「勇者フルートの冒険・2 〜風の犬の戦い〜

19.最終決戦−2

魔王の呼び声に、何十頭という風の犬たちが、空のかなたからやってきました。
鋭い牙をむきだしにして、フルートたちに襲いかかってきます。

フルートはあわててダイヤモンドの盾をかまえて、ゼンやポポロの前に立ちました。
ガリリッ、ボキッ!
一番先頭の風の犬が、ダイヤモンドの盾にかみついて、牙がぼっきり折れました。
別の風の犬はフルートの肩にかみつきました。でも、フルートの金色の鎧には、傷ひとつつきません。
東の国の城で小人のノームに強化してもらった盾や鎧は、風の犬の牙にも負けないくらい強くなっていたのです。
風の犬は渦を巻いてくやしがると、今度は後ろのポポロに襲いかかってきました。
ポポロは魔法の鎧を着ていません。
「キャーッ・・・!」
ポポロはあわてて逃げようとしました。


そのとき、フルートはあることに気がつきました。
風の犬たちはみんな、首に黒い石の首輪をつけているのです。
ポチの首輪の石はきれいな緑色。天空の国の風の犬はいろいろな色の石の首輪をしていると、ポポロも前に言っていました。
でも、魔王に操られている風の犬たちは、首輪の石がみんな黒いのです。
「もしかして・・・」
とフルートは考えました。
「もしかしたら、風の犬たちはあの首輪のせいで魔王に操られているのかもしれない」

そこで、フルートは光の剣をかまえ直すと、近づいてくる風の犬の、首輪を狙って斬りました。
スパッ。
首輪がまっぷたつになって、城の床に落ちました。
とたんに
「キャウン」
と鳴き声が上がって、一匹の子犬が城の床に転がりました。
風の犬ではありません。ちゃんと4本の足としっぽがあって、むくむくの毛が体中に生えている、普通の犬です。
フルートが考えたとおりでした。
黒い石の首輪を斬ると、風の犬はもとの普通の犬の姿に戻ったのです。
子犬は不思議そうな目であたりをきょろきょろ見回しました。魔王の魔力がなくなって、正気に返ったのです。

「首輪だ! 首輪を斬れば、風の犬はもとの犬に戻るんだ!」
そう言いながら、フルートは光の剣で次々と風の犬の首輪を斬り始めました。
ポチも、風の犬の姿で飛び回り、敵の風の犬の首輪をかみ切っていきました。
ところが、ゼンだけは持っていたのが短剣だったので、いくら振り回しても風の犬に届かなくて、首輪が斬れません。
「ゼン、これを使え!」
フルートが自分の背中から炎の剣を抜いてゼンに投げ渡しました。
「おおっ、かっこいいーっ!」
ゼンは大喜び。
今度は、片っ端から首輪を斬っていきました。
炎の剣に斬られた首輪は、床に落ちるとボウッと燃えて、たちまち灰になりました。

「キャンキャン」「ワン」「キューン」
風の犬たちは次々と犬の姿になって、城の床に落ちていきます。
あっという間に、玉座の間は犬でいっぱいになりました。
最後の風の犬の首輪を、フルートが光の剣で斬りました。
スパッ。
「キャン」
風の犬は茶色い子犬の姿になって床に落ちました。

とたんに、ポポロが叫びました。
「ルル! ルルじゃないの!」
それは、ポポロの家の飼い犬だったのです。
ずっと魔王に操られて、怖い風の犬になっていたのでした。
首輪がなくなって正気に返ったルルは、ポポロに飛びつくと、ポポロの顔をぺろぺろなめて大喜びしました。


風の犬はいなくなりました。
残る敵は、黒いドラゴンの背中に乗っている魔王ただひとりだけ。

「魔王、覚悟!」
フルートはそう叫ぶと、風の犬のポチに飛び乗りました。
「俺も行く!」
ゼンがその後ろに飛び乗りました。
ポチはフルートとゼンを背中に乗せたまま、びゅーんと空を飛んで、魔王の乗る黒いドラゴンに近づいていきました。

魔王が大きな剣を抜いて斬りつけてきます。
カキーン! フルートが光の剣でそれをはねかえしました。
すれ違いざま、魔王がまた後ろから斬りつけてきました。
ガシッ! 今度は後ろに乗っていたゼンが炎の剣で受け止めます。
ポチは空中で方向転換をしました。また、黒いドラゴンに向かいます。
ドラゴンがポチにかみついてきました。
ポチは攻撃をかわすと、逆にドラゴンにかみつこうとしました。
ドラゴンとポチ、魔王とフルートとゼンは、空中で激しく戦い続けます。
ポポロは、城の中から、応援しながら見守っていました。
「がんばって、フルート! がんばって、ゼン! ポチ、しっかり!」

ところが、戦っては離れ、離れてはまた近づいて戦っているうちに、だんだんポチの動きが遅くなってきました。
背中にフルートとゼン、ふたりも乗せて飛んでいるので、だんだん疲れてきたのです。
「ひゃっ!」
魔王の剣に斬られそうになって、ゼンが頭を下げました。
カキーン! フルートが魔王の剣を光の剣ではねかえして、ゼンを助けました。
ポチのスピードが遅くなってきたので、魔王の攻撃が当たりやすくなってきたのです。

