14.味方
「大変だ・・・」
フルートはそうつぶやいて唇をかみました。
渦王の軍勢や虹のサンゴ谷は、灰色の石に変わってしまいました。
石になった渦王は、魔王にさらわれていきました。
渦王と海王、2人の力が魔王のものになったとき、海は完全に魔王のものになるというのです。
ゼンは貝になってしまったメールを手に抱いて、悔し涙を流していました。
「ちきしょう・・・絶対に、絶対にこのままじゃすまさないからな。絶対に魔王のヤツをぶっ倒して、メールをもとの姿に戻してやる・・・!」
そこへ、戦車からポチが飛び降りて、駆けよってきました。
「ワンワン! フルート! 戦車のカジキたちが言っていますよ。魔王は海王の城に戻ったんだ、って。黒い水蛇がそっちへ泳いでいくのが見えたんだそうです」
「海王の城か!」
フルートとゼンは急いで戦車に乗り込むと、そちらへ向かおうとしました。
ところが。
戦車をひくカジキたちが、いやいやをするのです。魔王を追っていきたくないようです。
カジキは人間のことばが話せなかったので、ポチがカジキの話を聞いてきました。
「ワン。このサンゴ谷を取り巻いている潮流を抜けるルートが分からないから、とてもここから出て行く自信がない、ってカジキたちが言っています」
そういえばそうです。
サンゴ谷のまわりは、クジラさえ吹き飛ばすような、激しい潮の流れに取り囲まれています。
来るときは渦王の後についてきたから良かったけれど、今はもう、フルートたちだけです。そして、フルートたちもカジキたちも、潮の流れを抜け出すルートがわからないのでした。
「どうしよう・・・」
フルートとゼンとポチは、困り切って立ちつくしてしまいました。
早く海王の城に行かなければならないのに。
すると、ポチが急に耳をぴくっと動かしました。
「ワン、誰かいます! すぐそこの、岩の陰・・・!」
フルートとゼンは素早く剣や刀を構えました。魔王の一味が残っているのかもしれません。
ところが、岩の後ろをのぞき込むと、そこにいたのは一匹のマグロでした。ひどい怪我をして、海底の砂の上に横たわっています。
どうやら、魔王が魔法をかけてきたとき、フルートの金の石のバリアに偶然一緒に入り込んでいたので、石にならずにすんでいたようです。
「きみ、大丈夫かい?」
フルートが声をかけると、マグロはフルートをちょっと見上げて、弱々しい声で言いました。
「ああ、金の石の勇者様・・・ご無事でしたか・・・」
それは、泉の長老のところへフルートたちを迎えに来ていた、あのマグロでした。
マグロは、海へ通じるトンネルの中でフルートたちと離ればなれになってしまい、助けを求めるために渦王の島へ立ち寄った後、虹のサンゴ谷に戻って、海王と共に砦を守っていたのでした。
ところが、そこへ突然、魔王の率いる怪物軍団が襲いかかってきて、海王は連れ去られ、海王を守っていた兵隊たちも皆、殺されたり怪物に変えられたりしてしまいました。
マグロも深手を負って、今にも死にそうになっていました。魔王が海王に化けて、渦王をだまそうとしていたのは分かっていたのですが、身動きをすることも、声を出すこともできなくて、どうすることもできなかったのです。
「待ってて。今助けてあげるから。それまで気をしっかり持っているんだよ」
そう言うと、フルートは首から金の石を外しました。
覚えていますか? 金の石にはどんな怪我でも治す力があるのです。
フルートが金の石をマグロに押し当てると、みるみるうちにマグロの怪我が治り始めました。傷口がふさがり、皮ができて、あっという間にどこに怪我があったのか分からなくなりました。
「な、治った! もう全然痛くない!」
マグロはびっくりして跳ね起きると、あたりをぐるぐる泳ぎ回り出しました。もう、すっかり元気です。
「間に合って良かった」
フルートもほっとした顔になりました。
いくら金の石でも、死んでしまったものを生き返らせることはできないからです。
すると、その様子を見ていたゼンが、フルートに話しかけました。
「なあ、その石でメールを元に戻せないかな?」
フルートも、はっとしました。そうです、その手がありました。
でも、残念なことに、金の石を貝に押し当てても、上にかざしても、貝には何も変化はありませんでした。
金の石には、魔法を打ち消して元に戻す力はなかったのです。
「ちくしょう、やっぱりダメか!」
ゼンはじだんだを踏んで悔しがりました。
やはり、海王の城へ行って魔王を倒すしか方法はなさそうです。
そのとき、フルートは気がつきました。
「マグロくん! 君なら、このサンゴ谷から抜け出すルートを知っているよね!?」
すると、マグロが嬉しそうにひれをばたばたさせました。
「はい、もちろんです。魔王は海王様の城へ戻りました。そこで渦王様に魔法をかけて、渦王様の力を自分のものにするつもりです。さあ、その戦車にお乗りなさい。私は海で一番早く泳げる魚です。すぐに海王様の城まで行ってみせましょう」
そこで、フルートは急いでカジキたちを戦車から放して、代わりにマグロに引き具をつけました。
ゼンは緑の貝になったメールを、そっと自分の胸当ての中にしまいました。
「ここなら絶対になくしたりしないからな」
「さあ、行きますよ!」
マグロが言いました。
フルートとゼンとポチは戦車に乗り込むと、しっかりしがみつきました。
3匹のカジキが、まわりを泳ぎながら見送ってくれています。
とたんに、耳元でごおっと水の唸る音がして、カジキたちもサンゴの森も見えなくなりました。マグロが猛烈な勢いで泳ぎ始めたのです。
ごうごう唸る水の音を聞きながら、一行はまっすぐ海王の城をめざして進み始めました。
というところで、書きためておいた原稿がすっかりなくなってしまいました。
この先は、原稿が進み次第アップします。
できるだけ早く書くようにがんばりますので、お待ち下さいね。
申し訳ありません。(m_m)
(2003年9月29日)
|