「勇者フルートの冒険・3 〜謎の海の戦い〜」        

18.『力(ちから)』のグラス

フルート、ゼン、ポチの2人と1匹は、らせん回廊を上へ上へと進んでいきました。
近づいてくる敵や待ち伏せをしている敵は、すべてポチが気がつきました。
闇の怪物は、光の矢で倒します。
魔王に操られて怪物になっている海の生き物たちは、黒い石を壊して元の姿に戻します。
そうして、一行はとうとう回廊の終点までやってきました。

そこは、海王の城の中でも一番高い塔の、最上階の部屋でした。
石の床と壁に囲まれた丸い部屋の中央に、2つの石の台があって、台のまわりには魔法に使う円陣が描かれています。
台の上に横たわっているのは、渦王と海王。渦王は石像から元の姿に戻っています。でも、渦王も海王も死んだような顔色をしていて、ぴくりとも動きませんでした。
「渦王! 海王!」
フルートたちはあわてて2人の王に駆けよって、体に触ってみました。
死んではいません。でも、どんなに呼びかけても揺すぶっても、2人は目を覚ましませんでした。
「くそっ・・・魔王のヤツ、渦王からも力を抜き取ったんだ」
フルートはそう言って急いで部屋の中を見回しました。
部屋の中に魔王の姿は見あたりません。渦王の力も自分のものにして、塔から姿を消したのでしょうか。

すると、ポチが壁に掛かった一枚の絵に向かって激しくほえ始めました。
「ワンワンワンワン・・・!!! そこだな、魔王! 出てこい!」
絵の中の人の顔が、目をぎょろりと動かし、にやぁっと笑いました。
「相変わらず鼻の効くチビ犬だな。だが、もう、わしの邪魔はさせんぞ」
魔王の声です。
フルートは絵に向かってジャンプすると、炎の剣で絵に切りつけました。
水の中なので切られても絵は燃え出しませんでした。絵はただ、まっぷたつになって床に落ち・・・その中から煙のように魔王が姿を現しました。
青黒いマントを身にまとい、片手には青い液体を満たしたグラスを持っています。

フルートは、はっとして大声で言いました。
「それは渦王の『力』だな! 『力』を渦王に返せ!」
とたんに、魔王が低い声で笑い出しました。
「なにを馬鹿なことを言っておる。これを飲み干せば、わしは完全に海の支配者になれるのだ。そうしたら、津波を起こし、あらゆる陸地を海に飲み込み、すべてをわしの天下にすることができる。わしの偉大な夢がついにかなうのだ。おまえたちのようなチビ助に、わしの崇高な計画を邪魔させるものか」
「そんな馬鹿げた夢、かなうもんかよ!」
そう言うなり、ゼンが光の矢を魔王めがけて撃ちました。
ところが、魔王がさっと手を前に向けると、ごぉっと激しい渦が起こって、光の矢をはねとばしてしまいました。

「無駄だ無駄だ。わしはすでに海王の力を手に入れておる。この力だけでも、おまえたちの相手をするには充分すぎるほどだぞ。渦王の力も手に入れて、完璧になってからおまえたちを血祭りに上げてやろうと思ったが、やはり、おまえたちは放っておくには少し危険なようだ。まずはおまえたちを始末することにしよう」
そう言って、魔王がまた手を前に向けました。
さっきよりもっと大きくて激しい渦巻きが、ごおぉっとフルートたちに向かってきました。
「うわぁっ!」
「うおぉぉ・・・」
フルートとゼンは渦巻きにはねとばされて、部屋の壁にたたきつけられてしまいました。
ところが、ポチは・・・

ポチは、渦巻きが近づいてくると同時に身を躍らせて、渦のちょうど中央に飛び込んでいきました。
渦巻きは、まわりでは激しい流れがぐるぐると回っていますが、中央は回転も流れも緩やかになっているのです。そこを、ポチはまっすぐに突き進み、魔王のすぐ目の前に飛び出して行きました。
「おっ!?」
魔王が驚いて思わず身を引いた瞬間、ポチは魔王の手に飛びつき、青い液体のグラスを口にくわえて奪い取りました。
グラスの中身は、渦王の『力』です。

