「勇者フルートの冒険」

9.白い石の丘

西の森の物知りフクロウから、南の沼に住む怪物が闇の霧を作り出していると教えられた、フルートとゼン。
野を越え森を越えて、南の沼をめざします。


ゼンはとても器用な男の子でした。お料理もとても上手です。
食事の時間になると、パチンコで打ち落とした鳥や・・・フルートは愛用のパチンコも持ってきていたんだよ・・・野に生えている食べられる草なんかも使って、おいしいシチューを作ってくれました。
そうやって、二人が食事をしているところに、一匹の子犬がふらふらと近づいてきました。
あたりを見回しても、親犬はどこにも見あたりません。飼い主らしい人もいません。
迷子になって、とてもお腹をすかせているみたいです。
フルートたちは子犬を火のそばにあたらせて、シチューやパンを食べさせてやりました。
お腹いっぱい食べて、温まって、子犬はとても元気になりました。

食事のあと、フルートたちがまた歩き始めると、あとから子犬がついてきます。
「おまえも一緒に行きたいのかい?」とフルートが聞くと、子犬が「ワン!」と答えました。
「親犬も見あたらないし、このまま放って置くわけにもいかないから、一緒につれていこう」とフルートとゼンは話し合いました。そして、子犬にはポチという名前をつけました。


フルートとゼンとポチは、またどんどん、どんどん旅を続けました。
そうして何日も歩き続けると、とうとう白い石の丘が見えてきました。
小高い丘の上に、白い大きな石がそびえ立っています。
その向こうのほうには、特に闇の濃い、暗い沼が見えています。


丘の上に上がってみると、そこには誰もいませんでした。
フルートとゼンは大声で呼んでみました。
「おーい! おーい! 誰かいませんかー! ぼくたち、西の森の物知りフクロウから、ここに来るように言われましたー! お願いです。力になってくださーい!」

すると、二人のすぐ後ろから突然声がしました。
「私になんの用だ」
フルートとゼンは飛び上がってびっくりしました。
振り返ると、そこに背の高い男の人が立っていました。長い銀色の髪、緑の目、耳は大きくて先が少しとがっています。妖精族のエルフでした。エルフはトーガという、ドレスのように長い服を着て、背中には弓矢を背負っていました。


フルートはこれまでのことをエルフにみんな話して聞かせました。
エルフは、話を聞き終わると、遠くに見える沼を振り返りました。
「あそこに住んでいるのは、それはそれは恐ろしい怪物だ。行けば殺されるかもしれないぞ。おまえたちは子どもだが、それでも倒しに行くというのか?」
「行きます!」「行くとも!」フルートとゼンは叫びました。「ワン!」と子犬のポチも鳴きました。

すると、エルフがポチに向かって言いました。
「おまえはそろそろ口を利いても良いのではないか? 物言う子犬よ」
すると、本当にポチが人間のことばを話しました。
「はい。でも、口を利いてしまうと、フルートさんたちが怖がって、つれていってくれなくなるんじゃないかと思ったんです」
「この子どもたちは、そんなことはするまい」とエルフは言いました。
フルートもゼンも、ポチがしゃべったのに少しびっくりしましたが、ポチと話ができるようになったので、大喜びしました。


「さて、沼に住む怪物だが」とエルフが言いました。
「正体は、メデューサだ。頭と体は人間の女、だが、体の下半分は大きな蛇の姿をしている。髪の毛の一本一本も毒蛇、顔はそれは醜く恐ろしくて、その目を見てしまった者はたちどころに石に変わってしまう。このメデューサと戦うためには知恵と勇気が必要だ。これから、その戦い方を教えよう」
エルフは丘の上に腰を下ろすと、フルートたちに戦い方を話して聞かせました。

「メデューサの目を決して見てはいけない。見れば即座に石になる。フルートよ、おまえの鏡の盾にメデューサを映し、それを見ながら戦うのだ。メデューサは全身を堅いウロコで覆われていて何を使っても傷つけることができないが、たった一カ所、頭の額の真ん中だけが急所になっている。そこをこの魔法の銀の矢で射抜くのだ」
そういって、エルフはフルートとゼンをじっと見比べ、ゼンのほうに、自分が背負っていた弓矢を差し出しました。
「どうやらおまえのほうが弓矢の腕前は上のようだ。おまえがこの矢を撃つがいい」
魔法の銀の矢は全部で3本ありました。ゼンはそれを受け取りました。

次に、エルフはフルートに言いました。
「フルートよ、おまえは泉の長老の守りを身につけているだろう。そう、その金の石だ。それをかざして進むがいい。困っているときには道を照らしてくれるだろうし、蛇が吐き出す毒の息からもおまえたちを守ってくれることだろう。・・・おまえはもうひとつ、魔法のものを持っているな。出してみなさい」
そこで、フルートはお化け切り株から手に入れた、青い宝石のついた指輪を出しました。
それを見たとたん、エルフは、ほうと声を上げました。
「これは姿消しの魔法の指輪だ。これを指にはめると、その者の姿は消えて見えなくなってしまう。うまく使えば戦いやすくなるぞ。大事にするがいい」

最後に、エルフは子犬のポチを見て言いました。
「メデューサはうるさく鳴きわめく犬の声が大の苦手だ。犬が大声で吠えると、耳を押さえて動けなくなってしまう。がんばるのだぞ」
「はい、わかりました!」と子犬のポチも答えました。


エルフはその他にも、武器や防具の手入れや修理を手伝ってくれました。
フルートたちはその夜は白い石の丘で休んで、次の日、エルフに見送られて南の沼へ出発していきました。
沼が近づくにつれて、闇はますます濃くなって、あたりは本当に暗くなってきました。
とてもおどろおどろしい雰囲気です。
そして、とうとう二人と一匹は、沼のほとりに着いたのです。



さあ、明日はいよいよ最終決戦だよ。
今夜はこれで、おやすみなさい。

(2003年2月4日)



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