「ねぇねぇ、デーちゃん、どぉして勇者くんたちをみんなに見せてるわけぇ?」
とランジュールは自分を取り込んでいるデビルドラゴンに尋ねました。
ここはデビルドラゴンの内側です。幽霊のランジュールはデビルドラゴンに取り込まれてしまいましたが、消失することもなく同居しています。
少し待ってもデビルドラゴンから返事がないので、ランジュールはまた話し出しました。
「デーちゃんが勇者くんたちを結界に閉じ込めたのは理解できるよぉ。まわりにこぉんなに勇者くんたちの味方が集まってきてるもんねぇ。えぇと、皇太子くんとその奥さんでしょ、イケメン銀髪の占者のお兄さんでしょ、ロムドの四大魔法使いでしょ、ユラサイ国の帝くんは飛竜の大軍を連れてきてるし、天空の国の魔法使いさんたちもお人形さんたちを連れてるし、ヒムカシの国の妖怪たちもいるし、それからえぇと……人間の味方もハルマスにいっぱい! みぃんな勇者くんたちを助けよぉとして集まってきちゃってるんだよねぇ。いくらデーちゃんとセイロスくんでも、これだけの人数を一度に相手にするのは大変だもん、勇者くんたちだけ切り離して、そこでじっくり戦おうとするのは当然だよねぇ。うん。でぇもねぇ──どぉして結界の中があんなふうに見えるわけぇ? 結界っていったら見えなくなるのが普通だよねぇ? これじゃ、いくら切り離したって、勇者くんたちとセイロスくんの様子は敵に丸見えじゃない。それでいいわけぇ?」
「見タイ奴ニハ見セテヤレ。イズレ連中ハ絶望ノ中ニ突キ落トサレルダロウ」
とデビルドラゴンが答えました。
とはいっても、ここはデビルドラゴンの内側です。デビルドラゴン自身はこうしている瞬間も神竜と絡み合って戦っています。
ふぅん? とランジュールは探るような声を出しました。
「ということはぁ、デーちゃんはわざと勇者くんたちとセイロスくんの戦いをみんなに見せてるんだねぇ? なんでかなぁ? 勇者くんたちがセイロスくんに勝っちゃったら、みぃんな大喜びするんじゃないのぉ?」
「連中ハ我ニハ勝テヌ。世界ハ絶望スルダロウ」
とデビルドラゴンは繰り返します。
すると、チチッ、と声がしました。ランジュールと一緒に取り込まれた幽霊蜘蛛のアーラが話しかけたのです。
え、なぁにぃ? と応えたランジュールは、すぐにあきれた声になりました。
「なにこれぇ!? 勇者くんたちの様子が見えるのって、ここだけじゃないのぉ!? あれってエスタの王様だよねぇ? こっちにいるのはテト国の女王様だぁ。その他にもあっちこっちで、ものすごくいっぱいの人が見てる。なぁんでぇ!?」
デビルドラゴンは世界中に闇の怪物を配置して、各地の映像を送らせていたのです。それがデビルドラゴンの意識を透かして、ランジュールたちにも見えたのでした。
「天空王ノ魔法ダ。世界中ニコノ光景ヲ送リ出シテイル」
とデビルドラゴンは答えました。
「世界中にぃ? それって大丈夫なのぉ? 天空王さま、きっと何か企んでるよぉ?」
ランジュールが聞き返したとたん、デビルドラゴンは笑いました。
いえ、内側にいるのですから、竜の笑った顔は見えません。ただ、ランジュールやアーラには、デビルドラゴンが笑ったことがはっきりわかったのです。
ほくそ笑むような声で、デビルドラゴンは言いました。
「皆デ見守ルガイイ。勇者タチガ我ニ敗レテイク様子ヲナ。ソウシテ、世界中ヲ連中ノ絶望デ染メアゲルノダ」
それを聞いて、ランジュールは少しの間考え込みました。
やがて、なるほどねぇ、と言います。
「確かに、みぃんなが見てる前で勇者くんたちが敗れたら、見てるみんなは絶望するよねぇ。そぉなれば、デーちゃんが大好きな闇の想いが世界中に大発生して、デーちゃんはそれを吸収して最強になれる。ははぁ、なぁるほど、そぉいう作戦かぁ」
ランジュールはしきりに納得しましたが、デビルドラゴンは、そうだ、とも、違う、とも言いません。
ランジュールはまた疑うような声になりました。
「だけどさぁ、もしも勇者くんがセイロスくんに勝っちゃったら? そしたらどぉするつもりぃ? みんな大喜びして、デーちゃんは逆に弱っちゃうんじゃないのぉ? デーちゃんは竜の皆さんにこっち側に引き留められて、セイロスくんの応援に行けないのにさぁ」
デビルドラゴンはやっぱり何も答えません。
ランジュールはますます疑わしい声になりました。
「やぁっぱり、なんか変だなぁ……? 世界中が監視できるコトだってそぉだよ。こんな芸当ができるんなら、どぉしてもっと早くやらなかったのさぁ? そしたらセイロスくんだって苦労しないで世界征服できたはずなのにぃ」
「ソレハ我ノセイデハナイ。せいろすノ責任ダ」
と闇の竜は言いました。それきりあとは本当に何も言わなくなってしまいます。
ランジュールは、うぅん、と考え込みました。
デビルドラゴンが何かを企んでいるのは確かなので、もう少し深く相手の意識に下りていけば、隠していることも見えるかもしれません。けれども、それをするとデビルドラゴンの体とも強くつながってしまうので、神竜や竜たちから受けている攻撃が、もろにランジュールにも伝わってしまうのです。
「痛いのはイヤだなぁ。アーラちゃんもイヤだよねぇ?」
とランジュールは言い、アーラの返事を待たずに言い続けました。
「ま、このまま見てれば、どっちが勝つのかも、デーちゃんが何を企んでるのかもわかるかぁ。うん、観戦決定。果報は寝て待て。のんびり眺めてよぉねぇ、アーラちゃん」
チ、とアーラがまた鳴きました。ちょっと抗議するような声です。
うふふ、とランジュールが笑います。
「まぁまぁ、ボクたちも焦らずにいこぉよぉ。そのうち、ここから脱出するチャンスもあるかもしれないんだからさぁ。ふふふふ……」
のんびりした中に抜け目なさをのぞかせて、ランジュールの笑い声は聞こえなくなっていきました──。