「ああっ、大変! どうしよう! フルートたちがやられちゃう・・・!」
ポポロは気が気じゃありません。
「どうしよう、どうしよう。雷の杖はもう3回とも使っちゃったから、もう残ってないし・・・ああ、どうしよう・・・!??」

すると、ポポロの犬のルルが口をききました。・・・ポチと同じように、ルルも人間のことばをしゃべれる犬だったのね。
ルルは言いました。
「ポポロ、あなたは魔法使いじゃない。一日ひとつだけだけど、自分でも魔法が使えるじゃない。それももう残っていないの?」
「あ・・・残ってる!」
そうです。ポポロは今日はまだ魔法を使っていませんでした。ひとつだけなら、自分の魔法が使えます。

空中ではフルートたちが魔王相手に苦戦していました。
ドラゴンがポチの頭にかみつこうとしています。
ポポロは、ドラゴンに向かって叫びました。

「レオコー!!」

レオコーは、敵を凍らせる魔法。
とたんに、青白い光がポポロの手のひらから出てきて、まっすぐドラゴンに飛んでいきました。冷たい冷凍光線です。
魔王が素早く片手を上げました。
パシーッ! 魔王に当たろうとしていた冷凍光線は、バリアにはねかえされてしまいました。
でも、魔王のバリアも、ドラゴンにまでは間に合いませんでした。
黒いドラゴンは、カチーンと凍り付きました。
そして、魔王を背中に乗せたまま、ゆっくりと下に落ち始めたのです。

魔王が、ドラゴンを溶かす魔法を唱えはじめました。
ドラゴンの翼の氷が、少しずつ溶けてきます。
でも、その隙をフルートたちは見逃しませんでした。
ポチが急降下して、ドラゴンに向かいます。
その背中から、フルートとゼンが、剣をかまえたまま飛びおりました。
「えーーーいっ!!」

ズバッ! ズバッ!
フルートの光の剣とゼンの炎の剣は、それぞれにドラゴンの右と左の翼を斬り落としました。

ドラゴンの体が、大きくぐらりと傾きました。
翼を斬られたドラゴンは、もう空を飛べません。
魔王を乗せたまま、石のように、空を落ち始めました。
ひゅーーーーーーーー・・・・・・

「おーぼーえーてーおーれぇーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・」
魔王の声が、空の下の方に遠ざかっていって、やがて、魔王もドラゴンも見えなくなってしまいました。

フルートとゼンは、ポチの背中に拾い上げられていました。
そして、空から落ちていく魔王を見送っていました。
青い空の中に魔王たちが消えてしまっても、それでも見つめ続けていました。
本当にやっつけることができたのかな・・・・・・?


すると、城からポポロの叫び声がしました。
「フルート! ゼン! あれを見て!!」
えっ? とフルートたちが振り向くと、今まで白一色だった天空の国に、色が戻ってくるところでした。
森がきれいなエメラルドグリーンに変わります。湖が輝く青になります。遠くの山は薄い水色に、広がる野原は色とりどりの花畑に、そして、お城は美しい虹色に変わっていきました。そう、天空の国の城は、もともとはきれいな虹色をしていたのです。
魔王がいなくなったので、天空の国に色と魔法が戻ってきたのでした。

ポチは城に戻ると、フルートとゼンを下ろして、もとの子犬の姿に戻りました。
さすがにくたくただったので、そのまま床にべたっとへたばってしまいます。
ポポロの犬のルルがやってきて、ポチの顔をペロペロとなめてくれました。
「えへへっ」ポチは照れくさそうな顔をして笑いました。

「もう大丈夫だね。魔王はいなくなったんだ」
とフルートたちが話していると、後ろからこんな声がしました。
「フルート、ゼン、ポポロ、ポチ、本当によくやってくれた。礼を言うぞ」
それは、モグラの王様の声でした。
フルートたちは振り向いて、あっ、と驚きました。
そこにいたのは、モグラの王様ではありませんでした。
赤い髪に赤いひげ、立派な服を着て金の冠を頭にのせた、人間の王様だったのです。
その後ろには、赤い長い髪に金の小さな冠をつけた、美しい女の人も立っていました。

「それがあなたの本当の姿だったんですか?」
とフルートが聞くと、王様はうなづきました。
「いかにも。わしはこの天空の国の王じゃ。魔王が突然この城にやってきて、すべての魔法と色を奪い、わしたちをあんなモグラの姿に変えてしまっていたのだ。だが、そなたたちが魔王を倒してくれたおかげで、すべては元通りになった。わしも王妃も、こうして人間の姿に戻ることができた。感謝するぞ」

すると、そこにドアが開いて、ぞろぞろっと王様の家来が入ってきました。
そして、いっせいにフルートたちに向かって敬礼をしました。
「フルートさん、ゼンさん、ポポロさん、ポチさん、本当にありがとうございました。・・・私たちが誰だか分かりませんか? あなたたちを城の中に入れるときにトンネルを掘った、モグラたちです。おかげで私たちももとの姿に戻れました。本当にありがとうございました!」

天空の国の王様が言いました。
「さあ、今夜はお祝いのパーティじゃ。今まで開いたことがないくらい、盛大なパーティにするぞ。主役はそなたたちじゃ、フルート。皆のもの、さっそく準備じゃ!」


はい、というところで、次回はいよいよ最終回です。

(2003年3月18日)



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