１３．魔王再見

砦の前では、渦王たちが海王の現れるのを今か今かと待っていました。
そこへ、先の半魚人の兵士が出てきて言いました。
「海王様のおでましです！」
砦の扉がゆっくりと左右に開いて、中から一人の男の人が現れました。
青い髪に青い瞳、頭に金の冠をかぶり、ウロコ模様の長い衣を着ていて、渦王にそっくりの顔と姿をしています。
それもそのはず、海王は渦王の双子の兄だったのです。
ただ、海王の方は青い口ひげを生やし、頭の冠も渦王の冠より大きいものをかぶっていました。

渦王は一歩前に進み出ると、海底に片膝をついて頭を下げました。
「兄上、おひさしぶりでございます。ずっと案じておりました。ご無事で何よりです」
「うむ、渦王もよくぞ来てくれた。そなたの軍勢が来てくれたなら、魔王などはもう恐るるに足らぬぞ」
そう言いながら、海王が近寄ってきました。

そこへ、フルートたちの戦車がかけつけました。
「渦王様、危ない！　それは海王じゃありません！　そいつは、魔王です！！」
とフルートが叫びました。
「なに！？」
渦王がびっくりして立ち上がったとき、フルートの胸で、突然金の石が強い光を放ちました。
光はまっすぐに海王を照らします。
すると、青い髪とひげの海王の姿はゆらゆらと揺らいで薄くなり、代わりに、別の男の姿が現れました。
黒い長い衣を着て頭にはねじれた山羊の角を生やした、大きな男・・・・・・魔王でした。


「ふん、見破られたか」
魔王はそう言うと、フルートたちをじろりと見ました。
「久しぶりだな、フルート、ゼン、それにポチ。元気そうでなによりだ」
「おまえこそ、よく生きてやがったな！」
とゼンがどなり返しました。
魔王は低い声で笑い出しました。
「わしがあれしきのことで死ぬものか。それ、おまえたちに翼を切り落とされた黒竜も、水の蛇に姿を変えて、元気でおる。おまえたちに仕返しができるというので、大喜びしておるぞ」
そう言った魔王の後ろに、どこからともなく黒い水が流れてきて渦を巻き、一匹の黒い水蛇の姿に変わりました。
砦も一巻きできるほど、長くて大きな蛇です。
黒い水蛇は、赤い目を光らせ、大きな口を開けて舌をちろちろさせました。

渦王が拳をふるわせながら叫びました。
「おのれ、魔王！　兄上をどうした！？」
すると、魔王が顔をゆがめて、にんまりと笑いました。
「海王の力は、すでにわしの中にある。あとは、渦王、おまえの力をいただけば、この海はすべてわしのものとなるのだ。――こんなふうにな！」

魔王が突然、渦王に向かって手を振り上げました。
とたんに、その手のひらから黒い光がほとばしり出て、渦王とその軍勢を包み込みました。
黒い光が消えたとき、あたりは一面、灰色の世界に変わっていました。
渦王も、その軍勢の魚も半魚人も海の民も、戦車も武器も、すべてが灰色の石像になってしまったのです。
虹色のサンゴの森も、石の森に変わってしまっています。


でも、たった一カ所、フルートたちと、彼らの乗った戦車だけは、石に変わっていませんでした。
フルートの金の石が突然また光って、光のバリアで守ってくれたからです。
「父上ーーーっ！！！」
メールが叫びました。
でも、石に変わってしまった渦王は、海底に立ちつくしたまま、ぴくりとも動きません。
「よ、よくも！　よくも父上を・・・！！」
メールが涙をにじませながら戦車で飛び出していきました。
「あっ、よせメール！　危ない！」
ゼンたちは引き留めようとしましたが、メールは聞かずに、猛烈な勢いでまっすぐ魔王へ向かっていきました。
「この卑怯者！　父上たちと正々堂々戦って勝つ自信がないものだから、こんなだまし討ちをしたんだろ！　腰抜け！　意気地なし！　それで天下の魔王だなんて、よくも言えたもんだねっ！」
思いつく限りの悪口を並べながら、メールは腰のナイフを抜きました。それで魔王に切りかかろうとしたのです。

魔王はつまらなそうな目でメールを見ると、ちょっと右手の指を振りました。
とたんに、指先から黒い光が飛び出して、メールに当たりました。
「メールッ！！！」
フルートとゼンとポチは、同時に声を上げました。
黒い光が消えたとき、海底の砂の上には、ぽつんと一つ貝が落ちていました。
メールの髪の色そっくりな緑色をした二枚貝です。

「メール！」
「メール・・・メールッ！！！」
フルートとゼンは戦車を走らせ、海底に飛び降りました。
ゼンが緑色の貝を拾いあげると、魔王がまた笑いながら言いました。
「うるさい小娘もこれでもう何も言えまい。石にするよりふさわしい姿になったな」
「よ、よくも・・・・・・」
ゼンはぶるぶる震えながら魔王に切りかかっていこうとしました。

すると、魔王が言いました。
「まだだ。今はそのときではない。わしが海王と渦王の両方の力を手に入れたら、ゆっくりとおまえたちの相手をしてやろう。それまで勝負はお預けだ」
そして、魔王はさっと手を振りました。
黒いドラゴンの化身の水蛇が、するすると体を伸ばして、海底を這い始めました。
と、突然ぶわっと海底の砂が巻き上がって、一面何も見えなくなり・・・

砂煙が落ち着いたときには、もう、魔王も黒い水蛇も、そして、石にされた渦王も、どこにも姿がありませんでした。


というところで、今日はここまで。
次は月曜日にアップの予定です。