「勇者フルートの冒険・2 〜風の犬の戦い〜

18.最終決戦−1

フルートは、魔王のいる部屋のドアを勢いよく開けました。
ギギギィ・・・バターーーン。

ドアが開くと、そこは広くて立派な部屋でした。
分厚いじゅうたんが敷き詰められていて、部屋の奥の、一段高くなったところに、大きな椅子が2つ並んでいます。王様とお后様が座る玉座です。
今は、その玉座に、ひとりの男が座っていました。
黒い長い衣を着て、頭にはねじれた山羊の角をはやした、大きな男・・・それが、魔王でした。
魔王は広い玉座の間に、たった一人でいました。

「よく来たな、小僧ども」
と魔王が言いました。低くてよく響く声です。
「おまえたちのような小さな子どもが、よくぞここまで来られたものだ。それだけは誉めてやるぞ」
「けっ、魔王に誉められたってうれしいもんか」
とゼンが小さな声でつぶやきました。

フルートは一歩前に進み出ると、魔王に向かって言いました。
「東の国ではたくさんの人たちが風の犬に襲われて、死んだり怪我をしたりしています。風の犬を連れ戻してください。それから、この天空の国に、色と魔法を返してください!」
「それはできぬ相談だ」
と魔王は言いました。
「わしはこの天空の国を手に入れた。今度は、天空の国の魔力と風の犬を使って、地上をわしのものにしていく番だ。わしはすべての世界の支配者になるのだ。たとえ子どもでも、その邪魔はさせんぞ」
そう言うと、魔王は玉座から、さっと手を振りました。

すると、フルートたちの目の前の床から、何かが現れ始めました。
もろもろもろ・・・と床から盛り上がるように出てきて、フルートたちに向かってきます。
それは、何十体というゾンビ、ゴースト、ガイコツ戦士でした。

「ええい!」
フルートは光の剣で斬りつけました。
ゼンは光の矢でモンスターを片っ端から撃っていきます。
ポチも風の犬の姿で飛び回って、次々とモンスターにかみつきました。
やられたモンスターは、床に倒れて霧になって消えました。でも、モンスターは次々と現れてきて、とてもきりがありません。

すると、ポポロが雷の杖を上げながら叫びました。
「みんな、下がってて! ローデローデ、リナミカローデ! セケオキテ!」
ガラガラガラ・・・ビシャーン!!!!!
特大の雷が落ちて、モンスターを一匹残らず消してしまいました。
もう新しいものも現れてきません。
「やったぁ、ポポロ!」
フルートとゼンは歓声をあげました。


「ふん、少しはやるようだな。だが、これではどうだ?」
そう言って、魔王はまた手を振りあげました。
とたんに、城がグラグラとゆれ始めました。
天上が崩れて、レンガや石が雨のように降ってきます。
「危ない!」
フルートたちは思わず頭を抱えました。
すると、フルートの金の石が、またぱーっと輝き始めました。光の傘が開いて、フルートたちの頭の上をおおいます。レンガや石は光の傘にはねかえされて、フルートたちにはひとつも当たりませんでした。

ところが、魔王の魔法は、それだけではなかったのです。
落ちてきたレンガや石がフルートたちの目の前でどんどん集まっていって、やがて、見上げるような大きな人間に変わったのです。石でできた巨人。ストーンゴーレムです。
ゴーレムは腕を振り上げて、まわりの壁をたたき壊しました。
レンガや壁石が飛び散ります。それをまた吸い込んで、ゴーレムはもっともっと大きくなっていきました。

魔王がゴーレムに命令しました。
「行け! その小僧どもをたたきつぶすのだ!」
ゴーレムが体をぎしぎし言わせながら、フルートたちに迫ってきました。
大きな石の手を振り上げて、フルートたちをたたきつぶそうとします。

