6.脱出
さて、お化けクジラに飲み込まれたフルートとポチはどうなったでしょう?
死んでしまったかな?
いえいえ、それでは勇者フルートのお話が終わってしまいます。もちろん、生きていますよ。
フルートが乗った波の馬は、お化けクジラに飲み込まれたとたん、ものすごい速さで口の奥めざして駆け出しました。おかげで彼らはクジラにかまれることもなく、そのままお腹の中に到着したのでした。
クジラのお腹の中は暗くて暖かくてじめじめしています。
何も見えないので、フルートが首から下げた金の石を取り出すと、石が光り出してあたりを照らしました。
「うわ! 見て、フルート!」
フルートに抱きかかえられていたポチが、下を見て叫びました。水の中に、半分溶けかけた白い骨が見えています。大きな魚の骨のようです。
「下に降りちゃだめだ」
とフルートは言いました。
「ここはクジラの胃袋の中だ。下の水は胃液なんだ。降りたら溶かされて、消化されちゃうぞ」
大変! フルートとポチは、あわてて波の馬にしっかりと乗り直しました。
「キュ〜ン・・・これからどうしましょうか、フルート?」
ポチが困ったように言いました。
波の馬に乗っていればクジラに消化される心配はないのですが、ずっとこのまま、ここにいるわけにもいきません。早く渦王のところへ行って、ゼンの行方を確かめなくては。
すると、突然、波の馬が言いました。
「クジラの口を開けさせることができれば、そこから外に逃げられるんですけれどね」
フルートたちは、波の馬がしゃべったのでびっくり。それがなぞなぞではなく、普通のことばだったので、またびっくり。
「きみ、普通にしゃべれるんだ」
とフルートが言うと、波の馬は言いました。
「私たちは海の生き物ではなく、海王様に作られた魔法の生き物ですから、魔王の魔力には負けなかったんです。でも、魔王の力は強大です。海王様が魔王にやられてしまえば、海はすべてヤツのものになってしまいます。早くここから脱出しないと・・・」
「わかってる。なんとかしよう」
そう言ってフルートは考え込みました。
ここは、生きているクジラの胃袋の中。
クジラに口を開けさせることさえできれば、波の馬に乗って外に脱出できます。
そのためには・・・
「やっぱり、この方法で行くか」
とひとりごとを言うと、フルートは背中から炎の剣を抜いて、大きく剣を振りました。
ゴオッ!
剣の先から炎が吹き出して、クジラの胃袋の壁を焦がしました。
グワォォーーーン・・・
クジラの悲鳴が響いて、胃液の海は大荒れに荒れ始めました。
でも、フルートは手加減しません。剣をあちこちに振りながら、炎でクジラの胃を焼いていきました。
それを見てポチも言いました。
「ワン! ぼくもやります!」
ポチの首輪についた緑の石が光って、ポチの全身を包み込みました。そう。ポチは風の犬に変身したのです。
風の犬になったポチは、もうクジラに消化される心配もありません。
自由自在に飛び回りながら、クジラの胃袋のあちこちに、噛みつき始めました。
ビューン・・・ガブッ、ガブッ! ビューン・・・ガブッ!
海の中を泳いでいたお化けクジラは、突然胃袋の中が熱くなったり痛くなったりするので、びっくりして海の上に飛び出してきました。
胃の中はますます熱くて痛くなります。
クジラは海の上を猛烈に暴れ回り、とうとうたまらなくなって、口を大きく開けました。
とたんに、波の馬に乗ったフルートと風の犬のポチが、その口から飛び出してきました。
胃袋が痛くなくなったので、クジラはあわてて海の中に潜っていって、あとはもう二度と戻ってきませんでした。
「やった!」「やった!」「無事だったぞ!」
海の上で心配していた波の馬たちが、口々に言いながら駆け寄ってきました。
ウミツバメも、嬉しそうにフルートたちのまわりを飛び回りながら言いました。
「なぞなぞ、なぞなぞ、なぞなぞなぁに。お化けクジラのお腹の中から、元気に飛び出して戻ってきたのはだ〜れだ?」
風の犬のポチが、ウミツバメと並んで飛びながら、得意そうに答えました。
「ワンワン! それはもちろん、金の石の勇者のフルートだよ!」
フルートは炎の剣を天にかざすと、波の馬やウミツバメやポチを見渡しながら、大きな声で言いました。
「さあ、急いで渦王のところに行こう! ゼンと合流して、魔王を倒しに行くんだ!」
「オーッ!」
皆は声を合わせると、いっせいにまた海の上を走り始めました。
遠い水平線の彼方・・・渦王が住むという、不思議な島に向かって。
というところで、今日はここまで。
次は土曜日にアップの予定です。
(2003年9月11日)
|