9.泥棒
真夜中。
フルートとゼンとポポロは宿屋のベッドでぐっすり眠っていました。
子犬のポチは、フルートのベッドの下に横になっています。
すると、ポチが突然耳をぴくっと動かして目を覚ましました。
部屋のドアの外から、誰かが相談している声が聞こえてきたからです。
「おい、本当にこの部屋のガキどもが大金をもっているのか?」
と男の声が言っています。
「まちがいねぇ。宿屋の主人に、金がぎっしり詰まった財布を見せているのを、俺はこの目でしっかりと見たんだ」
と別な男の声。
「ふーん。で、どうやっていただくんだ?」
とこれまた別の男の声が言いました。いただく、って言うのは、もらってしまう、ってこと。つまり、男たちはフルートの財布を狙ってやってきた泥棒だったのね。
ポチはすぐさまベッドの上に飛び乗ると、小さな声でフルートを起こしました。
「フルート、フルート、起きて下さい。ドアの外に泥棒が来ていますよ」
フルートはすぐにパッと目を覚ますと、ポチにゼンとポポロも起こすように言いました。
ゼンとポポロもすぐに起きました。
「なに、泥棒?」
「えーっ、怖いー・・・」
「しーっ、静かに」
フルートは口に指を当ててみせると、みんなをドアの近くに呼びました。そして、一緒に耳をすましました。
泥棒たちは、こんな話をしていました。
「で、ガキどもは何人いるんだ?」
「3人だ。一人は鎧を着て剣を持っていた。もう一人は鉄の胸当てをつけて、大きな弓矢を持っている。もう一人は何も持っていない、ただの女の子だ。それから、ちっぽけな犬コロが一匹」
「剣や弓矢? 何者だ、そのガキども」
「わからん。だが、みんなホントに小さな子どもだちだ」
「なぁに、おれたちが一人ずつこのこん棒でガキどもの頭をぶちのめせば、ガキどもはすぐにあの世行きだ。簡単な話だぜ」
どうやら、泥棒たちはフルートたちを殺して財布を奪おうとしているようです。
フルートたちは部屋の奥に行くと、相談しました。
「あいつらを追っ払おう。まず、ベッドの中に、枕や毛布を丸めて入れて、布団をかけるんだ。ほら、ぼくたちが寝ているみたいに見えるだろう? そして、ポポロのベッドの下に隠れよう。ポポロ、君、まだ魔法が残っているだろう?」
「うん。今日はまだ魔法を使ってないよ」
「泥棒たちをびっくりさせられるような魔法、使えないかな。ただし、宿屋が凍っちゃったり燃えちゃったりするような魔法はダメだよ」
ポポロはちょっと考えて
「それじゃ、幻を見せるね。とびきり怖くて、びっくりするようなやつ」
と言いました。フルートはうなづきました。
「うん、それがいい。もし、泥棒がそれに驚かなかったら、僕らが剣や弓で追っ払うから」
そこで、フルートたちはベッドの中に毛布や枕を入れて寝ているように見せると、武器を持って、ポポロのベッドの下に隠れました。
じきに部屋のドアがギギィ・・・と開いて、泥棒たちが入り込んできました。
黒い男の影が3つ、部屋を横切って、3つのベッドのわきにたちます。
そして、男たちはこん棒を振り上げると、ものも言わずに、力一杯ベッドに振り下ろしました。
ドスン! ドスン! ドスン!
「やったぞ!」
男たちはそう言って、布団をばっとめくりました。もちろん、ベッドにフルートたちはいません。
「あっ、いないぞ! くそーっ、どこだ!? ガキどもを探せ!」
男たちが部屋の中を探し回り始めました。
そのとき、フルートはポポロに言いました。
「ポポロ、今だ。幻を頼むよ」
「ローデローデシロボマローデ!」
とポポロが呪文を唱えました。
とたんに、ぼうっと部屋の中に光が集まり始め・・・・・・ずぉぉぉぉ・・・・・・ 部屋の真ん中に、一つ目の巨人のサイクロップスが現れました。
毛皮の服を着て、手にはトゲだらけのこん棒を持っています。
ポポロは、今まで会った中で一番怖いモンスターだったサイクロップスを、幻の魔法で出したのでした。
これには泥棒たちもびっくり仰天。
「ぎぇえーーーーーーっ! おた、お助けーーーーーっっ!!」
と叫びながら、窓のガラスをぶち破って外の通りに逃げ出していきました。
「やったぁ! すごいぞ、ポポロ!」
フルートたちはベッドの下から出てきて言いました。剣も弓矢も使わないで泥棒を追っ払うことができました。
ポポロは、誉められて、ちょっと照れくさそうに笑いました。
すると、そのとき、外の通りからものすごい悲鳴が聞こえてきました。
さっきの泥棒たちの声です。
それも、ただごとじゃない、死にものぐるいの悲鳴でした。
「何かあったんだ!」
フルートたちは割れた窓から外をのぞきました。
さあ、フルートたちは窓の外に何を見たでしょうか?
この続きはまた明日。
おやすみなさい。
(2003年3月8日)
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