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第28巻「闇の竜の戦い」

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第70章 最終決戦・6

197.最終決戦・6-1

「行くぞ! 今度こそ本当に決着をつけてやる!」

 とフルートはポチと一緒に飛び出していきました。

 花鳥に乗ったゼンとメールとポポロは、ガラスのような障壁の前に残りました。ゼンが弓に光の矢をつがえて引き絞ります。

 フルートたちの行く手にはデセラール山がそびえ、その手前にセイロスが浮いていました。どす黒い霧が煙のように周囲で渦巻いています。

「ワン、あれは闇の霧だってポポロが言ってましたよね。嫌な感じだな」

 とポチが言ったので、フルートはうなずきました。

「デビルドラゴンが結界の中に残していったものだからな。セイロスが利用するかもしれない」

「ワン、攻撃に? それとも防御に利用するのかな?」

「わからない。でも、とにかく奴に接近しないとこれが使えないからな」

 フルートは剣を持つ右手にペンダントを絡ませていました。防具におおわれた手首で、鎖と金の石がブレスレットのように輝いています。彼らはこの石をセイロスに押し当てて、中にいるデビルドラゴンごと倒そうとしているのです。

「願い石に消滅を願うわけじゃないから、セイロスもデビルドラゴンも完全に消えるわけじゃない。でも、今この場所からは撃退できるし、聖なる光に焼かれるわけだから、復活してくるのにも時間がかかるだろう。もしかしたら何百年も何千年もかかるかもしれない──」

 フルートは急に黙りました。悔しさと後ろめたさの入り混じった感情の匂いがポチの鼻をつきます。たとえ何千年も後のことでも、デビルドラゴンが復活すれば、世界はまた光と闇の戦場になってしまいます。敵を永遠に消し去れないことに、フルートは胸を痛めているのです。

 フルートが願い石を呼び出すのではないか、とポチははらはらしました。こんなときいつもフルートを引き留めてくれるポポロは、今は花鳥に乗って後方に離れています。

 

 けれども、後悔に似た感情の匂いはフルートからすぐに消えました。行く手のセイロスを見据えて剣を握り直します。

「ポチ、聞こえるね?」

 ごくごく低い声でフルートは言いました。耳がよいポチでなければ聞こえないようなささやきです。

「ここにはデビルドラゴンがいないから、セイロスはあそこから移動することができない。奴の回りを飛びながらいろんな方向から攻撃しよう。ゼンも後ろから援護してくれる。攻撃を防ごうとしたとき、必ず隙が生まれるはずだ」

「ワン、セイロスに隙ができたら突進すればいいんですね?」

「そうだ。奴の顔を狙うつもりだけれど、うまくいけばゼンの矢が防具を溶かすかもしれない。そこに金の石を押し当てたら同時に願い石に手伝ってもらう。奴の体はデビルドラゴンとつながっているから、必ず両方にダメージを与えられるはずなんだ」

「ワン、さっきフルートがセイロスを攻撃したダメージも、デビルドラゴンに伝わっていましたもんね。わかりました。とにかくセイロスの周りを飛び回って攻撃しましょう」

「頼む」

 そのときにはセイロスはもう目の前まで迫っていました。障壁のように周囲に闇の霧を引き寄せて、霧の隙間から彼らをにらみつけています。

「よし、行こう!」

 フルートの声に、ポチはセイロスへ突進していきました──。

 

「始まったぞ」

とゼンは弓を引き絞りました。狙いを定めて矢を放つと、フルートとポチの横をかすめてセイロスへ飛びます。

 セイロスが黒い霧をマントのように引き寄せて矢を防いだので、メールは顔をしかめました。

「闇の霧を防御に使ってるんだね。フルートたちにも邪魔だよ、あれ。消せないかい?」

「やってみるか」

 とゼンは連射を始めました。鋼のように強力な弓をいともたやすく引いては、光の矢を雨あられと放ちます。

 矢はフルートたちをすり抜けてセイロスへ飛びました。セイロスがまた闇色のマントで防ぎますが、矢が消滅するのと同時に闇の霧のほうも消えていきました。黒い霧の膜にぽっかり穴が空きます。

 ポチはためらうことなく穴へ飛び込んでいきました。フルートが光炎の剣をセイロスへ振り下ろします──。

 ガギン!

