「勇者フルートの冒険・2 〜風の犬の戦い〜

17.見えない敵

フルートとゼンとポポロとポチは、モグラの王様に教えてもらったとおり、長い廊下をどんどんまっすぐに歩いていきました。
すると、王様が言ったとおり、廊下の突き当たりにらせん階段がありました。
らせん階段ってわかるかな? 高い塔なんかにある階段で、壁に沿ってぐるぐる上に続いているんだよ。ぐるぐる、ぐるぐる登りながら、上へ上へとあがっていくの。
フルートたちはそのらせん階段を上り始めました。

しばらく行くと、ゴーストが現れました。
ゴーストはふわふわ飛び回りながら、フルートたちに襲いかかってきます。
フルートはさっきもらった光の剣を抜くと、ゴーストに向かって斬りつけました。
ズパッ! パーッ。
ゴーストは、光の剣で切られると、そのまま霧のように消えていってしまいました。

もうしばらく行くと、今度は階段の上の方からゾンビが何匹も現れました。
ゾンビって言うのは動く死体のこと。腐った死体だからね、気持ち悪いよ〜。
こんなのにそばに寄られたり、抱きつかれたりしたらたまらない。
ゼンはエルフの弓に光の矢をつがえて、ゾンビに向かって撃ちました。
ドシュッ! パーッ。
ゾンビは、光の矢が刺さったとたん、これまた霧のように崩れて消えていってしまいました。
光の武器には、アンデッドのモンスターを消してしまう力があるのです。
ゼンは光の矢を次々に撃って、ゾンビを全部消し去りました。

「すごーい、フルート! ゼン!」
ポポロとポチはすっかり感心しました。

そして、とうとうみんなはらせん階段の一番上まで到着しました。
階段を上がったところにドアがあります。
フルートたちは武器を持ち直し、防具をつけ直すと、顔を見合わせてうなづきました。
「よし、行くぞ」
「おう」「うん」「ワン」
フルートはドアに手をかけると、思い切りドアを開けました。



「あれ?」
みんなは目を丸くしました。
部屋の中には誰もいません。
白いじゅうたんを敷きつめた部屋は空っぽです。
その部屋の向こう側の壁に、またもうひとつ、ドアがありました。
「そういえば、モグラの王様が言ってたわ。階段を登り切ったところの部屋の次の部屋に、魔王がいるって」
とポポロが言いました。
「よぉし、あのドアの向こうだな!」 ゼンは部屋を横切ろうと走り出しました。

とたんに、ポチがゼンに飛びついて、後ろから上着の裾をくわえて引っぱりました。ゼンは、勢い余って後ろに転びました。
「いててっ・・・! 何するんだよ、ポチ!?」
「ウ〜・・・何かいます。この部屋の中には、見えないけれど、何か大きなものがいるんです」
「なにっ!?」
フルートたちは、すぐに剣や弓矢をかまえました。

すると、ポチが叫びました。
「フルート、危ない!」
フルートはとっさに頭を下げました。
すると、そのすぐ上を何かがブゥン! とすごい勢いで通り過ぎて行きました。
ガリリッ!!
フルートのすぐわきの壁が、何かに削られたように、突然大きく崩れました。
「な、なんだ・・・!?」
目には見えない何かが、フルートに攻撃をしてきたのです。
ポチは犬なので、目には見えなくても、気配や音で敵の動きがわかるのでした。

ポチがまた叫びました。
「ゼン、危ない!」
「うひゃっ」
ゼンはあわてて床に転がりました。そのすぐ上をまた、何かがブゥン! と通り過ぎ、ゼンの後ろの壁が崩れました。

「ポポロ! 今度はそっち!」
「きゃーっ!」
ポポロが飛びのくと、今までポポロがたっていた床に、ボコッと大きな穴が開きました。ポポロがいたら、たちまちぺしゃんこにつぶされてしまっていたでしょう。

「くそーっ、なんなんだ、いったい。姿が見えないと戦いようがないぞ」
フルートとゼンは歯ぎしりをしてくやしがりました。
すると、フルートの胸の金の石が、突然また、ぱーっと光り出しました。
金色の光が部屋中に満ちあふれます。
その光の中に、何かが幻のように姿を現し始めました。
とてもとても大きなもの・・・。次第に姿がはっきりし始めます・・・。

それは、骨だけでできたドラゴン、ボーンドラゴンでした。
ボーンドラゴンは、骨の頭を振り上げてギャオオ・・・と鳴くと、鋭い爪のついた前足をフルートたちに振り下ろしてきました。
「おっと!」
フルートたちはあわてて飛びのきました。
フルートたちのわきの壁が大きく削られて、崩れました。
今度はポポロに向かってしっぽを一撃。ポポロが走って逃げると、その後の床にボコンとまた穴が開きました。
今度はボーンドラゴンがかみついてきます。
「うわっとっと!」
みんなはまた逃げました。
ボーンドラゴンが次々に攻撃してくるので、光の剣や弓矢をかまえる暇がありません。

「よぅし!」
ポチがそう言ったとたん、ポチの首輪の緑の石がまぶしく輝き始めました。
緑の光がポチの体を包みます。
そして、緑の光が消えたとき、ポチは風の犬に変身していました。
ポチはものすごい速さで部屋の中を飛び回り、ボーンドラゴンのまわりをぐるぐる回り始めました。
ボーンドラゴンがポチにかみつこうとして、頭をぐるぐる回します。

「今だ」
フルートが、ボーンドラゴンの左の前足を光の剣で斬り落としました。
ズバッ! パーッ。
ボーンドラゴンの左前足が、霧になって消えてました。
ボーンドラゴンは怒って、フルートを叩きつぶそうと、残った右の前足を振り上げました。
そこに、ゼンの光の矢が命中しました。
ザシュッ! パーッ。
ボーンドラゴンの右の前足も霧になって消えました。

両手がなくなって攻撃できなくなったボーンドラゴンに向かって、ポポロが雷の杖を振り上げて呪文を唱えました。
「ローデローデ、リナミカローデ!」
とたんに、

グァラグァラグァラ、ピカッ、ドシャーーーーーン!!!!!!!!!

ものすごい音と共に、部屋の中に雷が落ちてきました。
まともに雷に打たれたボーンドラゴンは、あとかたもなく消し飛んでしまいました。

「やったーー!」
「やったやった!」
ボーンドラゴンをやっつけたので、フルートたちは大喜び。


さあ、部屋にはもう何もいなくなりました。
魔王は奥の壁のドアの向こうにいるはずです。
フルートたちはドアの前にたち、また顔を見合わせると、「うん」とうなづき合ってからドアを開けました――。


というところで、今夜はここまで。
明日はいよいよ最終決戦だよ。
今夜はこれで。おやすみなさい。

(2003年3月16日)



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