飛び込んできました。
マグロでした。
その後ろから、黒い水蛇のエレボスが部屋の中に入り込んできました。
フルートたちを城に侵入させるため、マグロは今の今まで、エレボスを引きつけて海を逃げ回り続けていたのです。
「エレボスよ、来い!」
魔王が言うと、黒い水蛇は滑るように魔王の前に行って体を低くしました。
その頭の上に飛び乗ると、魔王が言いました。
「さあ、小さな勇者どもよ。いよいよ決戦と行こうではないか」

そのことばと同時に、部屋の床が突然爆発して、大きな泡が激しくわき起こってきました。
魔王の魔法です。
また、床の別の場所が爆発しました。
「うわぁっ!!」
フルートとゼンは、それぞれ別の方向にはじき飛ばされました。
フルートはそのまま泡の渦に飲み込まれて、上へ上へと押し上げられていきます。
「ワンワン! フルート!!」
ポチがあわててその後を追いました。
その後にまた三度目の爆発が。
海王の城は大揺れに揺れています。

「ちきしょう。これじゃ動けねぇぞ」
ゼンが部屋の柱にしがみつきながら言いました。
そのすぐ近くでまた爆発が起きます。
石つぶてがゼンに向かって飛んできます。
ゼンが盾を構えて防ごうとしたとき、その体が、ぐいっと後ろに大きく引っ張られました。
マグロが、ゼンの服の裾をくわえて引っ張ったのです。
「私に乗って下さい。早く。金の石の勇者様を追いかけましょう」
とマグロが言いました。
さっきまでマグロが引いていた戦車は、黒い水蛇のエレボスに壊されてしまったけれど、マグロの体にはまだ手綱がついていました。
ゼンはマグロの背中にまたがると、その手綱を握りしめました。
「行きますよ!」
マグロはそう言うなり、黒い弾丸のように海の上をめざして泳ぎ出しました。


海王の城の天井からは、魔王を乗せたエレボスも泳ぎだしてくるところでした。
魔王は、マグロに乗ったゼンを見ると、にやぁっと笑いました。
「1人ずつになったおまえたちなど、わしの敵ではないな。それ!」
魔王の手のひらから黒い光がほとばしって、ゼンを撃ち落とそうとしました。
ところが、マグロはそれより早く身をかわし、また上へ上へと泳いでいきました。
「ふん、すばしこい魚め」
魔王はいまいましそうにつぶやくと、マグロの後を追って、エレボスを上に向かわせました。

海の水が明るくなり始めました。
海面が近づいてきたのです――


というところで、いよいよ最終決戦に入りました。
明後日のアップをめざして、またがんばります。

(2003年10月11日)



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