「勇者フルートの冒険・3 〜謎の海の戦い〜」        

11.出撃

夜が明けました。
渦王とその軍勢は、海王のいる虹のサンゴ谷をめざして島を出発しました。
泳ぎの速いものは自分で泳いで。
遅いものは、速いものの背に乗ったり、泳ぎの速い魚にひかせた戦車に乗って。
一行の先頭では、2頭の大きなアオザメがひく戦車の上で、鎧甲で身を包んだ渦王が腕組みして前をにらみつけています。
「進め、皆のもの! 全速力で進むのだ!」
渦王の声に合わせるように、軍勢のスピードが上がります。まるで、海の中を駆け抜けていくつむじ風のようです。

フルートとゼンとポチは、3匹のカジキがひく戦車に乗っていました。
「ねぇ、今朝、メールを見かけたかい?」
とフルートがゼンにたずねました。
「いや、見なかった。ふてくされて、部屋から出てこなかったんじゃないのか?」
とゼンが答えると、フルートは、自分たちの前を行く小さな戦車を指さしました。
「あの5匹のカツオがひいてる戦車・・・あの上に乗ってる兵士の後ろ姿さ、なんだか見覚えがないかい?」
そう言われて、ゼンは目をむいて前を行く戦車の上を見つめました。
そして・・・

「メール!!! どうしてそんなところにいるんだよ!?」

その声に、前を行く兵士が振り向きました。
それはやっぱりメールでした。ウロコをつづり合わせたような鎧甲を身につけ、手に長い三つ又の矛を持っています。
「あーらら。もう気がついちゃったの?」
メールがニヤニヤしながら言いました。
ゼンは顔を真っ赤にして怒鳴りました。
「気がついちゃったの、って・・・どうしてついてきたんだよ!? 渦王に館に残れって言われただろうが!」
その声に、渦王も気がついて振り返り、かんかんになって飛んできました。
「ばっかもーん!!!!! なぜ、わしの命令を守らなかった!!!?」
あたりを揺るがすような声で、渦王が怒鳴りました。

メールは両耳に指で耳栓をしながら言いました。
「やーねぇ。ふたりそろって同じようなこと言わないでよ。・・・あたいはね、戦うために来たわけじゃないのよ。ゼンとフルート、どっちのほうが強いのか見極めたくて、それでついてきたの。あたい、強いほうの人のお嫁さんになるって決めてるんだから」
「・・・・・・・・・」
渦王もゼンもフルートもポチも、思わず頭を抱えたくなってしまいました。
でも、メールのことです。戦うために来たんじゃないと言っていても、敵との戦闘が始まれば、自分も負けじと参加してくるでしょう。
かといって、ここからメールを島に戻すわけにもいきません。
虹のサンゴ谷の場所を知りたくて、一同の後を、魔王の軍勢が追ってきているかもしれないのです。メールをここから帰したら、追っ手がメールを捕まえてしまうかもしれません。

渦王は大きなため息をつくと、ゼンとフルートに言いました。
「すまんが、このはねっ返りをよろしく頼む。足手まといになるとは思うが・・・できるだけ、守ってやってくれ」
「えーっ、足手まといって、なによそれ! あたいだってちゃんと戦えるわよ!」
メールはきーきーと抗議しましたが、渦王はもうそれにはかまわず、また隊列の先頭に戻りました。

「メール、こっちの戦車に来るか?」
とゼンが声をかけました。
「いやぁよ。そっち、もう2人も乗ってるじゃない。これ以上乗ったら、重くて遅くなっちゃうよ。あたいは自分一人で大丈夫!」
メールはそう言うと、ぷいっと顔をそむけて、自分の戦車をいっそう早く走らせました。
「カジキくんたち、メールから離れないようにしてくれるかい?」
と、フルートが自分たちの戦車をひくカジキに頼みました。
カジキがスピードを上げたので、メールの戦車とフルートたちの戦車は並んで走るようになりました。
「メールの馬鹿野郎・・・」
ゼンが心配そうにつぶやいたのを、フルートとポチは聞きました。

一同は、虹のサンゴ谷をめざしながら、海の中を猛烈な勢いで進み続けました−−


というところで、今日はここまで。
次は火曜日にアップの予定です。

(2003年9月21日)



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