12.扉
つぎの朝早く、フルートとゼンとポポロとポチは、宿屋を出てお城に出発することにしました。
「泥棒さんたちも一緒に来る?」
とフルートが聞くと、泥棒たちは、シーッとあわてて唇に指を当ててみせて・・・「泥棒」だなんて大きな声で言って他の人に聞こえちゃったら、つかまってしまうかもしれないからね・・・小さな声でこう言いました。
「あっしたちはしょせん泥棒だ。お城になんて入れるような人間じゃねぇ。俺たちはここで坊ちゃん方の帰りをお待ちしておりますよ。どうか、風の犬を退治して、無事に戻ってきてくだせぇね」
そこで、フルートたちは、3人の泥棒と宿屋の主人に見送られて、元気に出発しました。
フルートたちがお城について中にはいると、ノームのおじいさんが待ちかまえていました。
「来たな、小僧ども。強化できたぞ。わしの一世一代の傑作じゃ。さあ、こっちじゃこっちじゃ」
ノームのおじいさんはフルートたちを地下の鍛冶場に引っぱっていくと、入り口の扉を大きく開けました。
鍛冶場の奥に、フルートたちの防具が並んでいます。
でも、フルートの鎧兜は銀色から金色に、ゼンの胸当ては鋼色から青い色に変わっていました。
盾も前とは違います。
ノームのおじいさんが、ひとつひとつ説明を始めました。
「フルートよ。あんたの魔法の鎧兜は魔金でメッキしておいた。これで抜群に強度が上がったぞ。前の百倍も強くなったから、今度は風の犬にかみつかれても、全然なんでもないぞ。もちろん、鎧の傷も直しておいた。盾のほうは、魔法のダイヤモンドでメッキしておいた。世界でこれほど強力な盾はないぞ。風の犬がこれにかみついたら、逆に歯が折れちまうだろう。ひょひょひょ」
とノームは笑うと、今度はゼンの防具を指さしました。
「こっちのゼンの胸当ては、魔法のサファイヤをちりばめておいた。これも抜群に強くなったぞ。盾も同じく魔法のサファイヤをつけておいた。今回はあまり役にたたんかもしれんが、この胸当てや盾は、水にとても強いからな。なにしろ、魔法のサファイヤは水と仲良しだ」
フルートたちは、さっそく防具を身につけました。
フルートの鎧は、前よりもっと体にぴったりと合って、しかも、とても軽くなっていました。
まるで布の服を着ているみたいな軽さです。
金色の鎧兜を身につけたフルートは、いかにも金の石の勇者らしくなりました。
ゼンも胸当てをつけて、盾を持ちました。
格好良いポーズを決めて、とても嬉しそうです。
すると、ノームはポポロにひとつの腕輪を差し出しました。
「あんたには防具が何もない。だから、これをやろう。わしが作った魔法の腕輪だ。これをはめていると、防御力がアップするぞ」
腕輪は銀色で、きれいな宝石がいくつもはめ込んでありました。
「どうもありがとう」と言って、ポポロは腕輪をはめました。
「ワンワン、ぼくには何もないんですか?」
と子犬のポチが聞きました。
すると、ノームは笑って言いました。
「あんたはもう、ものすごく強力なお守りを持っとる。それでもう十分だわい」
「お守り・・・? って、エルフにもらった、この首輪のこと?」
とポチは自分の首輪を見ました。
それは白い石の丘のエルフがくれたもので、緑の宝石がはめ込んであります。
「そう。それじゃ。闘いになったら、それがどんなにすごいものか、すぐにわかるぞ」
とノームは言いました。
さて、強力になった防具を身につけて、フルートたちは王様の部屋に行きました。
「おう、見違えるように立派になられた」
と王様もとても満足そうでした。
そこで、フルートは王様に言いました。
「王様、ぼくたちは風の犬を退治するために、天空の国へ行かなくちゃなりません。このお城には、天空の国への扉がある、といううわさを聞きました。お願いです、ぼくたちをそこに連れていってください」
すると、王様はびっくりした顔をして、あわてて、まわりの家来たちを部屋から出ていかせました。
「天空の国への扉は、確かにこの城にあります。だが、それは誰にも言ってはならない、王だけの秘密なのです。どうやってそれを知られたのか・・・。だが、まあよい。それよりももっと大きな問題があるのです。扉は、あるにはあるのですが、誰もそれを開けられないのです」
「開けられない?」
とフルートたちは驚きました。
王様はうなづきました。
「開けられません。扉は、わしの父の父のそのまた父の父の代から、この城にずっとあったのですが、わしたちは誰も、その扉を開けられなかったのです。他の誰も開けたことがない。開かずの扉なのです」
