「勇者フルートの冒険・2 〜風の犬の戦い〜

10.風の怪物

町の通りは真っ暗でしたが、悲鳴を聞きつけて、あっちの窓、こっちの窓で灯りがついたので、通りが明るくなってきました。
向こうのほうに3人の泥棒が倒れていました。背中から血を流していて、ぜんぜん動きません。
「殺されてるぞ!」
とゼンが言いました。
「王様の使者が言っていた、例の怪物だ。毎晩、国のあちこちに現れては、人を背中から斬りつけて何人も殺してしまうって言う・・・」
とフルートは言うと、急いで鎧兜を身につけて、鏡の盾と炎の剣を持って、窓から外へ飛び出しました。
ゼンも、鋼の胸当てを身につけ、エルフの弓矢を持って一緒に外にでました。
そこに、ポポロとポチも出てきました。
「ポポロ、ポチ、危ないぞ。部屋に戻っていろよ」
とフルートが言ったとき、
「来た!」とポチが叫びました。

みんなは、はっとして通りの向こうを見ました。
ごおおーーっと、ものすごい風が吹いてきました。
それと一緒に、気味の悪い笑い声のようなものも聞こえてきます。
ヒヒヒヒヒヒィ・・・

どっと、強い風が通りを吹き抜けてきました。
まっすぐフルートたちをめざして吹いてきます。
とたんに、カキーン! 鋭い音がして、なにかがフルートの鎧の背中に当たりました。
フルートは思わずよろよろっとしましたが、あわてて足をふんばって、踏みとどまりました。

「フルート、背中!」
ポポロが叫びました。
フルートの鎧の背中が、まるでナイフにでも切られたように、深く傷ついていたのです。
幸い、傷ついたのは鎧だけで、フルートの体までは怪我はしていなかったけどね。
でも、今まで、どんな武器にも平気だった魔法の鎧に傷がついたので、フルートはびっくりしました。

「見ろ!」
ゼンが空を指さしました。
通り過ぎた風に、白い犬のような頭が見えてきたのです。
凶暴な目でフルートたちをにらみながら、空をぐるぐる回っています。その口からは、鋭い牙が見えました。
「こいつが東の国の人たちを襲っていたんだ! これが邪悪な風の正体なんだ!」
とフルートは言いました。

そう。犬の頭をした風は、夜、外を出歩いている人を見つけると、後ろから追いかけていって、背中にかみついて殺していたのです。
風の怪物の牙は、まるで鋭いナイフのようで、それにかまれると、刀でばっさり切られたような傷になるのでした。

「また来る!」
とポチが言いました。
また、風の怪物がこちらに向かって飛んでくるところでした。
フルートは炎の剣をかまえると、風の怪物に向かってまっすぐに立ちました。
そして、迫ってくる風に向かって、炎の剣を振り下ろしました。
ズバッ! 手応えがあって、風の犬の頭がまっぷたつになりました。
でも、風の怪物は死にません。
ギャーーッ、と悲鳴を上げると、そのままどこかに逃げ去ってしまいました。

「すげぇおっそろしい怪物だな。あんなヤツ、どうやってやっつければいいんだよ?」
とゼンが言いました。
フルートも心配そうに炎の剣を見ました。この剣では、風の怪物にとどめは刺せませんでした。
いったい、風なんて、どうやって倒せばよいと言うのでしょう。

そのとき、通りの向こうからうめき声が聞こえてきました。
3人の泥棒たちでした。まだ、生きていたのです。
でも、3人とも背中にひどい怪我をして、今にも死にそうになっていました。

「こんなヤツら、生かしておいたらろくなことがない。とどめを刺そうぜ」
とゼンが言いました。
でも、ポポロは
「この人たち、なんだかかわいそう・・・」
と言いました。
「えー。俺たちを殺して金を盗もうとしていたヤツらだぞ。悪人だぞ」
とゼン。
「でも、悪い人たちでも、こんなに痛がっているのはかわいそうよ。ねぇ、フルート。この人たちを助けてあげて・・・」

フルートも、ポポロと同じく、泥棒たちがなんだかかわいそうになっていました。このまま放っておいたら、間違いなく死んでしまうでしょう。
「よし、わかった。助けてあげよう」
そう言うと、フルートは首の金の石を外して、泥棒たちの背中に押し当てました。
金の石には、どんな怪我もすぐに治してしまう力があります。
たちまち傷がすーっと治っていって、泥棒たちはまた元気になりました。