「この・・・! それを返せ!!」
魔王がポチに向かって魔法の一撃を食らわせようとしたとき、後ろからフルートが切りかかってきました。フルートは魔法の金の鎧を着ているので、壁にたたきつけられても大したことがなかったのです。
魔王が振り返ってフルートの攻撃を跳ね返します。
その隙に、ポチはグラスをくわえたまま、台の上の渦王に向かってまっすぐ走り始めました。
「させるか!!」
魔王がまた、さっと手を振ると、ポチの行く手に銀の水がさーっと集まってきて、一匹の大きな蛇の姿になりました。銀の水蛇です。
「その犬をかみ殺して、グラスを取り戻せ!」
魔王が水蛇に命令しました。
水蛇がポチに飛びかかっていきます。

ところが。
「ぐわっ!!」
魔王が悲鳴を上げて顔を押さえました。片方の目に矢が突き刺さっています。
ゼンが魔王めがけて光の矢を撃ったのでした。
とたんに、銀の水蛇の動きが鈍くなりました。とまどうように、あたりを見回します。
「今だ、ポチ! 行けっ!」
ゼンとフルートが叫びました。
ポチは水蛇の脇をすり抜けると、石の台に駆け上がって、グラスの中身を渦王の口に注ぎ込もうとしました。
「おのれ!」
魔王がポチに向かって魔法の弾を撃ってきました。魔弾です。
でも、魔王とポチの間にフルートが割って入って、ダイヤモンドの盾で魔弾を受け止めました。
 ジャァァァァァ・・・・・・ッッッ!!!
すさまじい音がして、魔弾が粉々に吹っ飛びました。その勢いでフルートもまた吹き飛ばされ、壁にたたきつけられました。本当に、魔法の鎧を着ていなければ大怪我をしていたことでしょう。
その間に、ポチがグラスの中身を渦王に飲ませました。
青い液体は渦王の口に吸い込まれるように消えていきました。

「おまえたちは、とことんわしの邪魔をするというのだな・・・よし、もう手加減はせん」
魔王がそう言って、自分の目に突き刺さった矢を引き抜いて捨てました。
目に当てた手の間から、ゆらゆらと黒い煙のような光がもれます。
そして、その手を放したとき、魔王の目はまた元通りに戻っていました。魔法で怪我を治したのです。

銀の水蛇が、滑るように魔王の後ろにやってきました。
フルートとゼンとポチは一カ所に集まりました。
「ポチ、渦王は?」
フルートが聞くと、ポチは困ったように頭を振りました。
「クーン・・・『力』は飲ませたんですが、まだ何も・・・」
フルートは台の上の渦王を振り返りました。確かに、渦王は横になったままで、さっきと何も変わりがありません。ただ、飲ませるだけでは『力』は戻らなかったのでしょうか。

魔王がフルートたちに向かって手を出しました。
手から黒い光がほとばしり、フルートたちを襲います。魔法です。
フルートの胸の金の石が輝いて、光のバリアでフルートたちを包みました。
ところが・・・光のバリアが、魔王の黒い魔法に押されて、じりじりと縮み始めたのです。
「お、おい! こっちのほうが負けてるぞ!」
ゼンがあわてた声を出しました。今まで、金の石の力が負けるなんてことはなかったのに・・・。
魔王が黒い魔法を送り続けながら言いました。
「わしの内には海王の力がある。元々のわしの力に、海の半分の力が加わっているのだ。おまえたちを守っているのは、たかだか泉の長老の力に過ぎん。今のわしにかなうものか」
黒い魔法の力が、またぐっと強まりました。
フルートたちを包む光のバリアに、ひびが入り始めました。
「まずい!」
フルートはとっさに自分の腕の中にポチを抱きしめて、ダイヤモンドの盾をかざしました。
ゼンも自分の盾をかざして顔をそむけます。
その瞬間。

 バシッ!!!

鋭い音が響き渡って、光のバリアが破れました。
魔王の黒い魔法がフルートたちに襲いかかります。
「わぁぁぁぁ・・・!!!」
フルートたちは、全身が雷に打たれたようにしびれて、動けなくなりました。

魔王は笑いながらフルートたちに言いました。
「ひと思いに殺したりはせん。今までさんざんわしの邪魔をしてくれた礼に、じっくりと、じわじわ苦しめながら殺してやる。・・・行け」
魔王に言われて、銀の水蛇がするすると動き始めました。
ゆっくりとフルートたちのまわりを回り始め、少しずつ距離を縮めてきます。
でも、フルートたちはぴくりとも動くことができないのです。
銀の水蛇が、鎌首を持ち上げて赤い口を開けました――


フルートたち、絶体絶命。

というところで、ごめんなさい、今日はここまでです。
この続きもできるだけ早く書きますので、待っていてくださいね。

(2003年10月7日)



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