「そうはいくか!」
フルートはそう叫ぶと、風の犬のポチに飛び乗りました。
ポチはびゅーんと飛ぶと、ゴーレムのまわりを素早く飛び回りました。
ゴーレムはフルートとポチをつかまえようとしましたが、ポチがあまりすばしこいので、なかなか捕まえられません。
そこにすかさず、ゼンが光の矢を撃ち込みました。
「グァア!」
ゴーレムは背中に矢が刺さって悲鳴を上げました。でも、ゴーレムがとても大きいので、霧になって消えたのはほんの少しです。
ゴーレムは怒って振り返り、今度はゼンに襲いかかってきました。
その隙に、フルートはポチをゴーレムの頭の真上に行かせました。
ゴーレムがゼンをたたきつぶそうと身をかがめます。
フルートは光の剣をかまえて叫びました。
「ポチ! 急降下!」
ポチはフルートをのせたまま、すごい勢いで下に飛びました。まるでジェットコースターか弾丸のような勢いです。
「でえぇいっ!!!」
フルートは光の剣でゴーレムの首をすっぱりと斬りました。

ゴーレムの動きが止まりました。
ゴーレムにもう少しでつぶされそうになっていたゼンは、あわててゴーレムの手の下から逃げ出しました。
ズズッ・・・ゴーレムの頭が、切られた首のところからずれて、ゆっくりと落ち始めました。
ズズズ・・・ドッシーーーン!!
ゴーレムの石の頭が床に転がりました。

と、突然ゴーレムがザーッと音をたてて崩れ始めました。
石の頭も石の体も砂の固まりになって、それが崩れていくのです。
あっという間に、ゴーレムは砂の山に変わってしまいました。


フルートはポチの背中から魔王の目の前に飛び降りて叫びました。
「どうだ! 今度こそおまえの番だぞ!」

ところが、魔王は低い声で笑い始めました。
「ふふふふ・・・。わしを倒すというのか。やれるものなら、やってみるがいい」
そう言うなり、魔王の体が玉座から浮かび上がりました。そして、吸い込まれるように、ゴーレムが壊した壁の穴から城の外に飛び出していきました。
「あっ!」
フルートたちはびっくりして、壁の穴にかけよりました。
ここはお城のてっぺんにある部屋です。ここから下に落ちたら、いくら魔王でも助からないかもしれません。

外はいつの間にか夜になっていました。黒い闇が広がっていて、風がごうごううなっています。
その闇の中に、魔王が浮かんでいました。
バッサバッサと翼を打ち鳴らす音が聞こえます。
魔王は、一匹の大きな黒いドラゴンの背中に乗っていたのでした。

魔王は、ドラゴンの背中から、城の中のフルートたちに向かって言いました。
「子どもだと思って甘く見ていたが、もう容赦はせん。来い、風の犬たちよ! 来い!」
それを聞いて、フルートはあわててポチの背中に飛び乗ろうとしました。
ゼンは魔王に光の矢を撃とうとしました。
けれども、それより早く、ポポロが雷の杖をかざして叫びました。
「ローデローデ、リナミカローデ! テウオウオマ!」
ガラガラ・・・ビシャーーーーンッ!!!!!
大きな雷が天から落ちてきて、ドラゴンと魔王をまともに打ちました。

ところが。
雷は魔王たちに触れる寸前でねじ曲げられると、わきに流れてしまったのです。
魔王が素早く両手を上げて、バリアの魔法を唱えたのでした。
「ああっ、効かなかった!」
フルートたちは思わず声を上げました。
ポポロの雷の杖の魔法は3回まで。これで全部魔法を使い切ってしまったのです。
「くっそー」
ゼンが光の矢を次々に撃ち始めました。
ところがそれも魔王のバリアに防がれて、はじかれてしまいます。

魔王がまた、声を上げて笑いました。
「どうした、子どもたち。もう終わりか? では、今度はこちらから行くぞ」
そう言って、魔王が両手をさっと振り下ろしました。

とたんに、ゴォッと風が吹いてきて、空のかなたから白いものがたくさん近づいてきました。
風の犬たちです。
魔王に操られた風の犬が、何十頭もこちらに向かってやってくるのでした――


・・・とういところで、今夜はここまでね。
とても長くなっちゃうから、続きは明日。また明日〜!
うんうん、明日には最終決戦が終わるの。
でも、今日はもう遅くなったからね。明日にしようね。
おやすみなさい・・・っ!!

(2003年3月17日)



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