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第28巻「闇の竜の戦い」

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第72章 最終決戦・8

202.最終決戦・8-1

 「ついに始まったな」

 フルートが突進を始めたのを見て、オリバンが言いました。

 デセラール山の手前の空では、ポチに乗ったフルートが黒い足場に立つセイロスへ飛び始めていました。さらに手前の空には花鳥が浮いていて、ゼンとメールとポポロが戦いを見守っています。ポポロへ闇の槍を降らせた雲は完全に崩れて消えてしまっていました。

「フルートの雰囲気が変わった」

 とセシルが言いました。これだけ戦ってきても、人も怪物もできるだけ傷つけたくない、と考えるようなフルートですが、突進する姿から急に気迫を感じるようになったのです。なにか迷いのようなものを吹っ切ったようにも見えます。

「セイロスを倒すしかない、と決心したのでございましょう。ここまでは、なんとかセイロスを救う道がないか、と考えておいでだったのです」

 とユギルが言ったので、ふん、とオリバンは鼻を鳴らしました。セシルも思わず首を振ってしまいます。そんなことは不可能だとはわかりきっているのですが、それを本気で考えてしまうのがフルートです。

 彼らとフルートたちの間は、分厚いガラスのような障壁にさえぎられていました。どんなに手助けに駆けつけたいと考えても、彼らには見守ることしかできません。

 

 フルートがセイロスに迫りました。光炎の剣を振り上げます。

 セイロスは大きく一歩飛び下がりました。足の下に現れた足場を踏んで、こちらも剣を構えます。セイロスが握るのは黒い闇の大剣です。

 フルートが剣を振り下ろすと、セイロスが大剣を振り上げました。二つの刃が空中で激しくぶつかり合います。

 バン!

 いきなり妙な音を立てたのはセイロスの大剣でした。剣の刃が砕けてしまったのです。まるで破裂するような勢いでした。

「──!?」

 これにはセイロスだけでなくフルートとポチまでが驚いてしまいました。その隙にセイロスが身をかわして飛び退きます。

「あいつの剣が消えたよ!? どうしてさ!?」

 戦いを見守っていたメールも驚いていました。今まで金の石が光って闇の大剣を消したことはありましたが、斬り合っている間に消えるようなことはなかったのです。

「あ、でもまた──!」

 とポポロが言いました。セイロスの手に残った柄(つか)からまた黒い刃が伸びてきたのです。復活した大剣がフルートの攻撃を受け止めます。

 バン!

 再び闇の刃が破裂して、大剣は柄だけになりました。セイロスはあわててフルートの攻撃をかわします。

「フルートの剣がセイロスの剣を砕いてるんだ。間違いねえ」

 とゼンが言ったので、メールは聞き返しました。

「なんで急に? 今まであいつはフルートの攻撃を受け止めてたじゃないのさ」

「わからねぇ。ただ、フルートのは光の剣と炎の剣が合体したものだからな。光の力が強くなって闇の剣に勝つようになったのかもしれねえ」

「だとしたらすごいけどさ。やっぱりどうして急に?」

 質問を重ねるメールにゼンは答えられませんでした。フルートはどう見ても今までと同じように戦っています。違うのは戦う気迫が少し増したくらいです。何故急に光の力が強まったのかわかりません。

 一方、光炎の剣が闇の大剣に効くと知って、フルートの攻撃は激しくなっていました。復活しかけた闇の刃にまた切りつけて砕くと、さらに突っ込んで剣を突き出します。

 セイロスは横に飛んで攻撃をよけました。そこへまたフルートが切り込んできたので、足場を転がって下から柄を突き出します。

 ポチは下から伸びてきた刃に突き刺されそうになって身をよじりました。フルートがポチの背中にしがみつきます。

 

「ああもう! 気をつけなさいよ、ポチ! 油断を誘ってるのがわからないの!?」

 ルルは、はらはらしながら怒っていました。やはりガラスの障壁に隔てられたこちら側の空。彼女はレオンやペルラたちと一緒に戦いを見守っています。

「あれは油断を誘うセイロスの作戦じゃない。本当にフルートの剣にやられているんだ」

 とレオンが言ったので、ペルラやシィは驚きました。

「どうして急に? あっちには力を貸すような魔法はないはずでしょう?」

「ポポロさんも今日の魔法は使い切ってますものね」

「フルートの剣が強化されたんじゃない。セイロスの剣が変わったんだ。闇の力が落ちている」

 とレオンは答えましたが、それが何故なのかはやっぱりわからなかったので、見極めるように戦いを見つめ続けます。

「もう、もう、もう! どうしてこんな──もう!」

 ルルは障壁を越えられない悔しさに半泣きになっています。

 

