8.宿屋
国境の森を抜けたフルートとゼンとポポロとポチは、やっと東の国に入ることができました。
目の前に広がるのは、広い広い草原です。
東の国の王様がいるお城は、どこにあるのでしょう。
フルートたちは、とにかく、どんどん東の方へ歩いていきました。
一日中歩いて、夕方近くになった頃、行く手に町が見えてきました。
「もうすぐまた夜になることだし、今夜はあの町に泊まることにしよう」
フルートたちは町に入ると、宿屋を探しました。
宿屋、宿屋・・・あった。宿屋の看板を上げている建物がありました。
宿屋の中に入ると、入り口の奥にカウンターがあって、宿屋の主人が立っていました。
主人はフルートたちを見るなり言いました。
「なんだ、あんたたちは。どこから来たんだね」
フルートたちは鎧や兜を身につけて、武器を持っているでしょ。でも、普通の子どもはそんな恰好で出歩いたりしないよね。それで、宿屋の主人は「なんだ、この子たちは。どこから来たんだろう」と思ったのね。
「西隣のロトの国から、国境の森を抜けて来ました」
とフルートは答えました。・・・ロトの国、というのがフルートたちの国の名前。
すると、主人は目を丸くしました。
「国境の森を抜けてきたぁ!? 馬鹿言っちゃいかん。あの森には恐ろしい怪物がごまんといて、誰も生きて通ってくることなんかできないんだぞ。大人をからかうもんじゃない」
全然信じてくれません。
「ホントに森を抜けてきたのにね」
とポポロがゼンにささやきました。
「ああ。だけど、そいつを説明するのもめんどくさそうだしなぁ。ほっとこうぜ」
とゼンが小さな声で答えました。
「あの〜、ぼくたち、今夜ここに泊まりたいんですけど」
とフルートは言いました。
宿屋の主人はじろじろとまたフルートたちを見て言いました。
「泊めないわけじゃないが、うちは一晩泊まるのに一人50ゴルドかかるぞ。あんたたちは3人だから、合わせて150ゴルド。それに、ペットの犬の分が25ゴルドで、しめて175ゴルド。それだけの金を持っているのかね」
「お金ならあります」
とフルートは答えました。
宿屋の主人は、ますます怪しそうな顔をして、「どれ、見せてみなさい」と言いました。
フルートたちのような子どもが、そんな大金を持っているなんて、とても信じられなかったのです。
そこで、フルートは荷物の中から、サイクロップスの財布を出して、カウンターの上に置きました。
ずっしり重い袋です。
「なんだ、石でも入れているのか?」
と言いながら袋の中をのぞいた宿屋の主人は、中にたくさんのお金や宝石がぎっしり詰まっているのを見て、びっくり仰天。目をまん丸にしてフルートを見ました。
それから、あわててあたりを見回して、フルートに財布をしまうように言いました。
「早く早く。急いでそれをしまいなさい。あんたたちのような子どもがそんな大金を持っていると分かったら、悪い奴らが盗もうと考えるかもしれない。支払いはうちを出ていくときでいいから、それまで大事にしまっておきなさい」
宿屋の主人は良い人でした。
そして、フルートたちを宿屋でも一番良い部屋のひとつに泊めてくれました。
部屋にはベッドが3つあって、その他にテーブルと机と椅子がありました。
机の中には便箋と封筒。これで手紙を書くことができます。
フルートは家で待っているお父さんとお母さんに手紙を書くことにしました。
「お父さん、お母さん、おげんきですか。
ぼくたちはきょうやっと、国ざかいの森をぬけて、東の国にきました。
今、宿屋にとまっています。
あしたは王様にあうためにお城にむかうつもりです。
それでは、おげんきで。
フルートより」
ゼンが書いた手紙は、こういうものでした。
「とうちゃんへ。
おれはげんきだ。
敵のヤツらはみんなぶっとばしてやるぜ。
じゃ、あばよ。
ゼン」
それから、フルートとゼンはポポロに「君は手紙を書かないの?」と聞きました。
ポポロは首を横に振りました。
「ううん・・・書けないの。あたしの国は、とってもとっても遠いところにあるから、手紙が届かないのよ・・・」
「ポポロの国って、どこ?」
フルートたちは聞きましたが、ポポロはまた首を振るだけで、何も言いませんでした。
フルートたちは手紙をお金と一緒に宿屋のご主人に渡して、郵便屋さんに配達してもらうように頼みました。
その夜、フルートたちは宿屋でおいしい夕食をお腹いっぱい食べ、それぞれにベッドに入って眠りました。
ポチはフルートのベッドの下で眠りました。
久しぶりのベッドは寝心地が良くて、フルートたちはすぐに眠ってしまいました。
え、朝になったら何をするのか、って?
ううん、まだ朝にならないんだよ〜。
夜中にまた、事件が起こるの。
いろいろあるよねぇ。
さて、今日はここまでにしようね。
それじゃ、おやすみなさい。
(2003年3月7日)
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