「それでもかまいません。ぼくたちをそこに連れていってください」
とフルートは言いました。
そこで、王様は先に立ってフルートたちを案内しました。
城の東の塔を、らせん階段をぐるぐる通って上っていって、一番てっぺんの部屋の中に入ると、そこに扉がありました。
とても不思議な扉でした。
部屋の真ん中に、扉だけがぽつんと立っているのです。
「なんだこりゃ? どこにもつながっていないじゃねぇか」
とゼンがびっくりして言いました。
ところが、ドアのノブをつかんで回しても、扉はびくともしません。フルートも開けてみようとしましたが、やっぱり扉は開きません。ふたりがかりで引っぱっても、どうしても開けることができませんでした。
「開けられないのです」
と王様はまた言いました。
「おまけに、その扉には鍵もない。ただ、ドアの表面に文字らしいものが書いてあります。たぶん、扉の開け方だと思うのですが、それを読めるものも、誰もおりません」
そこで、フルートたちはドアの表面を見てみました。
一方のドアの表に、金の板が打ち付けてあって、そこに文字のようなものが刻んでありました。
でも、やっぱりフルートにも読めません。
「ゼン、読める?」
「いいや、さっぱりわかんねぇ」
「ポチは?」
「キュ〜ン、ぼくはもともと犬ですから、字は・・・」
「ポポロは? 読めるかい?」
「うん、読めるよ」
ポポロが扉の文字を読めると答えたので、フルートたちは、えっとポポロを見ました。
「だって、これ、天空の国の文字だもん。あたし、読めるよ」
ポポロはもともと、天空の国の人間だからね。そこの文字も読めたっていうわけね。
「じゃ、読んでみてよ」
とフルートが言ったので、ポポロは金の板の文字を声に出して読み始めました。
「これは、天空の国に通じる扉です。
でも、この扉は、天空の国の人間にしか、開けることができません。
注意: この扉の向こうに行くと、途中でモンスターが出てきます。
・・・だって」
「うひゃ〜、モンスターが出るのかよ」
とゼンが言いました。
でも、なんだかちょっと嬉しそう。
「扉の向こうに行かれるのですか? 危険ではありませんか?」
と王様が心配しました。
「大丈夫。みんなで力を合わせれば、どんな危険だって切り抜けられます。それじゃポポロ、扉を開けて」
「うん」
ポポロは扉のノブに手をかけて回しました。
カチャ。
軽い音をたてて、ドアが開きました。
キィィ・・・と開いていくドアの向こう側をのぞいたとたん、ゼンがまた、すっとんきょうな声を上げました。
「なんだ、こりゃあ!?」
フルートたちもドアの中をのぞき込んでびっくり。
向こう側には、地面がありませんでした。
かわりに、真っ青な空が広がっていました。あちこちに白い雲が浮かんでいます。
「うわー、下に何も見えないー」
ポチが下をのぞき込んで、目を回しそうになりました。
本当に、一面真っ青で、地面が全然見えません。
その空の中に、ドアから上の方に向かって、まっすぐ白い階段が浮かんでいました。どこまでもどこまでも続いていて、上の方は白い雲の中に隠れていました。
「うへ〜、これを上るのかぁ」
ゼンはちょっとうんざりした顔をしましたが、フルートはきっぱりと言いました。
「行こうよ。天空の国に行くには、ここを行くしかないんだから」
「わかってらぁ。階段でもモンスターでも、なんでも来いってんだ。俺たちは絶対負けないからな」
「あたしもがんばる。天空の国にはあたしのおうちがあるんだもん」
とポポロが言うと、ポチも
「ワンワン。ぼくもがんばります」
と言いました。
そこで、フルートたちは、王様に行ってきますを言うと、ドアをくぐり、空の中の階段を上り始めました。
「どうかご無事で」
王様は祈りながら、みんなを見送ってくれました。
はい、というところで、今日のお話はこれでおしまい・・・
痛いっ! 蹴っちゃいやだよ! 痛いってば!
あのねぇ、これ以上、今夜はお話しできないんだよ。
だって、お母さん、まだこの続きを考えてないんだから。
考えろって? もちろん考えるよ。
でもね、時間がかかるの。
明日までには考えるから、だから、今夜はここでおしまいね。
わかった?
はい、それじゃ、おやすみなさい。
(2003年3月11日)
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