 空中で体勢を立て直したポチに、フルートは言いました。

「剣が効いてる。徹底的にいくぞ。奴がかわしたら追いかけろ」

「ワン、わかりました。でもどうして急に効くようになったんだろう?」

「わからない。セイロスとデビルドラゴンが仲違いしてるせいかもしれないな」

 セイロスが復活した剣を握って立ち上がってきました。フルートをにらみつけていますが、その視線が一瞬もっと遠くをにらみつけました。視線の先にはデビルドラゴンがいます──。

 ポチとフルートはまた突進しました。真っ正面からセイロスに接近すると魔弾が飛んできたので、かわしてさらに迫ります。

 と、魔弾が空中で向きを変えました。ポチの後を追いかけます。

 そこへ銀色の矢が何本も飛んできて、魔弾を打ち砕きました。ゼンの援護射撃です。

 フルートとポチはさらに突進しました。フルートが剣を振りかざすと、セイロスも大剣を振り上げます。

 バン!

 闇の刃がまた破裂しました。武器がなくなってセイロスが身をかわします。

 ポチは急旋回してその後を追いました。フルートがまた剣を振り下ろします。

 光炎の剣はセイロスの背中に命中して、ばしゅっと音を立てました。剣が黒水晶の鎧を切り裂いたのです。一瞬炎が上がりますが、火はすぐに消えていきました。鎧の背に白い長い傷跡が残ります。

「ワン、鎧にも効いてる!」

 とポチは声を上げました。今まで光の矢でしか傷つけられなかった防具が、剣にもほころび始めたのです。

「行ける!」

 とフルートも言いました。剣を返してまた切りつけると、黒い鎧が一瞬燃えた後に新たな傷が残ります。傷は時間がたっても消えていきません。

「攻撃を繰り返すぞ! 魔法に気をつけろ!」

 とフルートは言って、ポチと一緒にセイロスを追いました。

 セイロスは足場を踏んで飛び退き続け、魔弾で攻撃してきましたが、ポチは見切って飛び続けました。向きを変えて追いかけてくる魔弾は、ゼンがすべて破壊してくれます。

 フルートが追いついて、背後からセイロスに切りつけました。先にできた傷の上にまた切りつけたので、傷跡がさらに深くなります。

「この──!」

 セイロスが振り向きざま魔弾を撃ってきました。距離が近すぎてポチにはかわせませんが、とたんに金の石が光りました。魔弾が砕けて消えていきます。

 

 フルートがまた追いすがって切りつけようとすると、セイロスも向き直りました。魔弾を撃ち出し、金の石が防いでいる間にフルートに迫って飛びかかってきます。

 同時に大剣の柄から刃が伸びてフルートを突き刺そうとしました。距離が近すぎてフルートは剣が間に合いません。

 ガシン!

 フルートはとっさに左腕を挙げて攻撃を停めました。腕に取り付けられた細い盾で受け止めたのです。そのまま押し合いになったので、フルートは右手で剣を回して握り直しました。逆手に構えた剣を突き出して、セイロスの横腹を突き刺します。

 おぅ! とセイロスは声を上げて飛び退きました。炎を吹いた横腹を押さえて火を消しますが、その痕にぽっかり穴ができていました。むき出しになった体の一部がのぞいていて、しかも傷を負っています。

「効いた!」

 とポチはまた言いました。光炎の剣はセイロス自身にもダメージを与えられるようになったのです。

 セイロスがまたデビルドラゴンをにらみつけます──。

「もう一度!」

 とフルートは言いました。かわそうとするセイロスの横腹をまた剣で突き刺します。

 セイロスはまた叫び声を上げました。飛び退き横腹へ手を当てます。

 炎が消えたとき、防具には先より大きな穴が空いていました。燃え上がった拍子に防具の一部がはがれて落ちたのです。左の横腹から腹の正面にかけての鎧がなくなって、下に着衣がのぞいています。

「あそこだ、ポチ! 行け!」

 フルートに言われて、ポチはまたセイロスへ突進しました──。

2023年5月30日
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