3.別れ別れ
フルートとゼンと小犬のポチは、マグロのヒレにつかまりながら、長いトンネルを突き進んでいきました。
トンネルの中は真っ暗ですが、時々、何かが光りながら通り過ぎていきます。
なんだろうと思っていると、それは小さなイカの群れでした。自分で光を出す、ホタルイカです。
フルートたちがそれを珍しそうに眺めていたとき、マグロが突然叫びました。
「あれは何だ!?」
フルートたちが、えっ? と思った瞬間、前からどっと強い流れが襲ってきました。
まるで竜巻のような水の流れです。
あっという間にフルートとゼンはマグロから手が離れて、押し流されてしまいました。
流されて、流されて、どんどん流されて・・・やっとのことで、フルートはトンネルを抜けて明るい場所に出ました。
足の下に砂がある、浅い海の中です。
フルートは必死で歩いて、ようやく陸に上がりました。
そこは砂浜でした。すぐ近くには、同じように海からはい上がってきたゼンがいます。
「ゼン、無事だったね!」
フルートは喜んで駆け寄りました。
「おう、無事でなくてどうする。でも、しこたま水を飲んじまったぜ。あ〜、口の中がしょっぺえ」
顔をしかめながらゼンは言って、あたりをきょろきょろ見回しました。
「それより、ポチは? 無事か?」
「ワンワン、ぼくは大丈夫ですよ」
ポチが元気に鳴きながら、フルートのリュックサックから飛び出してきました。
フルートはあたりを見回しました。
砂浜の後ろは深い森、前には一面青い海が広がっています。
波が遠くから押し寄せてきては、小山のように盛り上がり、崩れて砂浜に打ち寄せてきます。
マグロはどこにも見あたりませんでした。
「はぐれたみたいだね」
とフルートは言いました。
マグロに、虹のサンゴの谷にいるという海王のところまで案内してもらうわけだったのに、肝心のマグロがいなくなってしまっては、これからどうしたらよいのでしょう。
フルートは鎧の内側から金の石を出してみましたが、石は何も教えてくれませんでした。
ゼンは、しょっぱい、しょっぱい、と言いながら、しきりに唾を吐いていましたが、そのうち口から何かがポーンと飛び出してきました。
キラキラ光りながら宙を飛んでいって・・・ぽちゃん・・・海の中に落ちました。
魔法の青い真珠、人魚の涙でした。
「あーっ、しまった!」
ゼンはあわてて海に入って真珠を拾おうとしました。それがなくては、ゼンは水の中で息することができません。
ところが、その目の前で、一匹の魚が真珠をくわえて泳いでいってしまったのです。
「あっ、この野郎! 待て! 真珠を返せ!!」
ゼンは足を踏みならして怒鳴りましたが、魚は戻ってきませんでした。
「・・・どうしよう」
ゼンはがっかりして砂浜に座り込みました。
フルートが心配そうな顔で海を見ながら言いました。
「今の魚・・・目玉が3つあって、頭に角が生えていたよ。怪物の魚だ。きっと、魔王の手下の魚だよ」
「え? じゃあ、魔王のヤツ、俺たちがこうして海に来たことに気がついているのか?」
「きっとね。だから、トンネルの中で邪魔をして、ぼくたちをマグロさんから引き離したんだ」
フルートとゼンとポチは、砂浜の上で寄り添いました。どこからか魔王が突然襲いかかってきそうなな気がしたからです。でも、しばらく様子を見ていても、魔王は現れませんでした。
ゼンは足下の小石を蹴りました。
「ちぇっ、これからどうする? 海の底に行こうにも、おれはこの通り、水に入れなくなっちまったしさ」
フルートはもう一度金の石を出してみましたが、やっぱり石は何も言いません。こんな時こそ、泉の長老の助けが欲しいのに・・・。
もしかしたら、魔王に邪魔されて、長老と話せなくなっているのかもしれないな、とフルートは考えました。
その時、ポチが突然、ワンワンと吠え始めました。
「何か来る! 海から何か来ますよ!」
フルートはとっさに炎の剣を抜いて構えました。ゼンも妖精の弓に光の矢をつがえようとしました。
すると、その目の前で青い海の水がぐぅんと盛り上がり・・・一匹のヘビの姿になって、ゼンの体に巻きつきました。
「うわぁっ! 放せ! 放せぇっ!!」
ゼンは暴れて、弓や腕でヘビを叩きましたが、相手は水なので全然効きません。
「ゼンを放せ!!」
フルートも炎の剣でヘビの体に斬りつけましたが、剣は水の中を通り抜けるだけです。
そして・・・ザッブーーーーン!!!!!
水のヘビは、後ろを向くと、ゼンを捕まえたまま、海の中に飛び込んでしまいました。
「ゼーーン!!」
「ワンワン! ゼン! ゼン!」
フルートとポチは真っ青になって海に飛び込みました。
ゼンは魔法の真珠を吐き出してしまったから、水の中で息ができません。
早く助けないと、おぼれてしまう・・・!
ところが、海の中に潜っていくら探しても、ゼンの姿は見つかりませんでした。
水のヘビが連れ去ってしまったのです。
これも魔王のしわざでしょうか。
フルートとポチは、どうしていいのかわからなくなって、海から上がると、そのまま砂浜に立ちつくしてしまいました。
どんな怪物も怖いと思わなかったフルートとポチだったのに、なんだか泣きたいような気持ちになっていました。
すると、後ろからこんな音が聞こえてきました。
「なぞ、なぞ、なぞなぞなぞなぞ・・・なぞなぞなぞなぞ・・・」
風がささやくような、不思議な音です。
後ろを振り返ったフルートとポチは、あっ、とびっくり仰天しました
というところで、今日はここまで。
この続きは日曜日にアップの予定です。
(2003年9月5日)
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