 セイロスが大剣でフルートの剣を受け止めました。

 そのまま力任せに押し返したので、フルートとポチは跳ね飛ばされてしまいました。フルートは空を飛ぶスピードも剣に乗せて切りつけたのですから、大変な力です。

「よけろ、ポチ!」

 とフルートに言われて、ポチはとっさに高度を下げました。フルートの頭上すれすれをセイロスの剣がかすめていきます。

「ワン、剣が伸びた!?」

 届くはずのない攻撃が届いたのでポチが驚くと、フルートは言いました。

「闇の霧がセイロスの剣に同化して伸びたんだ。あの霧は防御にも攻撃にも使えるらしい」

 セイロスの大剣はフルートに切りつけた後、先端から溶けるように霧になって、元の長さに戻りました。黒い霧がカーテンのように集まってセイロスを守ろうとします。

 そこへまたゼンが大量の矢を放ってきました。闇のカーテンに次々突き刺さって大穴を空けます。

 ポチはそこからまた飛び込んでセイロスの間合いに入りました。剣をかわして飛び回り、足元を抜けて背後に回ります。

 フルートは剣で切りつけました。下から上へ。セイロスの防具の背中を切り裂こうとします。

 ガシッ

 剣がまた受け止められました。セイロスが脇から背後に大剣を突き出したのです。今度は下へフルートたちを跳ね飛ばします。

「まだまだ! 回れ、ポチ!」

 とフルートに言われてポチは飛び続けました。セイロスの周囲を角度を変えながら飛び回って攻撃の隙を狙います。

 

 すると黒い光の弾がセイロスから飛んできました。魔弾です。向きを変えて追ってくるのでフルートが切り払うと、光と熱を放って燃え尽きます。

「──!」

 フルートは反射的に剣を返しました。

 燃える魔弾を貫いて黒い刃が飛び出してきたのです。光炎の剣で受け止めて跳ね返しますが、反動で自分たちも飛ばされます。セイロスが魔弾の閃光をめくらましに、剣を伸ばしてきたのでした。フルートの反応が一瞬でも遅かったらフルートもポチも真っ二つだったので、ポチは思わず背中の毛を逆立てます。

 すると、セイロスからまた魔弾が飛んできました。今度は複数です。様々な軌道を描きながら、フルートたちに襲いかかってきます。

 ポチが後退してかわそうとすると、フルートがどなりました。

「退くな! 前だ!」

「ワン、でも──」

 魔弾は四方八方から押し寄せていました。フルートひとりでは払いきれないし、ポチにもかわしきれません。しかも切り払って燃えた魔弾の後ろから、またセイロスの剣が伸びてくるかもしれないのです。

 すると、彼らの後ろからまた銀の矢が飛んできました。魔弾に次々命中して破壊していきます。ゼンの援護射撃でした。あっという間に全部の魔弾を砕いてしまいます。

 魔弾が消えた後ろに剣を構えるセイロスが現れたので、フルートとポチはそこへ突進しました。セイロスに切りつけると見せて、また背後に回ります。

 セイロスが空中で振り向きました。相変わらず空の一点から動くことができないのです。切りつけたフルートの剣を受け止めます。

 ガシン!

 刃と刃がぶつかり合います。

 そこへゼンの新たな矢が飛んできて、ずん、とセイロスの背中に命中しました。背中に隙が生まれていたのです。残念ながら矢は黒水晶の防具で止められましたが、矢が光って消えた痕に穴が空いていました。穴から服を着たセイロスの背中がのぞいています。

「おら、もういっちょう!」

 ゼンが背中の穴めがけてまた矢を射たので、セイロスは振り向きました。黒い刃を伸ばして光の矢を切り捨てます。

 その拍子にセイロスの背中がフルートたちを向きます。

 ポチはすかさず飛び出しました。フルートも素早く剣を左手に移し、右手首の下で揺れていた金の石を握ります。

「金の石! 願い石!」

 精霊たちを呼びながら金の石をセイロスの背中に押し当てようとします──。

 

 すると。

 セイロスの体が横に飛びました。

 フルートの金の石を避けながら空中を転がり、別の場所で跳ね起きます。

 セイロスの足元には黒い霧が雲のように寄り集まっていました。セイロスは雲の上に立っています。

「あ、あの野郎、動きやがった!」

 とゼンはどなりました。

「闇の霧って足場にもなるんだ!」

 とメールも叫びます。

 セイロスが思いがけず飛び退いたので、フルートとポチは面食らっていました。伸びてきた闇の剣がフルートの右腕を切り落とそうとしたので、ポポロが悲鳴を上げます。

「フルート──!」

 そのとたん、フルートの手の中で金の石が輝きました。闇の刃を一瞬で溶かしてフルートを守ります。

 セイロスはさらに飛び退きました。闇の雲が六角形の黒い板のようになって、セイロスの飛ぶ先々に足場を作っています。

「やべぇ! 今度はフルートが回り込まれるぞ!」

 とゼンはまた矢を放ちました。セイロスが足場を踏んでフルートたちの背後に向かっていたのです。光の矢は足場を消しましたが、セイロスはもう別の足場を踏んでいました。闇の霧を呼び寄せて、無尽蔵に足場を作っていきます。

 ゼンは歯ぎしりしました。

「ここからじゃ遠くて矢が間に合わねえ! もっと近くへ行け、メール!」

「あいよ!」

 メールはすぐに花鳥を前進させました。戦うフルートとセイロスの頭上へ向かいます。

「フルート……!」

 ポポロは花鳥から身を乗り出すようにして戦いを見つめていました。

2023年4月27日
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