「あれれぇ!? セイロスくんがデーちゃんから離れちゃったよぉ! どぉいうことぉ!?」
セイロスがデビルドラゴンの背中を離れて戦いだしたので、ランジュールは驚きました。
彼と大蜘蛛の幽霊のアーラは今、セイロスとデビルドラゴンの内側に取り込まれています。返事を待っていると、デビルドラゴンの声が聞こえてきました。
「離レタワケデハナイ。せいろすト我ハ今モツナガリアッテイル。ソノツナガリガ世界カラ見エナクナッテイルダケダ」
「へぇ? ヒムカシの国では人間の体と魂が紐みたいな玉の緒でつながってる、って言われてたけど、そんな感じぃ?」
とランジュールは聞き返しましたが、デビルドラゴンは、そうだとも違うとも言いませんでした。セイロスの声も聞こえてきません。
ランジュールは口を尖らせました。
「ふぅん。つながってるけど、こっちの声はセイロスくんには聞こえないみたいだねぇ。セイロスくんが考えてるコトも伝わってこないし。ボクたちはデーちゃんのほうにいるってコトかぁ」
デビルドラゴンはやっぱり返事をしません。
ランジュールは勇者の一行と戦うセイロスを眺めました。デビルドラゴン自身は神竜と戦っていますが、その視界に入っているものはランジュールにも見ることができるのです。
セイロスはデビルドラゴンの背中から棘のように伸びるうろこにつかまり、フルートと同じ高さまで飛び上がって戦っていました。地面に立つように空中に降り立っては切りつけるセイロスに、ランジュールはまた、ふぅん、と言いました。
「相変わらずセイロスくんは空中を飛んで移動できないんだねぇ。デーちゃんとつながってるせいかしら? だからうろこの棘を使うのかぁ──ととと、勇者くん危ぁい!」
フルートがセイロスの剣に切り伏せられそうになったので、ランジュールは声を上げました。
ペルラが戦人形と駆けつけて、水のナイフでフルートをセイロスの前から助け出します。
「もぉ、勇者くんったら、危なっかしいなぁ。勇者くんを殺してあげるのはこのボクなんだから、セイロスくんなんかに殺されちゃダメなんだよぉ。わかってるのかなぁ」
とランジュールがぶつぶつ言っている間に、うろこの棘がまた伸びてペルラと戦人形を取り囲みました。最後に伸びた棘につかまってセイロスが飛び上がり、ペルラへ剣を振り下ろします。
ペルラが切られた──と見えた瞬間、戦人形が素早く背を向けました。ペルラをかばって人形が真っ二つになります。
人形はペルラを抱いたまま落ちていきました。もう半分の人形は腕に小犬のシィを抱いています。彼らの下にはデビルドラゴンの体がありました。黒光りがするうろこにおおわれた小山のような体です。
「デーちゃんは肉体じゃないからねぇ。あの海のお姫様は、ボクたちみたいにデーちゃんに食われるよねぇ。そしたらお姫様もここに来るのかなぁ。やだなぁ。うるさくなりそぉ」
ところが、落ちていくペルラに飛んで追いついたものがありました。ビーラーに乗ったレオンです。ペルラを抱き取りツバメのように身をひるがえしてまた上昇していきます。
シードッグのシィにはメールが花鳥の蔓を伸ばしていました。こちらも墜落する前に捕まえて引き上げます。
戦人形は真っ二つになったままデビルドラゴンの背中に落ちました。じゅぅっという音と煙を立てて溶けていきます──。
「やっぱりだ。デビルドラゴンに接触すると、物質は分解されて吸収されるんだ」
とレオンは言いました。その腕には助け出したペルラがいます。
ペルラはレオンの首にしがみついて落ちないようにしていましたが、戦人形が消滅したのを見て青くなりました。
「人形が──! 消えちゃったわよ!?」
「しかたない。あっちまで助ける余裕はなかったからな」
とレオンは答えると、ちょっと顔をそらして眼鏡を押し上げました。ペルラの顔が間近にあるので、思わず赤くなった顔を見られないようにしたのです。
ところがペルラはそんなレオンの顔をぐいと引き戻しました。
「しかたない、じゃすまないじゃない! 戦人形の戦闘力がなくなっちゃったのよ!? デビルドラゴンと戦うのに必要だったのに、あたしがへまをしたから──! あたしのせいだわ!」
ペルラが涙ぐんでしまったので、レオンはげんなりした表情になりました。また顔をそらして言います。
「戦人形はぼくの命令に従っただけだ。君のせいなんかじゃない」
「命令って?」
とペルラに聞き返されて、レオンはますます視線を遠くへ向けました。
「君とシィを最優先で守るように命じておいたんだ。だから人形は君たちをかばったんだよ」
え? とペルラがきょとんとすると、彼らの下でビーラーがにやにやしながら言いました。
「レオンには戦人形よりペルラのほうが大事だったってことさ。だから気にすることなんてないんだよ」
「ビーラー!」
本音を暴露されてレオンは赤くなりました。ペルラが喜んで首に抱きついてきたので、ますます赤くなってしまいます。
「と、とにかくフルートたちのところへ行こう。戦闘は続いているんだ」
と話題を変えたレオンに、ビーラーがまた言いました。
「彼女をぼくに乗せてみろよ。たぶん大丈夫だ」
そこでレオンはペルラをそっとビーラーの背中に下ろしてみました。ビーラーの風の体がペルラをしっかりと支えます。
「ほらな? レオンの未来の奥さんだものな。乗せられるのは当然さ」
とビーラーがまたからかったので、レオンは背中をつねり返しました。
「いいから行け! 彼らを援護するぞ!」
そこでビーラーも真面目な顔になって飛び始めました。
ペルラはレオンの腰にしがみついて背中に頬を押し当てます。
「ねえ、レオン。激戦中だしデビルドラゴンもすぐ近くにいるんだけどね。あたし、すごく幸せだわ」
とペルラは言いました。素直で情熱的なのは海の民の特徴です。レオンは背中を向けたまま返事をしませんでしたが、その両耳が真っ赤になっていったので、ペルラはくすくす笑い出しました。
「ほんと、素直じゃないわね」
楽しそうに言うペルラと、相変わらず赤い顔をしているレオンを乗せて、ビーラーはまたフルートたちのほうへ飛んでいきました──。