「勇者フルートの冒険・3 〜謎の海の戦い〜」        

12.虹のサンゴ谷

いくつもの海底山脈を越え、海溝を越えて、渦王の軍勢は海の中を進み続けます。
いりくんだ岩山の間に入り、細い谷の間をくねくねと通り抜けていくと、やがて、行く手に美しい森が見え始めました。
赤、白、ピンク、黄色・・・色とりどりの木が海底で枝を広げ、花を咲かせています。
いえ、木に見えたのはサンゴでした。色鮮やかなサンゴの森が、行く手に広がっているのです。
「あれが虹のサンゴ谷か・・・」
フルートは戦車の上から思わずつぶやきました。
これから大きな戦いになることも忘れてしまいそうなくらい、それは美しい眺めでした。

すると、すぐ脇を走っていた戦車の上から、メールが言いました。
「虹のサンゴ谷はあんなにすぐ近くに見えるけどさ、実はここからが大変なんだよ。谷のまわりを激しい潮の流れが取り巻いているから、うっかり近づくと、すぐに巻き込まれて吹き飛ばされちまうんだ。・・・ほら!」
メールは急に隊列の先のほうを指さしました。
谷に向かって勝手に泳ぎだしたせっかちな魚が、突然ぐわっとあおられて、あっという間にどこかへ飛ばされていきました。まるで、すさまじい突風に吹き飛ばされたようです。
「あんな潮流が谷をぐるっと取り囲んでるんだ。あれに巻き込まれたら、大きなクジラだって飛ばされちまうよ。流れのない道はたった一本、それも、戦車1台がやっと通るくらいの幅しかない。父上たちが正しい道を案内してくれるからね。あんたたち、脇にそれないように、しっかりついてくるんだよ」
そういうと、メールは戦車をひくカツオにムチをくれて、先に走り始めました。

ずっと戦車の手綱を握っていたフルートが、ゼンに言いました。
「ゼン、ちょっとぼくと交代してもらえるかい? 後ろを警戒したいんだ」
魔王の一味は、虹のサンゴ谷の場所が知りたくて、フルートたちの跡をつけてきているはずです。そろそろ後ろから襲いかかってくるかもしれません。
ゼンが戦車の前で手綱を握ると、フルートは戦車の後ろに立って炎の剣を抜きました。ポチは海中では風の犬に変身できないので、戦車の中で精一杯耳を澄ませて身構えていました。
「それっ!」
ゼンが戦車のカジキを走らせました。

フルートたちは、いつの間にか隊列の一番最後になっていました。
すぐ前をメールの戦車が走っています。
ゼンは声を上げてメールに呼びかけました。
「メール! 後ろから敵が来たら、おまえはすぐに谷に逃げろよ!」
「ふーんだ」
メールはそう言って、知らんぷりをしました。


ところが。
いくらたっても、敵は姿を現わしませんでした。
渦王の軍勢は海の一本道を進み続けます。隊列が細く長い列になって、潮流のないルートを通っていきます。
ここを後ろから襲われたら、前の軍勢は潮流に邪魔されて駆けつけることができません。攻撃の絶好のチャンスのはずなのに、それでも、敵は現れないのです。
「変だな・・・」
フルートはつぶやきました。

「魔王のヤツ、俺たちに全然気がついてないんじゃないのか?」
とゼンが言いました。
「だといいけど・・・でも、魔王はそんなに甘いヤツじゃないだろう」
フルートはさらに身構えながら言いました。
ポチもあたり耳を澄ませ続けていましたが、やっぱり敵の気配はつかめないのでした。聞こえてくるのは、すぐ脇を勢いよく流れていく潮流の、ごうごうと唸る音だけ・・・


渦王の軍勢の先頭が、虹のサンゴ谷に到着しました。
潮流のトンネルを通り抜けた渦王は、まっすぐにサンゴの森の中へ進んでいきました。
森の中央に、自然の岩山を利用した砦が、白い城のようにそびえています。そこに海王たちは立てこもっているのでした。

渦王は砦の前まで行くと、戦車を止めて呼びかけました。
「兄上! 兄上はおいでか!」
砦の入り口を守っていた半魚人の兵士が、飛び上がって驚きました。
「こ、これは・・・渦王様!? よくぞおいで下さいました! ただいま海王様をお呼びしてまいります!」
そう言って、半魚人は砦の中に飛び込んでいきました。


その間にも、渦王の軍勢は続々とサンゴ谷に到着して、渦王の後ろに整列していきました。
一番最後のフルートたちも、ようやく潮流を抜けて谷の中に入りました。
「やっとついた。さあ、急ごうよ」
メールがそう言って、戦車のスピードを上げようとしたとき、突然、フルートが悲鳴を上げました。
「痛いっ!」
ゼンもポチもメールもびっくりしました。
「ど、どうしたんだ、フルート!??」
フルートは胸を押さえながらうずくまりました。突然、胸に針を刺されたような痛みが走ったのです。顔をしかめながら鎧の中に手を入れると、鎖で首から下げた金の石がさわりました。

取り出してみると、金の石は強く弱く、脈打つように光を放っていました。まるで、何かを警告しているようです。
「敵か!?」
ゼンが緊張して身構えました。メールとポチも、素早くあたりを見回します。
でも、敵の姿はどこにも見えないのです。
「ど、どこだよ、いったい!?」
ゼンもメールも口々にわめきました。
そのとき、フルートは、はっとしました。

「敵は、サンゴ谷の砦の中だ!!」
フルートはそう叫ぶと、突然ゼンから手綱をひったくって、猛スピードで戦車を走らせ始めました。
ゼンとポチは何がなんだか分からなくて、びっくりしながら戦車にしがみつきました。
その後を、メールも必死で追いかけました。
「ね、ねぇ。敵が砦の中にいるって、いったいどういうこと!?」
メールが大声でたずねてきました。
フルートは前を向いたまま答えました。
「魔王はもう、サンゴ谷の砦を見つけていたんだよ! そして、砦の中に入り込んで、ぼくたちを待ち受けているんだ! ・・・そうさ、だから、いつまでたっても魔王は後ろから現れなかったんだ! 敵は砦の中だ! 早く渦王たちを止めないと、魔王の思うつぼだぞ!」

「そ、そんなまさか・・・」
メールが信じられないように言いましたが、フルートはそれにはもう答えないで、ただ、いっそう速く戦車を走らせました。
早く早く・・・早く渦王たちと合流しなくては・・・・・・


というところで、今日はここまで。
次は金曜日にアップの予定です。

(2003年9月24日)



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