6.北の山の洞窟
さて、とうとうフルートは北の山にたどり着きました。
とてもとても寒い場所でした。一面雪と氷の野原で、雪まじりの強い風が吹き荒れています。
でも、フルートは魔法の鎧を着ているから平気です。
雪野原を越えて、山の麓までやってきました。
神様のお告げでは、北の山の麓にある洞窟に行くように、という話だったのだけれど、洞窟はいったいどこにあるんだろう・・・?
探しながら歩いていると、あったあった、ありました。山の麓にぽっかりと口を開けている洞窟がひとつ。
ところが、洞窟の入り口には大きな鉄の扉があって、雪と氷におおわれて、すっかり凍り付いていました。
フルートは扉を押してみましたが、全然びくともしません。さあ、どうしたらいいかな?
そう。フルートは炎の剣を扉に向かって振り下ろしたのです。
ゴオッ! 剣の先から炎が吹き出して、扉の雪と氷をあっという間に溶かしてしまいました。
フルートは鉄の扉を押し開けると、洞窟の中に入っていきました。
洞窟の中は真っ暗でした。ほんのちょっと先も見えません。フルートはたいまつに火をつけると、洞窟の中を進み始めました。
何も音がしません。誰も出てきません。
ここで本当に仲間が見つかるのでしょうか?
とそのとき、洞窟の横穴から二本の腕が伸びてきて、フルートの腕を後ろからいきなりつかみました。
「おい、おまえは誰だ? なんでこんなところに来た!」
見ると、それはひとりの男の子でした。
背丈はフルートの肩くらい。小柄でがっしりした体つきの、ドワーフという種族の小人の子どもです。
フルートはその子に、自分が金の石の勇者であること、国をおおっている闇を追い払うために、仲間を捜しにやって来たことを話して聞かせました。
「ふ〜ん」とその子は言いました。
「おまえ、すごいな。たった一人でこんなところまで来るなんて。よし、分かった。俺が力になってやる。俺の名前はゼン。俺の父ちゃんは、このドワーフの洞窟じゃ顔なんだ。父ちゃんに俺から話してやるよ。ついてきな」
それから、ゼンはにやっと笑って言いました。
「あのな、大人のドワーフってのは金とか宝石とかが大好きなんだぜ。おまえ、そういう金目のものを持ってるか? 持っていないと、父ちゃんたちに助けてもらえないかもしれないぞ」
フルートは王様からもらったお金を全然使わずに持っていましたし、途中で倒した怪物から拾った宝石も少し持っています。その話をすると、ゼンは「それなら大丈夫かもしれないな」と言いました。
さて、フルートはゼンにつれられて、洞窟の奥深くまで行きました。
そこにはたくさんの穴があり、通路や広間でつながって、大きな町のようになっていました。
ゼンは自分の家に行くと、お父さんにフルートを紹介して、力になってやって欲しいと言いました。
ゼンのお父さんはじろじろとフルートを見回してから、「手伝ってやってもいいが、おまえは金目のものを持っているのか?」と聞きました。
そこでフルートは王様からもらった金貨の袋と、切り株お化けから手に入れた青い宝石の指輪と、人面ヘビから手に入れた大きなルビーの玉を、背中の袋から出しました。
「500ゴルド。少ないな」とゼンのお父さんは金貨の袋を見ながら言いました。
次に、青い宝石の指輪を見ると「これは魔法の指輪だ。何かわからんが、はめると何かが起こるだろう。だが、はめたとたんに悪いことが起こるのか、それとも良いことが起こるのか、さっぱりわからん。こんな危ないものはもらえないな」と言いました。
ところが、最後に大きなルビーの玉をみたとたん、ゼンのお父さんが「これは!」と叫びました。
「これは、我々ドワーフの洞窟の神殿に伝わる、神聖なルビーじゃないか! 3カ月前に人面ヘビがやってきて、神殿から盗んでいったものだ。それ以来、洞窟はずっと暗闇に包まれている。これで洞窟に光が戻るぞ。わしと一緒に来なさい」
そういって、ゼンのお父さんはルビーの玉を持って歩き出しました。フルートとゼンは、急いでその後をついていきました。
洞窟の一番奥深いところに、神殿があって、ドワーフの神様がまつってありました。
神様の像の前には祭壇がありましたが、その上には丸い穴が空いているだけで、何ものっていませんでした。
「見ていなさい」と言いながら、ゼンのお父さんはルビーをその穴の上に置きました。ルビーは穴にぴったりとはまりました。
すると、洞窟の壁という壁、天井という天井の照明に、次々と灯りがともり始めました。赤い光、青い光、黄色の光・・・いろいろな色の光が、洞窟の中を美しく照らし出しました。
神殿のルビーは、照明のスイッチの役目をするものだったのです。
「君がルビーを取り返してきてくれたおかげで、洞窟に光が戻ってきた。ありがとう」とゼンのお父さんが言いました。
「君は今日から、我々ドワーフの友だちだ。さあ来なさい。仲間たちに紹介しよう。今夜は宴会だぞ」
ゼンのお父さんはにこにこしながら、フルートにそう言いました。
それじゃ、明日は宴会のところからになるよ。
きっと、おいしいご馳走が出るだろうね。
はい、それじゃ今夜はここまで。おやすみなさい。
(2003年2月1日)
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