4.なぞなぞ
突然海から現れた水のヘビにさらわれてしまったゼン。フルートとポチが、どうして良いか分からずに立ちつくしていると、後ろから不思議な音が聞こえてきました。
「なぞ、なぞ、なぞなぞなぞなぞ・・・なぞなぞなぞなぞ・・・」
振り返ったフルートとポチは、あっ、と驚きました。
後ろには、いつの間にか何百匹というカニが集まっていて、ゴソゴソ動きながら、じっとフルートたちを見つめていたのです。なぞなぞなぞなぞ・・・というのは、カニたちが泡を吹きながら鳴いている音でした。
フルートはとっさに炎の剣を抜きました。ポチも体を低くして身構えました。このカニたちは、さっきの水のヘビの仲間かもしれません。
すると、カニはいっせいに「なぞなぞ」と鳴くのをやめました。そして、声をそろえて、こんなことを言い始めたのです。
「2つの手にいつも大きなハサミがふたつ、だけど仕立て屋じゃありません。横は得意だけど、前は嫌いな、勇者たちの味方の生き物はなーんだ?」
「えっ?」
フルートとポチは目を丸くして顔を見合わせました。
「これって・・・なぞなぞ・・・?」
「ワン。そうみたいですね」
そこで、フルートとポチは考えました。
2つの手に大きなハサミがふたつ、横は得意だけど前は嫌いな生き物といえば・・・
フルートとポチは声を合わせて言いました。
「答えは、カニ?」
すると、カニたちはいっせいにガシャガシャとハサミをならし、体を揺すって大喜びしました。
「当たり、当たり、大当たり〜!!!」
カニたちが嬉しそうに叫んでいます。
悪いカニたちではなさそうです。
そこで、フルートは剣を収めると、かがみ込んで、カニたちに向かって言いました。
「なぞなぞの言うとおりなら、君たちは勇者の味方だってことだよね。ぼくがその勇者なんだ。仲間がさらわれて困っているんだ。助けに行きたいんだけど、どこに行けばいいのか分からないんだよ。君たち、なにか知らないかな」
ところが、カニたちは何も答えませんでした。ただ、泡を吐きながら「なぞなぞ、なぞなぞ・・・」と鳴き出しただけです。
フルートとポチは、また顔を見合わせました。
「ことばが分からないのかな?」
「クーン。でも、さっきは人間のことばでなぞなぞを出しましたよ」
すると、カニたちがまた「なぞなぞ」と鳴くのをやめて、声を揃えて言いました。
「ぼくらはもともと人間のことばもしゃべれた。だけど、突然、なぞなぞしか言えなくなった。ぼくたちに魔法をかけて、勇者を助けられないように邪魔をしている、怖くて悪いヤツって、だーれだ?」
これの答えは、フルートたちにもすぐ分かりました。 「魔王だ!」
カニたちはまた、ガシャガシャとハサミをならして喜びました。
「当たり、当たり、大当たり〜!!!」
そう。魔王は、海の生き物たちが勇者の手助けをできないように、魔法をかけてしまったのです。何か話そうとすると、ことばが全部なぞなぞになってしまう魔法でした。
でも、カニたちはなぞなぞしか言えないけれど、一生懸命本当のことを教えようとしてくれています。
なぞなぞだって、うまく使えば、何か分かるかもしれません。
フルートは、うーん、と考え込んで、そして、こんなふうに聞いてみました。
「友だちのゼンが、水のヘビに連れ去られてしまったんだ。あのヘビは魔王の手先なのかな?」
すると、カニたちは「なぞなぞ・・・」と鳴いてから、こんな問題を出してきました。
「銀の水のヘビは海王様のお使い。青い水のヘビは海王様の弟の、渦王(うずおう)様のお使い。黒い水のヘビは怖い魔王のドラゴンの化身。銀の水のヘビ、青い水のヘビ、黒い水のヘビ。さて、ゼンを連れていったのは、どの水のヘービだ?」
「青い水のヘビ! ってことは、渦王様のお使いだ!!」
「当たり、当たり、大当たり〜!!!」
カニたちは大喜びです。
ゼンが魔王につかまったのではないとわかって、フルートとポチはほっとしました。
渦王は海王の弟。ということは、フルートたちの味方なのかもしれません。
「どうやったら、その渦王のところまで行けるかな?」
とフルートは聞きました。
フルートたちは魔法の真珠を飲んでいるので、水の中でも平気です。方向さえ教えてもらえたら、海底を歩いてでも行くつもりでした。
カニたちが、なぞなぞ・・・と言いながらまた、問題を出してきました。
「海の上の白い馬。水平線から駆けてきて、陸に駆け上がり、また海に戻っていく。これ、なーんだ?」
「え??」
フルートとポチはまたまた顔を見合わせました。今度の問題は、ちょっと難しいです。
海の上の白い馬。水平線というのは、海のずっと遠くに見える、空と海との境目のこと。そこから駆けてきて、陸に駆け上がり、また海に戻っていくもの、というのは・・・
「わかった! 波だ!!」
フルートが叫びました。
「当たり、当たり、大当たり〜!!!!」
ガシャガシャ、ガシャガシャ。カニたちは大喜びです。
でも、フルートたちはあまり喜べませんでした。
渦王のいる場所への行き方を聞いたのに、なぞなぞで教えられたのが「波」というのは、いったい・・・?
すると、カニたちがいっせいに片方のハサミを海に向けました。
フルートとポチがそちらを見ると・・・海の向こう、水平線から、白い筋のようなものが現れました。
それは、どんどんこちらへ近づいてきます。
白く泡立つ波の線です。
海のうねりに合わせて、高く低くなりながら、どんどんどんどん、近づいてきます。
もっと近づいてきたのをよく見ると・・・それは、ただの波ではなく、白いたてがみと体をした、水の馬の群でした。ドドドドド・・・とひづめを鳴らしながら、こちらに向かって突進してきます。
「波の馬だ!」
フルートたちはびっくりして、ぽかんとそれを眺めてしまいました。
すると、カニたちがもうひとつのハサミで、波の馬をいっせいに指さしました。
まるで「あの馬に乗りなさい」と言っているようでした。
「わかった!」
とフルートは叫びました。
あの波の馬に乗れば、きっと渦王のところまで連れていってもらえるのです。
そこで、フルートはポチを腕に抱き上げると、波の馬が近づいてくるのを待ちました。
カニたちがじっとそれを見つめています。
馬たちが砂浜に駆け上がってきました。
ザザザザザーーーーーーーッッッ・・・・・・
砂浜の上を何メートルも走って、くるりと向きを変えます。
その瞬間、フルートは一頭の波の馬に飛び乗りました。
馬の体は水でできていましたが、ちゃんとフルートが乗ることができました。白いたてがみに手を回すと、ちゃんとしがみつくこともできました。
波の馬は、フルートとポチをのせたまま、またまっしぐらに海に向かって駆け出しました。
「なぞなぞ、なぞなぞ・・・なぞなぞ、なぞなぞ・・・」
カニたちの声が聞こえたので、フルートとポチは振り向きました。
砂浜で、たくさんのカニたちがハサミの手を振って見送ってくれています。
まるで、「いってらっしゃーい、がんばってー!!!」と応援してくれているようでした。
フルートも手を振り返すと、ポチと一緒に叫びました。
「どうもありがとうー! いってきまーす!」
波の馬は、水平線をめざして、海の上をまっすぐに走り始めました。
というところで、今日はここまで。
次は火曜日にアップの予定です。
(2003年9月7日)
|