「勇者フルートの冒険・3 〜謎の海の戦い〜」        

9.2人の戦い

カキーン! ガシュッ! ガチーン!!
フルートとゼンの武器がぶつかり合う音が、渦王の中庭に響き渡ります。

ガキッ!
ゼンの刀がフルートの盾で防がれました。
ガチャン!
フルートのノーマルソードがゼンの盾に跳ね返されます。
キン! キン! キン!
2人の刀と剣がぶつかり合い、隙を狙ってまた切り込み合います。

「フルート! ゼン! フルートォ・・・!」
ポチはおろおろしながら2人の戦いを見守っていました。
「いけー! ゼンー! フルートを倒せー!!」
島の住人たちが声を上げてゼンを応援しています。手があるものは手を振り、足があるものは足を踏みならし、水の中にいるものは何度も跳ね上がって、庭中すごい騒ぎです。

ぶんっとゼンが刀を振り下ろしてきました。ゼンの刀は大きくて重い青龍刀です。
「わっ」
フルートがあわてて後ろに下がると、ゼンの体が勢い余ってよろよろとよろけました。
隙だらけの背中がフルートに向きます。チャンス!
・・・だけど、フルートはゼンに剣を突き刺すことはできませんでした。
フルートがためらっているうちに、ゼンは体制を整えて、またフルートに切りかかってきました。

と、今度はフルートが小石で足を滑らせて転んでしまいました。
ゼンがフルートに刀を振り下ろそうとします。
「・・・・・・!!」
けれども、ゼンもまた、刀を振り上げたまま、ためらって止まってしまいました。
その隙に、フルートは跳ね起きることができました。

「ゼン・・・?」
フルートは、はあはあ息を弾ませながら、ゼンを見つめました。
ゼンは魔法をかけられているわけではないようです。それでは、何故・・・?

「ゼン、何をしておる! しっかり戦わんか!」
王座から渦王が怒鳴りました。
観客席からも、ぶーぶーと不満の声が上がっています。
ゼンが歯を食いしばってまた刀を振り上げました−−


「ああ、もう! 見てられないよ!!」
ポチがそう叫んで飛び上がりました。首輪の緑の石が光って、風の犬に変身します。
「邪魔はさせんぞ!」
渦王がポチに向かって手を振ると、青白い光が飛び出してきました。魔法です。
でも、ポチは素早くそれをかわすと、フルートとゼンの間に飛び込んでいって、ゼンの足にからみつきました。
「わわわ・・・っ!!」
ゼンは足を取られて、その場にばったり転んでしまいました。
青龍刀がゼンの手から離れます。
ポチはそれを口にくわえると、ひゅーっとフルートの後ろに飛んでいきました。

武器がなくなったゼンは、地面に座り込むと、悔しそうに自分の膝をたたいて叫びました。
「ちぇっ! やっぱりこうなっちまうのか!!」
フルートは、はぁはぁ言いながら剣をしまい、ゼンの前に立ちました。
「どうしたのさ、ゼン。どうしてぼくたちが戦わなくちゃいけないんだよ。魔法で操られていたわけじゃないんだろう?」
「わりぃ、フルート」
ゼンはがしがしと頭をかきました。
「渦王がさ、おまえと俺と、どっちが強いのか見てみたいって言うからさ」
「渦王が?」
フルートは王座の渦王を見ました。

すると、渦王が笑いながら言いました。
「ようこそ、金の石の勇者殿。わしは強いものが大好きでな。わしの館に来るものは、まず力試しをされる決まりになっておるのだ。今の戦い、2人ともなかなか良い勝負であったぞ。そこの犬殿の邪魔が入らなければ、もっと面白い勝負になっていたと思うが。どちらが本当に強いのか、見極められなくて残念だ」
「まともにやっていたら、フルートの方が勝ったさ」
吐き捨てるようにゼンが言いました。
「だって、俺は少なくとも3回はフルートに刺されるところだったもんな。フルートが剣を止めなかったら、今頃俺はもうこの世にはいなかったさ」
「それなら、ぼくだって3回か4回はゼンに切られてたよ」
とフルートが答えました。
「でも、ゼンが切るのをためらったから、ぼくだって助かったんだ」

「ふーん、じゃ、2人はほとんど同じくらいの強さなんだ」
そう言いながらメールが近づいてきました。
「残念。あたい、どっちか強かった方の人のお嫁さんになろうと思っていたんだけどな」
「お嫁さん!??」
フルートとポチはびっくりしました。
フルートもゼンもまだ子どもだから、お嫁さんをもらうなんて早すぎるのに・・・。

すると、渦王がまた笑って言いました。
「おまえたち2人のどちらか勝った方を、メールの婚約者にするつもりでいたのだ。わしの娘の中で、まだ結婚しておらんのはメールだけだからな。だが、残念ながら、今回の勝負では決まらなかったわけだ」
「冗談じゃないよ」
フルートは思わずつぶやきました。一方的に友だちと戦わせておいて、勝った方を娘の婚約者にするだなんて、とんでもなく勝手な話です。

「引き分けになって良かったよね」
フルートがこっそりゼンにそう言うと、
「う、うん・・・むにゃむにゃ・・・」
ゼンはあいまいな返事をしました。
「?」
フルートはゼンの顔を見ました。
ゼンは、ちょっぴり赤い顔をしているようでした。


というところで、今日はここまで。
次は金曜日にアップの予定です。

(2003年9月17日)



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