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第28巻「闇の竜の戦い」

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199.最終決戦・6-3

 青い花鳥はついにフルートとセイロスのすぐ近くまでやってきました。

 ゼンが狙いを定めて矢を放つと、黒い板のような闇の足場は砕けて消えましたが、それより早くセイロスは別の足場に飛び移っていました。それも砕くと、また別の足場へ。そのままフルートに切りつけたので、フルートが受け止め押し返します。

 ゼンは舌打ちしました。

「こんだけ近づいても間に合わねえのか。あいつが飛び移る先を狙わねえと」

「でもさ、あの黒い足場って、あいつが飛んでった先にできてくよ。あいつの足の下に闇の霧が吸い寄せられてるんだ」

「ああ。あいつが行きそうなところを狙わなくちゃならねえ」

「あいつが飛び移りそうな場所に矢を射るなんて、予知能力が必要だよ。ユギルさんがここにいてくれたらなぁ」

 とメールは言いました。ペガサスに乗った占者の姿は見えていますが、その間には分厚いガラスのような障壁が立ちはだかっていて、やりとりすることができません。

「しょうがねえ。どこへ飛ぶかわからねえなら、飛んでいく先をわかるようにするだけだ」

 とゼンは言うと、いきなりまた連射を始めました。セイロスとフルートの間へ大量の矢を撃ち込んでいきます。

「え──下手な矢も数撃ちゃ当たるって作戦?」

 とメールが目を丸くすると、ゼンが言い返しました。

「誰が下手な矢だ! いいから見てろ」

 ゼンが放った矢は、セイロスが立っている場所へ飛んでいきました。セイロスの足場に命中しますが、砕けて消滅する前にセイロスは飛びました。矢をかわしてフルートのほうへ飛びます。

 セイロスが魔弾を放つ構えをしたので、フルートは言いました。

「ポチ、下がってかわせ!」

「ワン!」

 フルートたちは後退しましたが、セイロスはさらに迫ろうとしました。行く手の空に闇の霧が集まって足場になっていきます──。

「そこだと思ったぜ!」

 ゼンの勝ち誇った声と共に、光の矢が足場に命中しました。飛び移ったセイロスの足の下から黒い板が消滅します。

 メールとポポロは歓声を上げました。

「わざと矢が行かない場所を作ってセイロスを誘導したんだね! やるじゃん、ゼン!」

 セイロスは空中に立つことはできるので、足場が消えても墜落することはありませんでした。ただ、そこから移動することができません。すぐにまた闇の霧を集めて足場を作ろうとしますが、その隙をゼンは見逃しませんでした。

「おぉら!」

 ゼンが新たに放った矢が足場をまた砕きました。さらに次の矢がセイロスの肩の後ろに命中して、鎧にまた穴を空けます。先にゼンが空けた穴はいつのまにか消えていました。新たに空いた穴もすぐに小さくなり始めます。

 そこへフルートが飛んでいきました。セイロスの魔弾をかわし、背後に回り込んで穴へ金の石を押し当てようとします。

「いけ!!」

「いって!」

 ゼンやメールやポポロが思わず声を上げます。

 

 すると、セイロスの背中から無数の棘が飛び出しました。防具が変形したのです。

 フルートとポチは突き刺されそうになって、とっさにかわしました。金の石を押し当てることができません。

 ああ! とゼンたちはまた声を上げました。フルートとポチの行方を目で追いかけます。ポポロなど、花鳥の背中の端ぎりぎりの場所に両手をついて、身を乗り出しながら見守っています。

 フルートたちはセイロスの足元をすり抜けて急上昇しました。セイロスのすぐ目の前に出ます。

 フルートとポチが至近距離に現れたので、セイロスは一瞬ぎょっとして、すぐに、にやりとしました。

「馬鹿め」

 フルートたちはセイロスの間合いに飛び込んでしまったのです。大剣でフルートを串刺しにしようとします。

 フルートは剣で大剣を停めました。両手でやっと防げるような剛力の攻撃でしたが、フルートは右手を剣から離しました。敵の攻撃が剣を押し切るのを左へ流し、同時にポチの背中を蹴って飛び上がります。

「フルート!!」

 仲間たちは驚きました。フルートがポチの背中を飛び出してセイロスに迫っています。その右手は金のペンダントを握りしめていました。黒い兜からのぞくセイロスの顔へ、拳のようにたたき込もうとします。

 セイロスの眉間に金の石が迫ります。

 するとセイロスの顔が一瞬で黒い面におおわれました。今度は兜が変形したのです。フルートの手が面おおいに当たってはじき返されてしまいます。

「ワン、危ない!」

 空中に投げ出されたフルートを、ポチはあわてて追いかけました。風の背中に拾って、セイロスから飛んできた魔弾をかわします。

「ああもう! あいつ顔も守れるんじゃないのさ!」

 とメールはわめきました。

「ワン、大丈夫ですか?」

 とポチはフルートの心配をしました。はじき返された右手を左手で押さえていたからです。

「大丈夫、少ししびれただけだ」

 とフルートは言って、セイロスをにらみました。セイロスは黒い面おおいで顔を隠してしまっていました。これでもうセイロスの体にむき出しになっているところはありません。金の石を押し当てようとしたら、聖なる攻撃で闇の防具に穴を空けるしかないのです。

「ちっくしょう!」

 ゼンが光の矢を射たので、セイロスはフルートから離れました。また闇の足場を作って空を移動していきます。

 

 ポポロは花鳥からいっそう身を乗り出しました。足場を踏むセイロスとポチに乗ったフルートが、回り合うようにしながら互いに隙を狙う様子を見つめます。

 彼女があまり端に寄っていたのでメールが注意しました。

「もうちょっと真ん中にいなよ。そのままじゃ落ちるよ」

「ううん、大丈夫」

 とポポロは言って、食い入るようにフルートたちを見つめ続けます。

 そのとき、突然セイロスが彼らを振り向きました。鳴り響くような声でどなります。

「貴様、なにをするつもりだ!?」

 ゼンとメールは驚いて、思わずまたポポロを見ました。フルートとポチも振り向きます。

 ところがポポロも目を見張って驚いていました。彼女は魔法を使おうとしてはいなかったのです。混乱してとまどっています。

「なにさ、いったい──」

 と言いかけたメールの声に、フルートの声が重なりました。

「後ろだ!! よけろ!!」

 仲間たちは、ぎょっと振り向き、そこに寄り集まった闇の霧を見ました。黒い入道雲のように空にそそり立っています。

「やべぇ!」

 ゼンは弓矢を構えました。首筋の後ろがじんじん痛みます。

 メールは花鳥を雲から離そうとします。

 すると、雲の頂が音もなく崩れてきました。尖った先端がこちら側へ落ちてきます。

 ゼンは矢をたてつづけに放ちましたが、雲は巨大すぎました。光の矢が一瞬で消滅してしまいます。雲は崩れ続けます。

 すると、尖った雲の先端がさらに鋭くなりました。ねじれながら細くなって、まるで研ぎ澄まされた槍の穂先のようになっていきます。

「やべ、逃げ──」

 ゼンがまた言いかけたとき、穂先が動きました。

 空の高みから花鳥めがけて目にも止まらない速さで落ちてきます。

 穂先は鳥を貫きました。青と白の星のような花が空に飛び散ります。

 花鳥と一緒に闇の槍に貫かれたのは、鳥の背中で身をすくめていたポポロでした──。

2023年4月30日
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