「あれれ? もう全然痛くも何ともないぞ!?」
と驚いて立ち上がる泥棒たちに向かって、フルートとゼンは剣や弓矢をかまえました。
「ポポロが頼むから助けてやったけどね、またさっきみたいにぼくたちを殺そうとするなら、今度こそあんたたちを許さないからね。今すぐやっつけてやるから」
「おう。このエルフの弓矢をおみまいしてやるぜ」

すると、泥棒たちはいきなり地面に膝と手をつくと、がばっとフルートたちに頭を下げました。
「ありがとうございました! あんたがたはあっしたちの命の恩人です! もう、悪いことはいたしやせん。どうか許してください!」
泥棒たちは、フルートに命を助けられたのを本当に喜んでいました。そして、こう言いました。
「あんたがたは見た目は小さな子どもだけれど、実はとても名のある方たちに違いない。名前をお聞かせ下さい」
そこで、フルートは答えました。
「ぼくは金の石の勇者、フルート。こっちにいるのはぼくの友だちで、ドワーフのゼンと、エルフのポポロと、子犬のポチ。ぼくたちはあの風の怪物を退治するために、東の国の王様に呼ばれて、隣のロトの国から来たんです」
泥棒たちはびっくり仰天。そんなすごい人たちだとは思わなかったのね。そして、泥棒たちは、フルートたちのためならなんでも協力します、と約束してくれました。
3人の泥棒が仲間になったんだよ。


「あの怪物の正体はなんなの?」
とフルートは泥棒たちに聞きました。
でも、泥棒たちも知りませんでした。つい3カ月くらい前から、突然東の国にあらわれて、次々に国民を殺し始めた、正体不明の怪物なのです。

すると、ポポロが言いました。
「あたし、あの怪物、知ってる・・・」
え? とみんなポポロを見ました。
「あれは、天空の国にすむ風の犬。でも、ホントはとてもおとなしい生き物なのよ。あんな怖いことするはずはないの。・・・きっと、天空の国でなにか起こっているんだわ」
「天空の国?」
とみんなは不思議な顔をしました。聞いたこともない国の名前です。

「天空の国っていうのはね、空のずうっと上のほうにある国なの。そこにも人が住んでいて、風の犬もたくさんいるのよ」
とポポロが言いました。
「へぇぇ、そんな国があったんだ。ポポロ、よく知っていたね」
とフルートが言うと、ポポロは
「だって、あたし、天空の国からきたんだもん」
と答えました。
みんなはまたびっくり。
ポポロはもともと、その国で生まれ育ったというのです。

「よーし。それじゃ、その天空の国とやらに行ってみようぜ! きっと何かわかるぞ!」
とゼンが元気よく言いました。
「で、ポポロ、天空の国には、どうやったら行けるんだ?」
すると、ポポロが首を横に振りました。
「わかんない・・・」
「わかんない?」
みんなはまたまた、びっくりしました。
「うん・・・だって、あたし、天空の国から地上におっこちてきたんだもん。帰り方がわからなくて泣いてたら、白い石の丘のエルフのおじさんが助けてくれたの。それから、ずっと、おじさんと一緒に暮らしていたのよ」

みんなは、う〜ん、と考え込んでしまいました。
空の上の天空の国。どうやったら行けるのでしょう。みんな空は飛べないし・・・

すると、3人の泥棒たちが言いました。
「よっしゃ。あっしたちが天空の国について調べてきてまいりやしょう。泥棒の仲間たちに聞いてみたら、何かわかるかもしれない。それまで、フルートさんたちはここの宿屋で待っててください。それじゃ」
そう言って、3人の泥棒は夜の町の中に出かけていきました。

フルートたちは宿屋に戻りました。
部屋に戻ってみると、そこでは宿屋の主人が心配そうな顔で待っていました。
「よかったよかった。てっきりあの怪物にやられてしまったのかと思いましたよ」
「大丈夫です。それより、窓を壊してしまってごめんなさい。これ、修理代です」
フルートは宿屋の主人に窓を修理するお金を渡しました。
宿屋の主人は喜んで、フルートたちの部屋を、宿屋で最高によい部屋に変えてくれました。
フルートたちは、そのあと、ふかふかのベッドで朝までぐっすりと眠ることができました。


はい、長かったけどよく聞けたね。
明日は東の国の王様に会いに行こうね。
今夜はここまで。
おやすみなさい。

(2003年3月9日)



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