「勇者フルートの冒険・2 〜風の犬の戦い〜

5.谷

やがて、フルートたちは森の中でがけに出くわしました。
がけの先は深い谷になっていて、その向こう側にまた森が続いています。
谷を下りるのはがけが急で難しそうだし、飛び越えるのには幅がありすぎます。
回り道をして、向こう側に渡る橋を探すしかなさそうです。

ところが、がけの縁にいって谷をのぞき込んだゼンが、すっとんきょうな声を上げました。
「ひえええーーーっ!! なんじゃこりゃ!?」
切り立ったがけの下の、深い谷。
その谷の中に、透明でぐにょぐにょしたゼリーのようなものが、ぎっしりと重なり合っていました。
そう。スライムです。
谷いっぱいの、大量のスライム。
ここは、スライムの谷だったのです。

そのスライムが、ゼンの悲鳴を聞きつけて、ぐにょーんと伸び始めました。
子どもたちに向かって動き始めます。
谷からせり上がってきたスライムが、まるで津波のように高く盛り上がってきます。
こんなにたくさんのスライム、いくら炎の剣でもやっつけきれません。どーっと押し寄せてこられたら、フルートたちはみんな飲み込まれて、溶かされて、骨になってしまいます。

「逃げろーっ!」
フルートとゼンとポポロとポチは、全速力で逃げ出しました。
その後を、スライムがずるりずるりと追いかけてきます。
フルートたちは必死で走ります。

と、ポポロがつまづいて転んでしまいました。
「ポポロ!!」
フルートとゼンはあわてて駆け戻りました。ポポロを助け起こして、手を引いて逃げようとします。
でも、そのすぐ後ろまでスライムが迫ってきたのです。

スライムが、ぐにょーんと大きく伸び上がって、フルートたちを上から押しつぶそうとします。
フルートとゼンは剣や弓を構えました。
ポポロが悲鳴を上げました。
「きゃーっ! いやーっ! 来ないで、来ないでーっ!! ・・・・・・レオコー!!!」


レオコー! とポポロが謎のことばを口にしたとたん、不思議なことが起こりました。
カキーン。
今にも襲いかかろうとしていたスライムが、一瞬のうちに氷の固まりに変わってしまったのです。
ピキピキピキ・・・スライムはどんどん、どんどん凍っていきます。
とうとう最後には、谷中のスライムがすっかり凍りついて、一面氷だらけになってしまいました。
フルートもゼンもポチも、これにはびっくり仰天。

フルートは、ポポロを見つめて、聞きました。
「ポポロ、これ、君がやったのかい?」
「うん」とポポロが小さくうなづきました。
フルートはまた、聞きました。
「ポポロ・・・もしかして、君、魔法使いなの?」
「うん」と、またポポロがうなづきました。

そう、ポポロは魔法使いの女の子だったのです。
ポポロが唱えたのは、敵を凍らせる呪文でした。
「ドラクエ」で言うヒャドと同じものだね。
それで、スライムがたちまち全部凍ってしまったのです。


「わ〜お、すげぇすげぇ! 登ってもびくともしないぜ〜!」
ゼンは凍りついたスライムの上に登って、大喜びでした。
それからゼンは、大量のスライムが凍り付いている谷を見て言いました。
「なぁ、凍ったスライムの上を歩いていけば、この谷を渡れるんじゃないのか?」

すると、ポポロが小さな声で言いました。
「それ、無理だと思う。あたしの魔法、3分間しか効かないから・・・」
「なに?」
ぎょっとしたゼンの足の下で、スライムがほんの少し、ぐにゃりと動いたようでした。
ゼンはあわててスライムの上から飛び降りました。
やっぱりスライムは氷が溶けて、だんだん柔らかくなってきています。
「は、早く早く! もう一度魔法をかけて凍らせてくれよ!」
とフルートとゼンが言うと、ポポロはとっても小さな声で言いました。
「ダメなの・・・あたしの魔法は、一日に一回しか使えないの・・・」
「え?」
フルートもゼンもポチも、思わず冷や汗たらーり。

そーっと谷を振り向くと、スライムたちがぶるぶるとふるえて動き始めていました。
ゆっくりとゆっくりと、谷の中からスライムがまた盛り上がってきます。
氷はどんどん溶けています。
「に、に、に、逃げろーーーっ!!!」
フルートたちは全速力で逃げ出しました。
走って走って走って走って・・・どうにか、スライムから逃げ切ることができました。

その後、フルートたちはぐるーっと遠回りをすると、スライムのいないところに橋を見つけて、谷の向こう岸に渡りました。


フルートたち、助かって良かったねー。
もうダメかと思って、ドキドキしちゃったって? ホントだね。
良かった良かった。

さて、それじゃ今日のお話はここまでね。
続きはまた明日。
おやすみなさい。

(2003年3月5日)



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